その日の午後。
相沢凌はカルテ室の奥にある保管棚の前に立っていた。
電子カルテが主流になった今でも、
昔の記録は紙のカルテとして残されている。
棚には年代ごとに箱が並んでいた。
2018年。
八年前の記録。
「もし本当にあるなら……」
凌は箱を一つ取り出した。
分厚いカルテの束が入っている。
患者の名前が書かれた背表紙を一つずつ確認していく。
十冊。
二十冊。
三十冊。
その時だった。
凌の手が止まった。
そこに、少し古びたカルテがあった。
背表紙には番号だけが書かれている。
404
「……あった」
凌は静かにカルテを開いた。
最初のページには患者の基本情報。
患者名:神谷 陽斗(かみや はると)
年齢:17歳
「高校生……?」
入院理由は交通事故だった。
自転車で帰宅途中、車と接触。
重症ではなかった。
検査結果も安定している。
本来なら、数日で退院できるはずだった。
だが、ページをめくった瞬間――
凌の眉がひそめられた。
あるページだけ、
紙が不自然に破られていた。
まるで、誰かが意図的に引き抜いたように。
「……」
その直後だった。
背後で扉が開く音がした。
「相沢くん」
低い声だった。
振り返ると、白衣の男が立っていた。
高倉 恒一。
この病院のベテラン医師だ。
凌はカルテを閉じた。
「どうしたんですか?」
高倉はゆっくり近づいてきた。
そして、凌の手元のカルテを見た。
その瞬間。
高倉の表情がわずかに変わった。
「……そのカルテ」
静かな声で言う。
「どこで見つけた?」
凌は答えた。
「保管棚です」
高倉はしばらく黙っていた。
やがて、低く言った。
「それはもう終わった患者だ」
「終わった……?」
「そうだ」
高倉はカルテを指差す。
「その記録は、もう必要ない」
カルテ室の空気が重くなる。
凌はゆっくり言った。
「でも、電子カルテでは更新履歴が残っていました」
その言葉に、高倉の動きが止まった。
「……何を言っている?」
凌はまっすぐ見た。
「八年前に死亡した患者のカルテが、
最近更新されています」
沈黙。
そして次の瞬間。
高倉は静かに言った。
「相沢くん」
「はい」
「そのカルテは――」
一拍置いて、言った。
「もう調べないほうがいい」
その言葉は、忠告にも、警告にも聞こえた。
だが凌は思った。
もし本当に何もないのなら。
なぜ、みんな止めようとするのか。
カルテ番号404。
神谷陽斗。
そして消されたページ。
真実はまだ、
この病院のどこかに残っている。
相沢凌はカルテ室の奥にある保管棚の前に立っていた。
電子カルテが主流になった今でも、
昔の記録は紙のカルテとして残されている。
棚には年代ごとに箱が並んでいた。
2018年。
八年前の記録。
「もし本当にあるなら……」
凌は箱を一つ取り出した。
分厚いカルテの束が入っている。
患者の名前が書かれた背表紙を一つずつ確認していく。
十冊。
二十冊。
三十冊。
その時だった。
凌の手が止まった。
そこに、少し古びたカルテがあった。
背表紙には番号だけが書かれている。
404
「……あった」
凌は静かにカルテを開いた。
最初のページには患者の基本情報。
患者名:神谷 陽斗(かみや はると)
年齢:17歳
「高校生……?」
入院理由は交通事故だった。
自転車で帰宅途中、車と接触。
重症ではなかった。
検査結果も安定している。
本来なら、数日で退院できるはずだった。
だが、ページをめくった瞬間――
凌の眉がひそめられた。
あるページだけ、
紙が不自然に破られていた。
まるで、誰かが意図的に引き抜いたように。
「……」
その直後だった。
背後で扉が開く音がした。
「相沢くん」
低い声だった。
振り返ると、白衣の男が立っていた。
高倉 恒一。
この病院のベテラン医師だ。
凌はカルテを閉じた。
「どうしたんですか?」
高倉はゆっくり近づいてきた。
そして、凌の手元のカルテを見た。
その瞬間。
高倉の表情がわずかに変わった。
「……そのカルテ」
静かな声で言う。
「どこで見つけた?」
凌は答えた。
「保管棚です」
高倉はしばらく黙っていた。
やがて、低く言った。
「それはもう終わった患者だ」
「終わった……?」
「そうだ」
高倉はカルテを指差す。
「その記録は、もう必要ない」
カルテ室の空気が重くなる。
凌はゆっくり言った。
「でも、電子カルテでは更新履歴が残っていました」
その言葉に、高倉の動きが止まった。
「……何を言っている?」
凌はまっすぐ見た。
「八年前に死亡した患者のカルテが、
最近更新されています」
沈黙。
そして次の瞬間。
高倉は静かに言った。
「相沢くん」
「はい」
「そのカルテは――」
一拍置いて、言った。
「もう調べないほうがいい」
その言葉は、忠告にも、警告にも聞こえた。
だが凌は思った。
もし本当に何もないのなら。
なぜ、みんな止めようとするのか。
カルテ番号404。
神谷陽斗。
そして消されたページ。
真実はまだ、
この病院のどこかに残っている。

