ー12月24日クリスマスー
今、僕と数多はずっと見たかった映画を見ている。
ちょっと怖い系。
一人で見る勇気が無かったから数多が誘いにのってくれた時は嬉しかった。
昼ごはんを食べて公園をぶらぶらして…まるでカップルみたいなデートだけどさすがクリスマス
誰も僕達に興味はない様だ。
16時頃家に着いて玄関を上がった。
「うわ、扉開けっぱなしじゃん、なにやってんの?」
母親が忙しそうに動き回っているのが見えた。
その側で父親がゴクゴクお茶を飲んでいる。
今日は土曜日だから両親がいるのは仕方ないか…。
「お邪魔しまーす」
「あっ、数多君いらっしゃい。
悠馬、お姉ちゃんがまだ来てないのよ。
どうしちゃたのかしら?」
「どうせそこらへんで買い物でもしてるんじゃないの?」
父親が飲み終わったグラスを母親に渡しながら
『女の人は寄り道が多いからな』とかなんとか言っている。
「さっきケーキを取りに行ったんだけど、これ見て!」
母親が指刺した方に目をやると大きな白い箱が2つとクリスマスではお決まりのフライドチキンボックスが2つ、その他にも母親が欲望のままに買ったのであろうお惣菜がところせましと置かれている。
「これ全部食べるつもり…?」
食べるから置いてあるのは分かっているが聞かずにはいられない…。
「だってお姉ちゃんが帰ってくるし、数多君も来てくれるでしょう。
お母さん、なんか嬉しくなっちゃってついつい買いすぎちゃったのよー」
いくらなんでも多すぎるって。
「でもまだおにぎり作ろうとしてる?」
「あっ、やだぁ〜見ないでよ、後で部屋に持ってってあげるから自分の部屋に行ってたら?」
「ありがとうございます。でも凄く美味しそうですね、そのおにぎり。今すぐにでも食べたいくらいです」
「いやだぁ〜もう」
お母さん、声が3オクターブ位高くないか?
冷ややかな目で母親を見るお父さんを初めて見たかもしれない。
「でも姉ちゃん遅いなぁ、あんなにケーキ楽しみにしてたのに」
「俺も日向のお姉さんに会ってみたいけど。えっと、ラブリーちゃん♡だったよな?」
それはもういいって…
恥ずいだろ
ぷるるるる ぷるるるる
発信者 ラブリーちゃん♡
「あっ、姉ちゃんからだ」
「うううぅぅっ、ぐずっ、ぐずっ、痛いの、、」
泣いているのか叫んでいるのか…?
よく分からないけど、兎に角痛い、痛いとうなり声がする。
「なに?ねーちゃんだよね?どうしたの?どー言う状況?」
慌てて聞くけど、痛いとか血が出てるとか … 姉に何が起こっているのか把握出来ない。
数多がそれに気付いて、音声をマイクに切り替えてくれた。
「悠馬ーーっ、なんでお母さん電話に出てくんないのぉおぉ
娘がこんなに苦しんでるのにいぃぃ。」
「えっ?何?だからどーしたんだよぉ」
「途中、携帯忘れたのに気付いて一回部屋に戻って……携帯持ってまた車に乗ろうとしたら、車止めにつまづいて顔からいっちゃってぇぇ
歯が折れたかも。」
はっっ??
そんな事ある?
僕と数多はお互に見つめ合ってしまった。
「助けてぇぇ。膝からも流血してるしぃぃ」
「ちょっと待って!今お母さんにスマホ渡すから!」
僕は慌てて一階のキッチンに向かった。
数多も僕の後について来てくれた。
母親はどうやら音声をマナーモードにしたまま忘れていたらしい。
兎に角、両親に姉の事を伝えなくちゃ!
「お母さん姉ちゃんが大変!」
なんて伝えてたらいい?
固まってたら数多が全部母親に説明してくれた。
「今からお父さんと一緒にそっち行くから!」
「おい、大丈夫なのか?」
父親が心配そうに会話に加わった。
「えっ、お父さん!!お父さんも来るの?
やだ恥ずかしい!お父さんは来ないで!!」
「何言ってんの!こんな時に
お母さんだって一人では不安なんだから」
世の中のお父さんの扱いってこんな感じなのかな?
お父さんが不憫に思えた。
「ちょっと悠馬、悪いけどこれからお父さんとお母さん、お姉ちゃんのとこに行ってくるから。
数多君もごめんねーー、こんなお見苦しい所を見せちゃて。
良かったらテーブルに置いてある物、好きなだけ食べてね。なんなら泊まっていってくれてもいいから。
悠馬、じゃあ、行ってくるから」
「う、うん、気をつけて…」
両親は車に飛び乗って姉の住むアパートに向かって行った。
思いがけない形で2人だけのクリスマスが始まってしまった。
家に取り残された僕と数多。
あまりの出来事にテーブルの上にずらっと並べられたご馳走も食べる気にならない。
「何だか慌ただしかったね。ゴメン、クリスマスなのに。折角だからケーキでも食べようよ。
さすがにキッチンでは味気ないよね」
僕と数多はそれぞれ一つづつ大きなケーキの箱を抱えて部屋に運んだ。
「うわぁ。どっちも美味しそう」
イチゴがこれでもかってくらいゴロゴロのってホイップクリームでデコられているイチゴのホールケーキか
表面がツルンと輝いていてその上に削ったチョコが散りばめられているチョコレートケーキか
「どっち食べる?」
せーので食べたい方を指差す事に決めた。
「せーの!」
僕がイチゴで数多はチョコレートケーキ。
「マジで…!」
あんな大事があった後だし、今日は贅沢していいよね。お母さんも自由に食べてって言ってたし。
イチゴもチョコも少しずつ両方食べてみたい。
「数多、そのチョコレートのホールケーキ、一口すくって食べてみて」
「俺が?こんな大きなホールケーキをカット無しで?直に??
いや、日向だろ。日向ん家なんだし」
「遠慮しなくてもいいのに……じゃあ一口」
イチゴのホールケーキをフォークですくって一口食べてみた。
こんなに大きなケーキに直にフォークを入れたのは初めてかも
子供の時に誕生日でよくホールケーキを食べたけど、いつも4等分にカットされてたな。
一度でいいからあの丸のままのケーキに直にフォークを刺して食べてみたい!
子供の頃の夢がまさかこんな形で実現するとは思ってもみなかった。
「うわ、美味しい…数多も食べてみて」
「こんな大きなケーキにいいのかな?」
「いいよ。食べてみて!」
「じゃあ,頂きます。うゎ……めちゃ濃厚…美味しい」
「僕にも食べさせてよ」
数多がフォークですくって僕に「ほらっ」て差し出した。
え…食べさせてくれるんだ
「わっ、本当だ!凄い濃厚…。こんな大きなケーキ独り占めしてもいいのかなあ」
「俺にもイチゴの方食べさせてよ」
「うん」
ちょっと照れくさいけど、一口分すくったフォークを数多に差し出した。
数多はぼくの手首を掴んでイチゴケーキを口に運んだ。
手首掴むとかなんでそんなに自然に出来るんだよ?
「あの、僕、数多に渡したい物があるんだ!」
咄嗟に腕を払いのけて立ち上がってしまった。
カバンからリボンに包まれた箱を取り出した。
「これ、どうしても数多に渡したくって。
クリスマスプレゼント、良かったら」
「えっ、俺に?ありがとう…開けてもいい?」
「勿論」
数多は丁寧にラッピングを解く。
「えつ、これって………
ブックカバーとブックマーク?しかもブックマークには名前が彫ってあるよ。TUMUGIって」
「うん、ブックカバーは無くさないだろうと思って名前は入れなかったんだけど、ブックマークは落とすかもしれないから名前を入れて貰ったんだ。
数多、よく読書してるし読んでみたい単行本があるって言ってたよね。だから…」
「覚えててくれたんだ」
数多が嬉しそうにずっとプレゼントを見てるから僕まで嬉しくなってくる。
「サイズもちゃんと単行本用のだから大丈夫だと思う」
「早速使わせて貰うよ、あっ、俺も」
上着のポケットに手を突っ込んで何かを探していた数多が僕の手に細長い箱を乗せてくれた。
「俺からもメリークリスマス」
「えっ!プレゼント?嬉しい、、開けてもいい」
「どうぞ」
「あっ、これって……イヤホン?」
イヤーピースの部分がオレンジ色でコードは白色。
よく見たらイヤーピースの下の方が薄い赤色で初めて2人で見た夕焼けに似ている。
「2人でクリスマスソングを聴いた時に、なんか繋がってるみたいな気がして…共有してるって言うか…」
「そうだね」
「俺のは安物だから長い間付けてると耳が痛くなるけど、これは痛くならないって書いてあったから大丈夫だと思う」
「ありがとう、あっ、そうだ今から音楽聴いてみない?」
僕はお気に入りのミュージックを探して
数多の片方の耳にイヤーピースを付けてあげた。
「ねえ、聞こえる?」
「うん、聞こえるよ」
2人で小さく口ずさみながら音楽を聴いていた。
「僕、ここのサビ部分大好き」
「俺も好きだな」
「日向…」
「ん?」
「好きだよ」
「僕も…」
このままずっと…キスしてたいな。
「そうだ、今日って泊まって…いく?」
「いや、これ以上居たら俺…やばいかも。今日は帰るよ」
「そうだよね」
僕の心臓ももたなかったかもしれない。


