ピコピコンッツ
【お〜い悠馬、旅行どうだった?今日は何時に迎えに行けばいいの?】
今日は僕の母親が駅に迎えに来て、数多を乗せて家に送っていく事になっている。
男子高校生は案外ノープランで行動しているもの。
帰りの電車の時間は行き当たりばったりでいいと思う。
なぜなら夏休みで時間は余るほど有るんだから。
母親も今日は仕事が休み。一日中家に居ると言っていたし。
電車に乗ってからでも間に合うはず。
取り敢えず〔また後でメールする〕と返信しておこう。
「帰りって何時の電車があるの?」
「そうだなぁ、1番早くてあと20分後かな」
「ソフトクリームでも食べて時間潰す?」
数多との距離が縮まった気がするこの地にさようなら……また来れたらいいな。
平日の電車は割と空いている。
引いていたキャリーケースを股の間に入れて動かないように固定して深く席に腰掛けた。
「あーあ本当に楽しかったなぁ」
瑞穂がなごり惜しそうに外を見ながら呟いた。
「またいつもの毎日に戻るのか…」
「まだ夏休みは残っているんだから、みんなでプールとか行けばいいんじゃない?近場だけど」
「僕もそのメンバーに入れてよ」
思わず口をついて出てしまった。
「あっ、俺も行く行く!夏休みって割と暇なんだよね。
毎日飼育室に行ってたのに行かなくてもいいとなると、なんか物足りなく感じるんだよなあ」
里見がそんな事思ってたなんて
ゴトンゴトンゴトン
優しい電車に揺られながら僕達全員はいつの間にか深い眠りについていた。
「おい日向、日向ってば、起きて早く」
「えつ、何?」
「駅!ついたよ。早く降りるよ」
「駅??」
「やば!マジで爆睡してた」
「俺もだよ。ウトウトしてたら着いててさぁ。
次の乗り継ぎ電車の待ち時間が10分あったお陰で命拾いしたよ」
僕達は慌てて電車から飛び降りた。
「じゃあ、俺達こっちだから〜、また夏休み中にどっか行こうぜー。連絡するよ」
「グループチャットにお願いしまーす」
「だねだね、スマホ抱きしめて待ってるよ」
「じゃあ、行きますか。2人共気をつけてな〜、バイバーイ」
3人は手を振って去っていった。
「じゃあ、僕達も帰ろうか…えっとーお母さんは…何処に…あっ!!」
まずい!
慌ててカバンの中からスマホを取り出してメッセージをチェックした。
【悠馬、何時に迎えに行けばいいの?】
【悠馬、今日帰ってくるんでしょう】
【おい、悠馬、無視とか??】
【まさか携帯無くした??】
鬼メールに電話の着信履歴が数十件
母親からだ……。
「お母さんに連絡するの忘れてたあぁ」
「何?どうしたの?」
「駅に迎えに来てもらう時間、メールするの忘れてた。ごめん、今すぐお母さんに連絡するからちょっと待っててくれる?」
「いいよ」
プルルルル プルッ ガチャッツ
「悠馬?何やってたのよー。連絡も寄越さないで。
今日迎えに行くんだったよね?携帯でも失くしたのかと思ってお母さん心配しちゃったわよ」
「うん。ごめん。ちょっと疲れて寝落ちしちゃって。
今駅に着いたんだけど、何時ごろ来れそう?」
「お母さん、今買い出しに出ちゃったからぁ〜。
そうねえ、今から30分位待っててくれたら行けると思うから。
じゃあさぁ駅の近くに公園あるじゃない…そこで待っててくれない?着いたらお母さん電話するから。」
「うん、分かった。じゃあそういうことで」
よかった!!30分後には迎えに来てくれる。
びびったぁ
「お母さん30分後に駅近の公園に迎えに来てくれることになった。ごめん!!
うっかり寝ちゃって連絡するの忘れてた」
数多に情けない奴だと思われていないだろうか?
なんだか落ち込んでしまう。
「仕方ないよ、疲れてたんだろう。そんなことより、公園に行こうか」
数多と僕はキャリーケースをゴロゴロ引きずりながら公園に向かった。
公園に着いて適当なベンチに腰掛けて一息ついた。
「あっ、そうだ、上着」
「はい、これ。長い間借りっぱなしでごめん。
そしてありがとう」
「どういたしまして。あっ、そうだ、これ」
数多がキーホルダーを2つ、指にぶら下げて見せてくれた。
「えっ、これって…キャラメルのおまけ?とか…」
「そう、実は全部で3個買ってたんだよね、、、って言うか3個しかなかったんだけど。
日向に1つあげるよ。どっちがいい?」
ゆらゆら揺れるしっぽが可愛い赤オレンジ色の金魚と何とも間抜け面だが、愛嬌のあるメダカが数多の指で泳いでいる。
「えっ〜じゃあ僕はメダカをもらうよ。メダカ、もらってもいい?」
「いいよ。はいどーぞ」
メダカのキーホルダーを僕の手の上に乗せてくれた。
「あっ、僕もキャラメルのおまけ持ってきたんだ。
これだったんだよ」
ズボンのポッケからキーホルダーを取り出して数多に見せた。
「金魚…」
「うん、ゆらゆらしっぽの青色の金魚。でもさ、はじめは勿体無くてなかなか開封出来なくて。旅行の前日にやっと開ける事が出来たんだ。
僕が青で数多が赤か。お揃いだね」
お揃い……男子高校生がお揃いで喜ぶって。
「ご、ごめん…お揃いとかって・・ちょっとキモイかな?
でも、僕これすごい大切にするよ。
ていうか…僕あのお、その…数多の事がすっ、…好きかも」
ここで言うつもりなんて無かったのに何故か口をついて出てしまった好き。
数多は何って思っんだろう?引いてる?
数多は最後まで話を聞こうと真剣な面持ちで僕を見ていた。
「キモいなんて誰が思うの?悩んで決心して、今告白してくれたんだろう。好きな人からの告白だからうれしいよ。
やっと言ってくれた。ずっと待ってたんだよ。」
好きな人?今、僕の事を好きな人って言った?
「僕でいいの?」
「日向はもっと自分の魅力に気づいた方がいいよ。
前だって2年生の女子から下駄箱で捕まえられそうになってただろう。」
そう言えばそんな事もあったかも。
「俺はいつも日向の事を見てるよ」
胸が一杯で気の利いたセリフなんて一つも浮かばない。
「うん、分かった。」
「分かってくれたの…良かった……やっと捕まえたよ」
数多が僕を優しく抱きしめた。
「やっと…?」
その意味を聞きたくて顔を上げた時数多の唇が僕の唇と重なった。
「・・・・・・・・」
まさかの展開に驚いたけど拒む事なんて出来ない。
なんだか照れくさくて笑ってしまう。
「僕と付き合ってもらえますか?」
心臓が口から飛び出そう
「僕と付き合ってください」
「何それ?付き合って返しとか・・・はは、宜しくお願いします…」
プルルルルッツ
「もしもし」
「あっ、悠馬?今公園に着いたから出ておいで」
「分かった、今行く」
「ごめんね、数多君、この子連絡くれるのが遅かったから」
「いえ、実は僕も眠り込んでたんで」
「男の子5人だもんね。さぞかし騒がしかったんでしょう〜。でも無事に帰って来れてよかったわ。」
そんな話をしていたら数多の家に到着した。
「送ってもらってありがとうございました。
日向またメールするね。じゃあさようなら」
数多は僕の母親に丁寧にお礼を言って車を降りた。
母親と僕の2人になった車の中はとても静かだった。
チラッとミラーで僕の事を確認しているのに気付いたけど、うとうとしているふりをした。
僕は唇にそっと触れてみた。
本当にキスしてしまった・・・。


