先生、それって飼育委員じゃなきゃダメなんですか?

校長先生から卒業証書を受け取り,在校生から送辞を述べられた卒業式は淡々と終わった。
卒業式よりもクラスに戻って来てからの方が卒業を改めて実感してしまう。
昨日僕達が全員帰ってから誰も居ない教室で担任が書いたであろう[卒業おめでとう]の文字が黒板の真ん中に鎮座している。
誰かが言った訳でも無いがクラスメイトが自から黒板にメッセージを書き足していく。

1年間ありがとう
クラスメイトに感謝。
皆んな大好きだよ
先生お世話になりました。
この教室ともお別れかぁ。
大学に行っても宜しくね。

ある程度黒板が一杯になったら
教室や廊下で写真を撮り出す生徒もいれば、後輩から花束を渡されている生徒もいた。
違う大学に行く友達と別れを惜しむ姿もある。
忘れてはいけないのが僕のクラスは
瑞穂、里見、東、数多の顔面優等生が揃っているって言う事。
さながらアイドルグループなみの写真撮影会が始まってしまった。何故か僕もその中に押し込まれていた。
「後で写メ送るから〜」
隣のクラスの川瀬さんと鈴木さんが僕に手を振っていた。

皆んなが思い思いのお別れをした後は担任と中庭で写真を撮るため教室は静かになった。
僕は黒板に書かれているメッセージをぼんやりと眺めている。
「日向、何してんの?もう皆んな外に出てるよ。
俺達も5人で昼飯を食べに行く約束してるだろ?行こうぜ」
里見の声に振り向いた。
「あー、そうだね」
今は偶然里見と2人きり。
ずっと言うか言わないか…いや、引かれないか怖くて言えなかった言葉を口にしてみた。

「あのさあ、里見……実は僕……数多の事が好きなんだ…。
ごめん、今まで黙ってて。
いきなりこんな事言われてもびっくりするよね…」
里見は僕の顔をじっと見て話を聞いている。
「いやぁ。なんて言うか…うん、正直に話してくれて嬉しいよ。でも日向、お前の気持ちはダダ漏れだったよ」
「えっ??」
「だってさぁ、何かに付けて数多はどうなのか?とか
数多は何処?とか数多、数多….って。流石に気がつくでしょう」
「そうだったんた。ずっと言えなくてごめん」
「「瑞穂も気付いてるよ。あいつに限っては数多の事、ちょっといいなって思ってたみたいだしな…」
思わず目を見開いてしまった僕に気付いたのか
「あいつ根っからの王子様だからさぁ、数多みたいに頼り甲斐のある奴は魅力的に見えたんでしょう。
「日向が相手じゃ、でるまく無しかも」って少し拗ねてたから」
「そっか…」
「それに東は人の恋愛にどーのこーの言うやつじゃ無いからさ」
「ありがとう、里見。後で瑞穂と東にもちゃんと僕の気持ち話してみるよ」
「それは大丈夫じゃないかな…数多から聞いてるはずだから」
「えっ?数多から……??」
里見は僕の両肩を優しくポンポンと叩いた。
「ところで数多は?」
「担任に渡す花束取りに行ってる。見つからない様に隠しておいたみたいで」
「サプライズってやつね。やっぱり数多はやる事がかっこいいよなー、じゃあ俺は先に外行ってるわ。瑞穂も東も待ってるし」
「うん、じゃあ後で」
僕は周りの人に恵まれ過ぎているのかもしれない。

僕は黒板にチョークで書いてみた。
自信のない自分はもうやめる

「日向お待たせ」
数多が花束を持って教室に入って来た。
「今日でこのクラスともお別れかぁ。なんだか最後なんて信じられないよ。」
「皆んなの寄せ書きを読んでいると不思議な気持ちになるね。
そうだ、先生に花束を渡す前にちょっとだけ飼育室に寄っていかない?魚達にさよならしたいな」
「日向らしいな、いいよ…行こう。でもその前に」
数多が僕にキスしようと僕の目を見ている。
僕が恥ずかしがって自分からキス出来ないって分かってるから数多からいつも僕にキスしてくれるんだと思う。
でも今迄の自信の無い僕と今日で卒業したい。

「今日は僕からキスさせて」



飼育室で魚達にお別れの挨拶を済ませて、外に出ると担任が他の生徒と写真を撮ったり話をしているのが見えた。
「日向、一緒に先生に花束を渡しに行こう」
数多に誘われて僕もついて行った。
「先生お世話になりました。これ僕達5人からの気持ちです。受け取って下さい」
「5人?あっ、飼育員からもって事かな?あの時は悪かったな。でもお前ら5人が仲良くなって先生は本当に嬉しいよ」
花束は数多が1人で用意してくれたのに、5人で…って。さすが数多だな。
「ありがとうな!大学生になってもたまには顔見せろよ。先生はまだこの学校にいるから。」
数多と,僕は顔を見合わせた。
「勿論です。」
「忘れるなよ〜今の言葉、皆んなそう言って来ないんだから…しかし卒業生していく生徒達ってなんかキラキラ輝いてるんだよな。これからの未来が楽しみで仕方ないみたいな顔してさ」

その時、後ろから
「あーまーたー、ひーなーたー行こうよー
お腹すいたよーーっつ」

東、瑞穂、里見がこっちに手を振っているのが見えた。

「先生。僕達はこれで。さようなら」
「おう、気をつけて帰れよ……」

さぁて、俺はこれから新入生を迎える準備をしないとな。
花束を抱えて1人で職員室に戻っていく姿は毎年恒例なんだろう。

里見、瑞穂、東が前に並び、その後ろを僕と数多が歩いて中庭を抜けた。
この花壇も校門に続く階段も植えられた木々達も今日で見納めなのかな…
毎日通ったこの学校にも来なくなるんだよな。
「日向、何考えてるの?」
数多が心配そうに僕の事を見ている。
「なんかこの学校で色々あったなあって。
数多とも里見達とも出会えて良かったなぁって思って」
数多は笑いながら
「そうだなぁ…でも俺等は大学が同じなんだよ。
これからもまだまだ長い時間を一緒に過ごせるんだし、時間は沢山あるよ」
「うん、そーだね」
前を歩いている3人が校門に出るための階段を登り始めた。
「このキツイ階段ともお別れかぁ。」
「そんな事より何食べようかなあ」
「もうこんな時間、お店混んでないかなぁ?」
3人の会話を聞きながら僕は思う。
いつか僕達もこのキツイ階段や魚の世話をした飼育室・植えられた木々を懐かしく思う時が来るんだろうか?
5人で笑い合っている今、この時間を…
でもその時も僕の隣にはきっと数多がいる。

「そう言えば数多って僕の事1年生の時から知ってたって言ってたよね?あれってどー言う意味?」
聞きそびれていた質問をしてみた。
「あー、あれね、本当にわからない?」
「いくら考えても分からないけど。」
「俺だよ、ゲームのパートナーのツムだよー。オネムリン」
「えっ??」
「新入生歓迎会の役員に決められた日があっただろう。
その日の朝、日向が眠そうに荒川と話してて。
あの時ゲームしてて朝方まで起きてたって話してたの覚えてる?
プレイヤーネームはオネムリンだって……日向、寝ぼけてたから覚えてないかもしれないけど。
まさか同じ学校に相方がいたなんて、もうびっくりしたけど」
驚きすぎて声が出てこない。僕、名前なんて言ってたっけ?
「男か女かなんて分かんなかったけど、いつも気を遣って相手を裏切らないなんてゲームの世界では初めての相手だったから……その時から気になってたのかも」

まさかそんな事が?
出会うきっかけも話すきっかけも本当に偶然なのかな?

その時携帯の着信音が鳴った。
隣のクラスの川瀬さんと鈴木さんから

5人の写メ送るね。みんな凄くいい顔してるよ〜
思わずふふっと笑ってしまった。後で皆んなにも見せてあげよう。

「おーーーい早く来いよ!おいてくぞーーっ」
「あっ、まってーーっ」
僕と数多は3人のところまで走って行った。
皆んなはきっと気付いてないけど、僕は振り返って学校を一目見た。

さようなら、僕達が過ごした高校生活
宜しくこれからの僕達…