ルミナス ― 境界の均衡者


三日後。

都内湾岸エリア。

表向きは物流企業の倉庫。

実際は、違法臓器売買の中継拠点。

望はルミナスの車内から映像を見ていた。

モニターに映るのは二人。

オレンジの髪の男。

銀髪ロングの女。

「護衛は?」

望が問う。

オペレーターが答える。

「三名。距離二十メートル圏内でカバー」

戦闘員だ。

影の位置。

狙撃可能範囲。

撤退ルート確保。

「任務内容は?」

「資金経路の確定と証拠回収」

望は腕を組む。

(どこまでやれる)



倉庫内部。

フォークリフトの音。

和春は無造作に歩く。

スーツ姿。

違和感はない。

愛華が少し後ろを歩く。

タブレットを操作している。

「和春」

小声。

「右奥、監視カメラ二基。死角は三秒」

「十分」

和春は歩幅を変えない。

視線も動かさない。

倉庫の管理責任者が近づく。

「どちら様で?」

「監査だ」

穏やかに。

威圧はない。

だが相手が一瞬、言葉を詰まらせる。

「資金の動きが合わない」

淡々と資料を差し出す。

管理者の額に汗が滲む。

愛華が補足する。

「海外口座三件、ダミー会社経由で資金移動。計上漏れがあります」

声は冷静。

震えはもうない。

完全に仕事の顔。

管理者が言葉を濁す。

その間に、奥の扉がわずかに開く。

武装した男。

愛華が小さく言う。

「和春、後ろ」

声のトーンが変わらない。

和春は資料を閉じる。

「話が早いな」

次の瞬間、銃声。

護衛が動く。

倉庫の灯りが一瞬消える。

暗闇。

だが和春は動かない。

「左二人、距離五メートル」

静かに言う。

護衛が正確に制圧する。

撃ち合いは短い。

数十秒。

静寂。

望がモニター越しに目を細める。

(冷静だ)

混乱しない。

焦らない。

撃たれない位置を選んでいる。

戦闘員ではない。

だが、戦場の呼吸を読んでいる。

愛華が言う。

「和春、証拠室」

和春が頷く。

奥の部屋。

冷蔵保管庫。

データ端末。

臓器輸送記録。

「全部押さえた」

USBを抜く。

和春がバックアップを取る。

「撤退経路確保」

護衛が無線で報告する。

和春が最後に倉庫を見渡す。

「潰すべきだな」

望が車内で小さく笑う。

(命懸けの任務だぞ)

だが二人は、まるで通常業務のように処理した。

撤退。

車内。

和春は息を整える。

愛華が横を見る。

「撃たれなくてよかった」

「合理的に動いただけ」

淡々。

だが指先はわずかに白い。

緊張していた。

望が車に乗り込む。

二人を見る。

「想定以上だ」

短い言葉。

和春が言う。

「普通だ」

即答。

愛華が小さく笑う。

「和春基準で言わないでください」

望は二人を見て思う。

(化け物並みに頭が良い)

そして。

(補完が完璧だ)

和春が考え始める前に、愛華が動く。

愛華が詰まる前に、和春が言葉を置く。

隙がない。

「今日の評価は?」

和春が聞く。

望は数秒黙る。

「合格だ」

簡潔。

だが重い。

「次は段階を上げる」

和春が頷く。

車が夜の街を走る。

望は窓の外を見る。

(外に置いておくより、内に入れた方が安全だ)

判断は正しかった。

退屈は、確実に減っている。