ルミナス ― 境界の均衡者


東京スカイツリー。

展望デッキ最上階。

ガラス張りの壁の向こうに、東京の街が広がっている。

夕暮れ。

オレンジ色に染まる空。

人々の歓声。

「すごーい!」

「やば、めっちゃ高い!」

子供の声。
カップルの笑い声。
カメラのシャッター音。

リリアはガラス越しに外を見下ろしていた。

長い金髪が夕陽を受けて光る。

数秒。

「……」

望が隣に立つ。

「どうだ」

リリアは視線を動かさない。

「つまらん」

即答。

「おい、望」

「なんだ」

「この小娘や小童たちは、何をそんなに騒ぐことがある」

下を指差す。

「ただの街ではないか」

整然と並ぶ建物。
走る車。
川。
遠くの地平線。

人間にとっては、非日常。

リリアにとっては、低い。

「我が飛べば、これ以上の高さから見ておる」

淡々とした事実。

「この程度で感動するとは、人間は安いのう」

望はガラス越しに街を見る。

沈黙。

「違う」

リリアが横目で見る。

「何が」

「高さじゃない」

「では何じゃ」

望は少しだけ考える。

「ここまで登った過程だ」

リリアが鼻を鳴らす。

「箱に乗っただけじゃろう」

「それでもだ」

望は続ける。

「自分の足で来て、自分の目で見る」

「それが価値だ」

リリアは黙る。

下で小さな子供がはしゃいでいる。

母親にしがみつきながら、怖いと笑っている。

リリアが言う。

「怖がっておるぞ」

「高いからな」

「それで喜ぶのか」

「怖いから覚えてる」

リリアの瞳が細くなる。

「……理解できぬ」

「理解しなくていい」

望は淡々と言う。

「お前は飛べる」

「うむ」

「だから分からない」

沈黙。

夕陽が沈みかける。

街が徐々に夜へ変わる。

光が灯り始める。

リリアの金色の瞳に、東京の夜景が映る。

「……光るな」

「人間は夜が嫌いだからな」

「だから光らせるのか」

「そうだ」

リリアは小さく言う。

「無駄が多い」

「無駄があるから街だ」

数秒の沈黙。

やがてリリアが背を向ける。

「望」

「なんだ」

「高さはつまらぬが、光は悪くない」

望が小さく笑う。

「そうか」

リリアが腕を組む。

「だが、退屈は続くぞ」

その瞬間。

ほんの僅か。

空気が揺れた。

ガラスの向こう、遠くの空。

望の視線が止まる。

「……」

リリアが気づく。

「何じゃ」

望は短く言う。

「境界が動いた」

夕焼けの空に、目には見えない歪み。

ほんの一瞬。

だが確かに。

退屈は、終わりに近づいている。