倉庫街の路地は、ひどく静かだった。
さっきまでの銃声と警報が嘘のように、
夜は何事もなかった顔をしている。
三人の間に、まだ火薬の匂いが残っている。
契約は成立した。
だが、それは信頼ではない。
望が背を向けかけて、足を止める。
振り返る。
街灯が銀髪を淡く照らす。
「……一つ聞く」
和春が視線を上げる。
頬の血は止まりかけている。
愛華のハンカチがまだ当てられている。
「お前らは付き合ってるのか?」
沈黙。
夜風が抜ける。
和春は迷わない。
「いや、付き合ってない」
即答。
望は一瞬、愛華を見る。
赤い瞳が揺れる。
だが逸らさない。
「私は相方兼メイドです」
真顔。
冗談ではない。
説明でもない。
事実として言う。
「役割分担です」
声はまだわずかに震えている。
だが折れてはいない。
望は二人を改めて観察する。
距離は近い。
肩が触れそうなほど近い。
だが、甘さがない。
互いに依存していない。
主従でもない。
恋人でもない。
それでいて、切り離せない。
奇妙な均衡。
「……そうか」
短く言う。
深くは踏み込まない。
今は。
「また連絡する」
それだけ残し、背を向ける。
銀髪が闇に溶ける。
和春が小さく息を吐く。
「変な奴だな」
愛華が視線を落とす。
「撃ちますよ、って顔で撃たない人でした」
「最後は本気だったがな‥」
愛華がようやく小さく震えを吐き出す。
「……怖かったです」
やっと出た本音。
和春は視線を向けない。
「分かってる」
それだけ。
それ以上触れない。
今触れれば、彼女は崩れる。
夜はまだ冷たい。
二人は並んで歩き出す。
裏の世界に、足を踏み入れたまま。
⸻
◼️ホテル最上階
重い扉が閉まる。
スイートの静寂が戻る。
夜景が窓いっぱいに広がっている。
ソファに横たわる金髪の少女。
グラスの琥珀色が揺れている。
「遅いのう」
視線は窓の外。
望はコートを脱ぐ。
「裏だ」
短い返答。
リリアは片目だけ開ける。
「血の匂いがする」
「数人処理した」
「人間か」
「人間だ」
沈黙。
リリアは興味を示さない。
「それで」
望は簡潔に報告する。
地下フロア。
人体実験。
資金の流れ。
そして――
「混ざり者を引き入れた」
金色の瞳が一瞬だけ動く。
「ほう」
だがすぐに戻る。
「有能だ。奴は使える」
リリアはグラスを傾ける。
氷が小さく鳴る。
「なら使えばよい」
それだけ。
「壊れれば捨てればよい」
冷たい。
そこに感情はない。
望は数秒黙る。
「関わらせるつもりはない」
「当然じゃ」
リリアが目を閉じる。
「我は退屈を潰したいだけじゃ」
夜景の光が金色に反射する。
「駒が増えようと減ろうと、興味はない」
静かな言葉。
だが残酷だ。
望は窓の外を見る。
東京は平和に見える。
だが地下では血が流れ、
路地では契約が結ばれた。
二つの物語が、ゆっくりと近づいている。
まだ、交わらない。
リリアはただ一言。
「望」
「なんだ」
「面白くなるか?」
数秒の沈黙。
「なる」
短い返答。
リリアが微笑む。
それだけで十分だった。
さっきまでの銃声と警報が嘘のように、
夜は何事もなかった顔をしている。
三人の間に、まだ火薬の匂いが残っている。
契約は成立した。
だが、それは信頼ではない。
望が背を向けかけて、足を止める。
振り返る。
街灯が銀髪を淡く照らす。
「……一つ聞く」
和春が視線を上げる。
頬の血は止まりかけている。
愛華のハンカチがまだ当てられている。
「お前らは付き合ってるのか?」
沈黙。
夜風が抜ける。
和春は迷わない。
「いや、付き合ってない」
即答。
望は一瞬、愛華を見る。
赤い瞳が揺れる。
だが逸らさない。
「私は相方兼メイドです」
真顔。
冗談ではない。
説明でもない。
事実として言う。
「役割分担です」
声はまだわずかに震えている。
だが折れてはいない。
望は二人を改めて観察する。
距離は近い。
肩が触れそうなほど近い。
だが、甘さがない。
互いに依存していない。
主従でもない。
恋人でもない。
それでいて、切り離せない。
奇妙な均衡。
「……そうか」
短く言う。
深くは踏み込まない。
今は。
「また連絡する」
それだけ残し、背を向ける。
銀髪が闇に溶ける。
和春が小さく息を吐く。
「変な奴だな」
愛華が視線を落とす。
「撃ちますよ、って顔で撃たない人でした」
「最後は本気だったがな‥」
愛華がようやく小さく震えを吐き出す。
「……怖かったです」
やっと出た本音。
和春は視線を向けない。
「分かってる」
それだけ。
それ以上触れない。
今触れれば、彼女は崩れる。
夜はまだ冷たい。
二人は並んで歩き出す。
裏の世界に、足を踏み入れたまま。
⸻
◼️ホテル最上階
重い扉が閉まる。
スイートの静寂が戻る。
夜景が窓いっぱいに広がっている。
ソファに横たわる金髪の少女。
グラスの琥珀色が揺れている。
「遅いのう」
視線は窓の外。
望はコートを脱ぐ。
「裏だ」
短い返答。
リリアは片目だけ開ける。
「血の匂いがする」
「数人処理した」
「人間か」
「人間だ」
沈黙。
リリアは興味を示さない。
「それで」
望は簡潔に報告する。
地下フロア。
人体実験。
資金の流れ。
そして――
「混ざり者を引き入れた」
金色の瞳が一瞬だけ動く。
「ほう」
だがすぐに戻る。
「有能だ。奴は使える」
リリアはグラスを傾ける。
氷が小さく鳴る。
「なら使えばよい」
それだけ。
「壊れれば捨てればよい」
冷たい。
そこに感情はない。
望は数秒黙る。
「関わらせるつもりはない」
「当然じゃ」
リリアが目を閉じる。
「我は退屈を潰したいだけじゃ」
夜景の光が金色に反射する。
「駒が増えようと減ろうと、興味はない」
静かな言葉。
だが残酷だ。
望は窓の外を見る。
東京は平和に見える。
だが地下では血が流れ、
路地では契約が結ばれた。
二つの物語が、ゆっくりと近づいている。
まだ、交わらない。
リリアはただ一言。
「望」
「なんだ」
「面白くなるか?」
数秒の沈黙。
「なる」
短い返答。
リリアが微笑む。
それだけで十分だった。

