ルミナス ― 境界の均衡者

◼️ ルミナス本部

リリアの私室。

重厚な扉の向こうは、外界から完全に隔絶された空間。

リリアはベッドの上で、ゆっくりと身体を起こした。

先ほどまで望の血を吸っていた少女の姿は消え、
今は大人の姿へと戻っている。

長い金髪が背中に流れ、
金色の瞳が妖しく光る。

「……満ちた」

唇に残る血を指先で拭う。

望はベッドの端に座り、軽く息を吐く。

「満足か」

「まあの」

リリアは望へ身体を寄せる。

その動きは自然だった。

契約者。

主従であり、つがいでもある関係。

「望」

「なんだ」

「退屈じゃ」

リリアが肩に腕を回す。

「少し遊ぶか?」

金色の瞳が細くなる。

その瞬間――

ドンッ!!

扉が勢いよく開いた。

「失礼します!!緊急――」

言葉は途中で止まる。

リリアの瞳がゆっくりと向いた。

次の瞬間。

空気が歪む。

目に見えない圧力が、部屋を満たした。

「――――」

部下の身体が吹き飛ぶ。

廊下の壁に叩きつけられた。

鈍い音。

沈黙。

リリアが低く言う。

「……興を削ぐな」

部屋の空気は凍りついていた。

望が軽くため息をつく。

「落ち着け」

静かな声。

リリアの視線が望へ戻る。

「せっかくじゃったのに」

不満そうに言う。

望はベッドに腰掛けたまま、扉の方を見る。

廊下で倒れている部下。

だが、動いている。

意識はある。

「……大丈夫か」

望が声をかける。

部下が咳き込みながら起き上がる。

「だ……大丈夫です……」

リリアは手加減していた。

殺すつもりなら、廊下は血で染まっている。

望が言う。

「何があった」

部下は壁に手をつきながら立つ。

顔色は青い。

だが報告を続ける。

「日本で……境界線が歪みました」

リリアの瞳がわずかに動く。

「ランクは?」

「AAランク悪魔です」

部屋の空気が変わる。

望がゆっくり立つ。

「召喚か」

「はい」

部下が続ける。

「現在、召喚者の願いを実行中です」

望の眉がわずかに動く。

「内容は」

部下が答える。

「召喚者の身体を乗っ取り……」

一瞬の沈黙。

「銀行強盗をしています」

沈黙。

数秒。

リリアがぽつりと言う。

「……阿呆か」

望が小さく笑う。

「AAランクで銀行強盗か」

リリアはベッドから降りる。

長い髪が揺れる。

「くだらん」

金色の瞳が冷える。

「だが」

小さく笑う。

「退屈しのぎにはなる」

望はコートを取る。

「行くぞ」

リリアが振り向く。

「当然じゃ」

吸血鬼の王は微笑んだ。

「銀行など、人間の金庫にすぎん」

金色の瞳が光る。

「悪魔が触れてよい領域ではない」

東京の夜。

新たな事件が始まろうとしていた。