先生、それって飼育委員じゃなきゃダメなんですか?

放課後、僕はいつもの様に一番先に飼育室に着いた。
メダカの水槽に水草を早く足してやりたかったから。

金魚やメダカは水草に産卵したり、隠れ家にしたりする。水草があると自然の環境に似てるからストレスが減る事もあるらしい。ストレス社会は人間界でも魚界でもよく無いのは同じって事なんだ。
それに水草は水を綺麗にしてくれる働きもある。
どのぐらいの水草を足してやろうかなぁ…などと考えながら水槽を覗いているとガチャッと音がして飼育室に数多が入ってきた。

「早いですねー。日向は生き物が好きなんですか?それともメダカとかの魚類ですか?」
「生き物っていうよりメダカと金魚、両方とも好きかな。
水槽の中を自由に泳いでるのを見てるとなんか気持ちが落ち着くんだよね」
僕はメダカの水槽を指差した。
「それでこうやって餌を巻くとすぐに寄ってきて…
見てよこのメダカ…口をパクパクって。餌を食べてる所って可愛いよね。」
僕は隣に設置されている金魚の水槽に視線を移しながら
「金魚のしっぽだって、こんなにゆらゆら揺れてて、見てて飽きないよ。
あっ、知ってる?メダカはきれいな水の中でないと生きられないんだよ。いつもカルキ抜きしてその後にくみ置きもしてるんだから」

思わず数多に熱弁してしまった自分にハッとした。
「へえ、そんなに好きだったんだ」
声のする方に顔を向けると、すぐ近くに数多の顔がある。
「うわっ!!近っつ」
思わず心の声が漏れてしまった。
「あっ、すいません。金魚に見とれてしまって。
それにメダカって小さいのにすばしっこいんですね。
僕にも、餌をやらせて貰えませんか?」
「別にいいけど、メダカにはもう餌をあげちゃったから
こっちの金魚でもいい?」
「勿論です」
数多の手に数粒の餌をのせてあげた。
彼はパラパラと餌を水面にまいた。
金魚がしっぽをゆらゆら揺らしながら餌を食べに寄ってくる。
金魚をじっと見つめる数多の横顔に目が釘付けになる。
すっとした切れ長の目にさらさらの黒髪。
整った薄めの唇は口角がキュッと上を向いている。
数多の美しい横顔は水槽の水が反射して波うっている。
「きれいだなぁ…」
思わず漏れてしまった自分の言葉に慌てて唇を噛み締めた。
まさか、自分の事を言われているなんて思いもしない数多は
「本当にすごく綺麗ですね。金魚にも水草を少し足してあげてはどうですか?」
と微笑んだ。
あぶない!僕、金魚じゃなくて数多の横顔を見て思わず綺麗って声に出しちゃってた。
何みとれてるんだよ。キモッ…
よかったぁ〜金魚と思われてて。僕は胸を撫で下ろした。