御曹司は、なぜか私にだけ優しい

屋上。

夕日がゆっくり沈んでいく。

結菜の涙は止まらなかった。

神城は静かに言った。

「泣くな」

そう言いながら、ハンカチを差し出す。

結菜は受け取った。

「……ありがとう」

少し落ち着いてから言う。

「でも神城くん」

「ん?」

「私はやっぱり」

言葉が震える。

「神城くんの邪魔になりたくない」

神城はしばらく黙っていた。

そして言った。

「邪魔?」

「うん」

「そんなこと誰が決めた」

結菜は小さく言う。

「お父さん」

その瞬間。

神城の表情が少し変わった。

でもすぐに落ち着いた声で言う。

「父さんは父さん」

「俺は俺」

そして続けた。

「俺の人生は」

結菜を見る。

「俺が決める」

その言葉は強かった。

結菜の胸がまたドキドキする。

そのとき。

屋上のドアが開いた。

「蓮」

低い声。

振り向くと――

神城の父が立っていた。

結菜の体が固まる。

「父さん」

神城は落ち着いていた。

神城の父はゆっくり歩いてくる。

「話は聞こえていた」

静かな声だった。

そして結菜を見る。

「小林さん」

結菜は緊張して立ち上がる。

神城の父は言った。

「昨日はすまなかった」

結菜は驚く。

「え?」

神城の父は続ける。

「君を試すようなことを言った」

結菜は何も言えない。

神城の父は神城を見る。

「蓮」

「……」

「本気か」

神城は迷わなかった。

「本気」

すぐ答えた。

神城の父は少し黙る。

そして聞く。

「会社を継ぐ責任もある」

「わかってる」

「婚約の話もある」

神城ははっきり言った。

「断る」

空気が張りつめる。

結菜の心臓が早くなる。

神城の父はゆっくり言った。

「それは簡単なことじゃない」

「わかってる」

神城は結菜の方を見る。

そして言った。

「それでも」

「小林を選ぶ」

夕日が沈みかけている。

神城の声は静かだけど強かった。

「俺が好きなのは」

「小林だけだから」

結菜の目から涙があふれる。

神城の父はしばらく二人を見ていた。

そして小さく息をつく。

「蓮」

「……」

「初めてだな」

「え?」

「お前がそこまで言うのは」

神城の父は少しだけ笑った。

「いいだろう」

結菜は驚く。

神城も少し目を見開いた。

「父さん?」

神城の父は言った。

「会社も」

「人生も」

「本気で守るなら」

そして結菜を見る。

「中途半端は許さない」

神城はうなずいた。

「わかってる」

神城の父は静かに言った。

「なら好きにしろ」

その言葉に。

結菜は信じられない気持ちだった。

神城は小さく笑う。

「ありがとう」

神城の父は屋上を出ていった。

静かな風が吹く。

結菜は涙を拭いた。

「神城くん」

「ん?」

「本当にいいの?」

神城は少し笑う。

「今さら」

そして言った。

「後悔してない」

結菜を見る。

「むしろ」

少し優しく笑った。

「やっと言えた」

夕日が消えるころ。

二人の恋は、やっと本当のスタートを迎えた。