ルミナス ― 境界の均衡者


都内高層ホテル。

最上階のスイート。

夜景が広がる大きな窓。

静かな室内。

テーブルの上にはグラス。

琥珀色の液体が揺れている。

金髪の少女がソファに腰かけ、ゆっくりとそれを口に運ぶ。

「……悪くない」

望が扉を閉め、振り返る。

数秒、無言。

そして額を押さえる。

「……子供の姿で酒を飲むな」

リリアが首を傾げる。

「何が問題じゃ」

「全部だ」

グラスを傾ける仕草は優雅だ。

だが見た目は十歳。

完全にアウトである。

リリアは小さく笑う。

「気にするではないわ」

夜景を眺めながら言う。

「誰も見とらん」

望がため息をつく。

「問題はそこじゃない」

「それに」

リリアが視線を向ける。

「望との約束は守っておるじゃろて」

「……」

「外では飲んどらんぞ」

確かにそうだ。

外では飲まない。

人前では子供として振る舞う。

それが条件だった。

望はソファの向かいに座る。

「だからといって部屋ならいい理屈にはならない」

リリアがくすりと笑う。

「我は真祖じゃ」

静かな声。

「膨大な時を生きておる」

グラスを回す。

「歳など覚えておらぬ」

どうでもいい、と言わんばかりの表情。

「人間の年齢という概念は、あまりに短い」

夜景の光が金色の瞳に映る。

「百年も千年も、誤差じゃ」

望は静かに言う。

「ここは日本だ」

「知っておる」

「見た目が十歳なら十歳だ」

「外ではな」

即答。

リリアがグラスを置く。

「お主は堅い。社会がな、面倒じゃ」

「だから約束した」

沈黙。

リリアがふと笑う。

「今日の上級は愚かじゃったな」

「境界規定違反だ」

「我を王と認めぬ者は、必ず動く」

望は視線を窓の外へ向ける。

東京の光。

平和に見える街。

「挑発だ」

「うむ」

リリアはグラスを持ち上げる。

「乾杯でもするか」

「何にだ」

「退屈の終焉に」

望は答えない。

だが小さくグラスを持つ。

軽く触れる。

小さな音。

リリアが言う。

「望」

「なんだ」

「怒っておるか」

「酒にか?」

「違う」

一瞬、間。

「上級が出たことに」

望は数秒黙る。

「怒ってない」

「では」

「面倒だと思っている」

リリアが楽しそうに笑う。

「それは怒りと大差ない」

夜が深くなる。

グラスの琥珀が揺れる。

子供の姿の真祖。

銀髪のSS。

外では均衡を保ち、

内では静かに夜を飲む。

そして日本滞在三日目は、
静かに波紋を広げていた。