「毎年恒例の新入生歓迎会の流れは、学校のあゆみを映像で振り返る上映会をして、その後にちょっとしたステージ発表をします。
校歌を歌って最後に校長先生の話を聞くって感じですかね」
いま飼育委員の僕達4人は生徒会長の数多を囲んで真剣に話を聞いている。
数多が歓迎会の流れをざっくり説明してくれた。
そうだ…僕達5人は歓迎会の実行委員なんだ。
嫌でもなんでも先生に任命されてしまった以上はやらざるを得ない。
数多も何故か生徒会長と言う立場上、強制参加させられてしまった自分の任務を遂行しようとしている。
飼育室に集まって座りながら、一応は真剣に話し合いをしているつもりだった。
「でも歓迎会ってつまんないんだよね。結局いつも通りにやるのが無難って事なんでしょ…。」
瑞穂がつまらなさそうに机に肘をついている。
「そうだよなぁ、ステージ発表とか見て誰が喜ぶんだよ。案外瑞穂が主役なら喜ぶのかもよ〜」
東がふざけ始めた。
「考えるの面倒だなぁ〜」
里見も考えるのを早々にやめてしまいそう…。
「いや、折角このメンバーでやるんだし、これも一生の記念になるので、ちょっと面白い事をしてみたくないですか?
何かいい案はありませんか?」
数多が意外な提案を持ちかけてきた。
頭でっかちな訳ではなさそう…いや、想定外すぎてびっくりしている。
「案ねえ…」
里見が上の方に視線を向けながら考え込んでいる。
「じゃあさぁ例えばだけど、休み時間や委員会の活動の様子をビデオで撮って流すっていうのはどうかな?
どの委員に入ろうか悩んでいる1年生には役に立つんじゃないかなぁ?」
自信は無かったけど、このまま黙っていてはらちがあかない。思い切って提案してみた。
それに柔軟性のありそうな数多なら一笑されないかもしれない…という淡い期待もあった。
「えっ、それいいじゃん」
意外にも、瑞穂と里見が賛成してくれた。
調子に乗ってきた僕は続けて
「あと、ちょっとしたプレゼントを渡すとかは?
例えばだけどクッキー焼いて渡すとか…どうかなぁ?」
「クッキー?日向クッキーなんて焼くの?」
数多が意外そうな顔をして僕の方を見ている。
「いやいや、例えばの話だよ」
「でもそれいいよね。プレゼントって嬉しいかも」
東もちょっと乗ってきたかもしれない。
「いい案だとは思いますが、1年生の分だけと考えても数に無理があると思うんですよね。衛生面を考えても少し難しいかもしれないですし」
数多が少し残念そうに顔を傾けた。
「じゃあ、クッキーの代わりに、消しゴムとかは?」
「消しゴム?小学生かよ」
東の提案を里見が打ち消した。
東はスンと拗ねて迷子の子犬みたいな顔をした。
「じゃあキーホルダーとかは?校章の入った」
「もっといらねーだろ」
今度は瑞穂の提案を東が打ち消す。今日はどうも調子が乗り切らないようだ。
「じゃぁさぁ、駄菓子とかは?
大袋に入った飴玉とかを買えば安上がりだしさぁ」
「おっ、それいいね、やっぱりお菓子が1番だよ」
「僕もそれいいと思うなあ」
「俺もぉー!」
なんと、全員一致でお菓子に決まりそうな…?
「でも許可は降りるのかなあ?」
心配になって数多の方をチラッと見た。
「飴玉か…大袋に入った…。それなら全校生徒にも配れそうですね。
1年生には少し買い足すとして、2、3年生にも渡す事で不公平だと言う苦情は出ないでしょうね。
それにお弁当の後のいいおやつになりそうだし。
ビデオ撮影に関しては、明日先生に聞いてみます。
駄菓子に関しては学校から予算が出るはずですから、確認しておきます。
では後日、先生から返事をもらったら皆さんにお知らせする。と言う事でいいですか?」
数多ってすごいなぁ。言葉に重みがあるっていうか…
何だか楽しくなってきたかも。
ワクワクしている自分がそこにいた。
ー 1週間後の朝 ー
飼育委員メンバーと数多が何やらコソコソと話をしている。
「おはよう〜何、なんの話?なんか進展あった?」
気になって聞いてみた。
「あっ、おはようございます。先生から予算がおりましたよ。ビデオ撮影もオッケー出ました。」
数多の報告に妙に安心する僕。
「マジで?あー、安心したぁ。これで進められるね」
「1週間って長くなかった?待ちくたびれたよ」
「って言うか、ビデオっていつ撮っていいわけ?」
「休み時間の様子を撮ってたら俺たちの休み時間って終わっちゃわない?」
「お菓子って何処で買うべき?やっぱお菓子の問屋とか?」
どれが誰の質問なのか分からない。
「話が長くなりそうなので放課後に飼育室に集まりませんか?」
ナイス、数多!それが絶対にいいと僕も思った。
放課後になるとみんな意外と早く飼育室に集まった。
僕と瑞穂、里見、東は数多を取り囲む形で椅子に腰掛けた。
「先生からの注意事項ですが、ビデオ撮影をしてもいいですが、学校以外では絶対に流さない。
撮影する時はこの携帯を使う様にとこちらを預かってきました。
盗撮は勿論ダメです。
生徒の邪魔はしない様になるべく離れて撮る。
あとお菓子の予算は結構多めに出そうです。
飼育委員に悪いね。と担任が掛け合ってくれたみたいですよ」
数多の説明は分かりやすい。やっぱり救世主なのかもしれない。
「では明日から撮影の方宜しくお願いします。
携帯は一台しかありませんから、効率よくやっていきましょう。
日向と瑞穂が休み時間の様子を撮って、里見と東が委員会活動を撮るというのはどうですか?
休み時間の撮影が済んだら携帯は必ず一旦僕に返して下さい。
受け取ったらそれを里見か東に渡しますから、2人は委員会の様子を撮影して下さい。
撮り終わったらまた僕に返して下さい。携帯は僕が保管します。
これを3〜4日ほど続けてから僕が動画を編集します」
ほぉ〜〜っ、流石!抜かりない。
4人とも数多に惚れてしまったのかもしれない。
でも熱い眼差しを送る男子高校生4人は側から見たらきっと気持ち悪かったと思う。
撮影を開始して2日経った放課後、里見と東が大急ぎで飼育室に入って来た。
「ちょっと、日向、瑞穂、数多、見てくれよぉ〜。コレ!
マジで笑えるって!もう腹痛いっっ」
何か面白い物を見つけてしまったみたいだ。
「何?なに?どーした」
僕は気になって訪ねた。
「コレだよ、コレ!」
東が携帯を差し出して今、撮影してきたであろう動画を再生した。
そこには同じクラスの髙木が写っていた。
彼は撮影しているのに気づくと軽くステップを踏みながらこっちに寄って来た。
人差し指までこちらに向けての満面の笑顔に思わず吹き出してしまった。
しかし彼の勇姿はここで半ば強引に終わりを告げた。
担任に見つかり半分歯がいじめにされながら髙木はひきづって行かれたから。
あまりの名残惜しそうな顔に全員が大笑いだった。
「何コレ!マジで最高〜。絶対使おうよ」
全員一致の賛成。
今までどこか壁があった5人の距離がぐんと縮まっていく気がした。
こういうのなんか楽しいね。


