御曹司は、なぜか私にだけ優しい

「大事な人だ」

神城の言葉のあと。

校門の前が静まり返った。

結菜の心臓はバクバクしている。

(今の……)

頭が真っ白だった。

莉子は少しだけ笑った。

でもその笑顔は、冷たかった。

「そう」

小さく言う。

「蓮がそんなこと言うなんて」

そして結菜を見る。

「面白いわね」

その視線に、背中がぞくっとする。

神城は言った。

「莉子」

「なに?」

「帰れ」

はっきりした声だった。

周りがざわつく。

莉子は少し驚いた顔をする。

「ひどい」

「用事は終わった」

神城は冷たく言った。

「小林に関わるな」

その言葉に、結菜の胸がまたドキッとする。

莉子はしばらく神城を見ていた。

そして小さく笑った。

「わかった」

でも。

帰る前に、結菜の耳元で言った。

「気をつけて」

「え?」

「蓮の世界は」

少しだけ声を低くする。

「あなたが思ってるより、ずっと大変よ」

そう言って車に乗って帰っていった。

黒い車が遠くに消える。

校門の前の生徒たちがざわざわしていた。

「婚約者って本当?」
「ドラマみたい」

結菜は動けなかった。

すると神城が言った。

「行くぞ」

「え?」

「教室」

歩き出す神城の後ろを、結菜はついていく。

廊下に入ると、少し静かになった。

結菜は勇気を出して言った。

「さっきの」

神城が止まる。

「……大事な人って」

神城は少しだけ困った顔をした。

「困るか?」

「え!?」

「嫌なら訂正する」

そんなこと言われると、余計に混乱する。

結菜は慌てて首を振る。

「ち、違う!」

顔が真っ赤になる。

神城はそれを見て少し笑った。

「じゃあいい」

また歩き出す。

結菜は胸を押さえる。

(なんでこんなにドキドキするの……)

たぶん。

もう気づいている。

自分の気持ちに。

結菜は。

神城蓮のことを――

好きになり始めていた。