カルテは、まだ終わっていない

春の午後。
病院の窓の外では、桜の花びらが静かに舞っていた。

相沢凌はパソコンの画面を見つめながら、淡々とキーボードを打っていた。
診療情報管理士――それが彼の仕事だ。

医師や看護師のように患者と直接話すことはほとんどない。
彼が向き合うのは、人ではなく「記録」だった。

カルテ。
検査データ。
入院履歴。

それらを整理し、正確に保存する。
病院にとって、記録は命と同じくらい大切なものだからだ。

その日も、凌は古いカルテのデータ整理を任されていた。

「八年前のアーカイブか……」

画面に表示される患者一覧を、機械的に確認していく。
退院。
転院。
死亡。

どれも珍しいものではない。

病院という場所では、日々多くの人生が始まり、そして終わる。

だが――

マウスを動かした瞬間、
凌の指が止まった。

「……?」

一つのカルテの更新履歴が目に入った。

患者名:不明
カルテ番号:404

凌は眉をひそめた。

番号だけなら珍しくない。
しかし問題は、その記録だった。

死亡日:8年前

ここまでは普通だ。

だが、その下に表示されている履歴は――

更新:3日前

「そんなはずないだろ……」

死亡した患者のカルテが更新されることはない。
少なくとも、この病院のシステムではありえない。

凌はそのカルテを開いた。

古い診療記録。
検査データ。
入院履歴。

そして画面の一番下。

最後に追加された記録が表示されていた。

たった一行。

「カルテは、まだ終わっていない」

凌はしばらく画面を見つめていた。

窓の外では、桜が風に揺れている。

静かな午後だった。

だがその瞬間、
彼はまだ知らなかった。

このカルテが、
病院の奥に隠されたある真実へと繋がっていることを