御曹司は、なぜか私にだけ優しい

次の日の朝。

結菜は学校の門の前で立ち止まっていた。

(どうしよう……)

昨日の神城の言葉が頭から離れない。

「好きだ」

あんな風に言われたのは初めてだった。

嬉しかった。

でも同時に怖かった。

そのとき、黒い高級車が校門の前に止まった。

周りの生徒たちがざわつく。

「またあの車…」
「すごい…」

ドアが開く。

中から降りてきたのは――

スーツ姿の男性だった。

背が高くて、落ち着いた雰囲気。

どこか神城に似ている。

(まさか……)

その人は真っすぐ結菜の方へ歩いてきた。

そして言った。

「君が小林さんかな」

結菜は緊張してうなずく。

「は、はい」

男性は静かに言った。

「私は神城蓮の父です」

やっぱりだった。

結菜の心臓が早くなる。

周りの生徒たちもざわざわしている。

神城の父は言った。

「少し話がしたい」

結菜は小さくうなずいた。

学校近くのカフェ。

結菜は緊張して座っていた。

神城の父はコーヒーを置いて言った。

「昨日のことは聞いた」

「……」

「息子を助けてくれてありがとう」

結菜はびっくりする。

「え?」

「蓮は昔から人に興味がない」

静かな声だった。

「だが君には違うらしい」

結菜は下を向く。

神城の父は続けた。

「だが」

少し表情が変わる。

「蓮には将来がある」

「……」

「会社」

「家」

「責任」

重い言葉だった。

そして言った。

「君は優しい子だと思う」

「だからこそ」

「蓮から離れてほしい」

結菜の胸がぎゅっと痛くなる。

わかっていたことだった。

でも。

実際に言われると苦しい。

結菜は小さく言った。

「……わかりました」

神城の父は少し驚いた顔をする。

結菜は続けた。

「私も」

声が震える。

「そう思っていました」

好きでも。

この恋は難しい。

そう思った。

その日の放課後。

結菜は神城を屋上に呼んだ。

夕日がきれいだった。

神城が来る。

「どうした」

結菜は少し笑った。

「神城くん」

「ん?」

「ありがとう」

神城が不思議そうな顔をする。

「急にどうした」

結菜は言った。

「私」

深呼吸する。

そして。

「もう会わない方がいいと思う」

空気が止まった。

神城の目が揺れる。

「……なんで」

結菜は下を向く。

「神城くんは」

「すごい人だから」

「私は普通の高校生」

「だから」

そこまで言ったとき。

神城が言った。

「父さんか」

結菜の肩がびくっと動く。

神城はため息をつく。

「やっぱりな」

そして。

結菜の前に立った。

「小林」

「……」

「それでも離れる?」

結菜の目に涙が浮かぶ。

好きだから。

離れなきゃいけない。

そう思った。

でも。

神城は言った。

「俺は」

まっすぐ結菜を見る。

「離れない」

夕日が二人を照らしていた。

神城の声ははっきりしていた。

「家でも」

「会社でも」

「全部どうでもいい」

そして。

「小林の方が大事」

結菜の涙がこぼれた。