放置されたバケモノ妻は、夫の一途な溺愛に気づかない

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 隣で眠る千夜の頬を、蓮は優しく撫でた。
 初めてなのに、無理をさせすぎてしまったかもしれない。だが積年の思いと、自分の枷を受け入れてくれた愛しさは、止めることができなかった。死鬼の声のことは不安だが、大丈夫だと言った彼女を、ひとまず信じることにしている。
 縁側の障子の向こうから、うっすら光が漏れてくる。おそらく正午を過ぎたところだろう。世間からすれば日が高いうちから、と言われるだろうが、自分や千夜の仕事は夜。昼間でなければ、愛し愛されることは叶わない。
「ようやく手に入れたのに、取りこぼすところだった」
 眠る千夜を起こさないように、そっと口付ける。
 彼女の容姿と、黄泉返りという情報、そして当時迷い込んだ黄泉路が開いた場所から、千夜を長年かけて探し続け、ようやく見つけた。死鬼の声という枷のおかげで距離を置かなければならなくなったが、その間、ヤトとイザナとして関わっていたなんて。
 確かに自分を叱咤し、助言をし、そして黄泉路から引き上げてくれた彼女が、千夜と被ったことは一度や二度ではない。似た境遇だとは思っていたが、まさか本当に同一人物だったとは。真実を知って運命のようなものを感じ、そして深い後悔に苛まれた。
 抱いた千夜の体は、折れてしまいそうな程に細かった。この体は、自分の罪そのものだ。手紙の返事が来ないことを不安に思いながらも、仕事と死鬼の声を理由に確認を部下に任せていた自分の落ち度。彼女は許してくれたものの、傷付けた責任は自分にある。
 だから何年かかっても、一人にしてしまった以上に千夜を愛そう。それがきっと、自分にできる最大の償いだ。
「ずっと、永遠に……君だけを愛そう、千夜」
 耳元でそう囁くと、千夜が嬉しそうに頬を緩めた気がした。
 蓮は小さく微笑むと、千夜を抱き寄せ目を閉じた。

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