御曹司は、なぜか私にだけ優しい

病院からの帰り道。

空はもう暗くなっていた。

神城の家の車で送ってもらった結菜は、少し緊張していた。

腕は軽い打撲だけで、大きなケガではなかった。

でも神城はずっと心配そうだった。

「本当に痛くないか?」

「うん、大丈夫」

神城は納得していない顔をしている。

結菜は少し笑った。

「神城くん、心配しすぎ」

すると神城は小さく言った。

「当たり前だろ」

その声が優しくて、結菜の胸がまたドキドキする。

車が家の前で止まった。

「送ってくれてありがとう」

結菜がそう言って降りようとしたとき。

神城が言った。

「小林」

「え?」

「明日、学校休むな」

「え?」

突然だった。

神城は少し困った顔をしている。

「家の人が来る」

結菜は意味がわからなかった。

「家の人?」

神城はため息をつく。

「俺の親」

結菜の心臓が止まりそうになる。

「え……?」

神城は静かに言った。

「今日のこと」

「たぶんもう知ってる」

御曹司の家。

大企業の社長。

そんな人たちが――

結菜の存在を知る。

急に怖くなった。

(私……)

そんな世界に関わっていいの?

結菜は小さく言った。

「神城くん」

「ん?」

「私……」

少し迷ってから言う。

「距離置いた方がいいと思う」

神城の表情が止まった。

「……は?」

結菜は下を向く。

「神城くんの世界、私と違う」

「だから」

「もう関わらない方が――」

そのとき。

神城が結菜の手をつかんだ。

「なんで」

低い声だった。

結菜はびっくりして顔を上げる。

神城の目は真剣だった。

「俺がいいって言ってる」

「でも……」

「関係ない」

神城ははっきり言った。

「家とか」

「婚約とか」

「全部」

結菜の目が揺れる。

神城は続けた。

「俺が決める」

そして。

結菜をまっすぐ見た。

「小林」

「……」

「俺のこと」

少しだけ声がやわらぐ。

「好きだろ」

結菜の顔が一瞬で赤くなる。

「え……!」

言葉が出ない。

神城は小さく笑った。

「わかる」

そして静かに言った。

「俺もだから」

時間が止まったみたいだった。

結菜の心臓が強く鳴る。

「え……」

神城ははっきり言う。

「好きだ」

夜の静かな空気の中。

その言葉は、はっきり聞こえた。

結菜の目に涙が少し浮かぶ。

「でも……」

神城は言った。

「だから」

結菜の手を少し強く握る。

「離れるな」

その声は優しかった。

でも強かった。

「俺のそばにいろ」

その言葉に。

結菜の胸は、もう隠せないくらいドキドキしていた