チリリン、チリリン、チリリン
8時にセットされた携帯のアラームがなり響いている。
誰かそのアラームを止めてくれないだろうか?
誰も止めてはくれないからなんとか片手だけで携帯を探し出す。その時朝日がまぶしく部屋の中に降り注いでいるのに気付いた。
ボサボサになった髪をぐしゃぐしゃと掻きながら、布団から顔を出して半分寝ぼけまなこで
「ふぁぁ〜」
と大きく伸びをする僕。
「そうだ、数多は?」
昨日、数多に手を握られながら何故か安心して眠ってしまったが、隣に寝ていたはずの数多の姿がいない。
「おはよう、目が覚めた?」
一番最初に声をかけてくれたのは里見だった。
「うん、おはよう。あれ…もしかしてもうみんな起きてた?僕が1番遅い?」
「いや、俺らもちょっと前に起きたとこだよ」
「そうか…数多は?」
数多の姿を探してしまう。
「あっ、数多?みんなの分のコーヒー入れるって今キッチンのところにいるよ。家から引いた豆を持ってきてくれたみたいでさぁ。すごくいい匂いしてんだよ。」
里見が鼻をクンクンとさせている。
僕もクンクンしてみた。
「本当だ。いい匂い。朝からこんないい匂いをかけるなんて最高だね。」
「だろう〜〜やっぱ数多って気が利くっていうか…
女子だったらもうイチコロだよね」
里見が笑ってみせた。
コーヒーをいれるだけでイチコロにさせる、そんな破壊力を数多は実際に持っている。
東も瑞穂も犬みたいに鼻をクンクンさせている。
部屋の酸素濃度が一気に下がった。そんな気がして面白かった。
「お待たせコーヒー入ったよ」
数多が白いテーブルの上に5個のコーヒーカップを置いた。
コーヒーカップは、最初から部屋に準備されていたものだ。
薄い茶色のコーヒーカップはコーヒーの色を際立たせてより一層美味しそうに見えた。
朝食は最初からついていないと知らされていたので
昨日の夕方に売店、いや売店ではない。カフェスペースで購入したハムエッグトーストやミックスサンド、あんドーナツ、おにぎりなどを買い込んでいた。
それらが大きなお皿の上にきれいに並べられている。
「数多、これ全部やってくれたの?
数多って、本当に僕にとっての王子様だよぉ」
と、言って瑞穂が目をキラキラさせながら数多を見ている。
「じゃあ、僕はこれにし・よ・う」
と言って、真っ先にミックスサンドを選んでいる。
瑞穂はやっぱり根っからのアイドル男子だ。
「じゃあ俺はおにぎりにしようかな」
里見がまさかのおにぎりを選んだ。
「コーヒーとおにぎりって合うの?」
思わず、僕は里見に素朴な質問をしてしまった。
「おにぎり食べ切ってからコーヒー飲むわ」
成程…順番が大事なのか。
僕と数多は同時にハムエッグトーストに手を伸ばした。
数多と僕の手が重なった時、僕は慌てて自分の手を引っ込めた。
「日向はハムエッグトースト好きなんだ。これ食べていいよ。」
数多が僕に譲ってくれようとする。
「じゃあ僕はやっぱおにぎりにするわ。日本人男子、
朝は、やっぱりお米ということで」
と東がおにぎりに手を伸ばした。
数多は最後に残ったあんドーナツを自分の皿に乗せた。
「数多、そのあんドーナツとハムエッグトースト、半分ずつにしない?僕、甘いのとしょっぱいの両方食べたいんだ。」
数多が朝から甘い物を食べたいとは思えなかった。
「えっ、いいの?じゃあ半分ずつ…キッチンで何か切るものないか探してくる」
2〜3分後数多がキッチンからプラスチック製のナイフを持ってきた。
あんドーナツとハムエッグを半分に切って、僕のお皿の上に乗せてくれた。
数多は自分の分を皿に載せ終わると僕の方にそっと振り向き
「同じもの食べれるね」
と囁いてちょっとクールな顔で微笑んだ。
僕もつられて笑っていた。
他の3人が
「半分ことか思いつかなかったよ。
俺らもそうすればよかった」
少し不満そうにこっちを見ている。
「数多は日向に甘過ぎない?」
瑞穂がちょっと拗ねている。
今、数多に見とれてた僕の事気づいてないよね?
僕も慌ててコーヒーを1口飲んだ。
たった1日では全然遊び足りない…
物足りないが高校生の身分では仕方ない
朝の10時半がチェックアウト。
僕たちはキャリーケースをズルズル引っ張りながら、受付に鍵を返しに行った。
「カギ、返しに来ました」
「はーい、ありがとうございました」
カウンターにいた見た目年齢僕達のお母さん位の人がお礼を言ってくれた。
「高校生5人で来たの?」
「はい、そうです」
「何年生?」
「高校3年生です」
「高校生活最後の夏休みだね、高校生かぁ、いいなぁ。楽しめたかなぁ?」
「凄く楽しかったです。また皆んなで来たいと思ってます」
男子高校生5人とスタッフの人たちでちょっとした会話が弾んだ。
そこに里見が
「いや、俺は今度は可愛い彼女と一緒に来たいと思ってます。」
いもしない彼女の存在を匂わせている。
「おまえ、彼女なんて居ないだろ…」
珍しく数多が突っ込んでいる。
「5人とも凄くかっこいいから絶対モテるでしょう?
でもこーいう所は男の子同士できてワイワイガヤガヤした方が楽しいとおばさんは思うよ。高校生活最後なら尚更よ〜。
彼女と2人ならいつでも来れるだろうけど、男友達5人ってなるとなかなか難しいのよ〜」
「そんなもんですかね?僕達はずっと仲良しですけど」
と東が会話に入ってきた。
「そうね〜今は分からないかもしれないけど、何年かしたらおばさんの言った意味がわかると思うよー」
スタッフさんは優しく笑いながら僕達を送り出してくれた。
コロリン…携帯の着信音が鳴った
僕の母親からのメールだった。
「今日は何時に駅に迎えに行けばいいの?」
今回は僕の母親が駅に迎えに来て、数多を乗せて彼
の家まで送っていく番になっている。
男子高校生は案外ノープランで行動しているもの。
帰りの電車の時間は行き当たりばったりでいいと思う。
なぜなら夏休みで時間は余るほど有るんだから。
母親も今日は仕事が休み。一日中家に居ると言っていたし。
電車に乗ってからでも間に合うはず。
取り敢えず〔また後でメールする〕と返信しておこう。
「帰りって何時の電車があるの?」
瑞穂が数多に聞いている。
「そうだなぁ、1番早くてあと20分後かな」
乗り継ぎ案内を確認しながら時計を見ている。
20分…微妙な時間がある。
「ソフトクリームでも食べて時間潰す?」
誰かがボソッと誘ってきた。
「そうだなぁ、折角だし…丁度時間潰すのに良いかも」
最後の地域限定特製ソフトクリームを男子5人で味わい、食べ終わった頃に、僕達を現実の世界に連れ戻す電車がやって来た。
本当に楽しかったなぁ。数多との距離も少し縮まった気がするこの地にさようなら……また来れたらいいな。
心の中でお別れを呟いて電車に乗り込んだ。
平日に旅行に行けると言うのはなんとも最高。
平日の電車は割と空いている。
引いていたキャリーケースを股の間に入れて動かないように固定して深く席に腰掛けた。
「あーあ本当に楽しかったねえ」
瑞穂がなごり惜しそうに外を見ながら呟いた。
「またいつもの毎日に戻るのか…」
東が残念そうに下を見た。
「まだ夏休みは残っているんだから、みんなでプールとか行けばいいんじゃない?近場だけど」
数多が何故が慰める役になっている。
「僕もそのメンバーに入れてよ」
思わず口をついて出てしまった。
僕ももっと皆んなと遊びたい…皆んなと??
いや、数多とかもしれない。
「あっ、俺も行く行く!夏休み割と暇なんだよね。
飼育委員の餌やりだって先生が代わりばんこで面倒みるって言ってただろ。
毎日飼育室に行ってたのに行かなくてもいいとなるとなんか物足りなく感じるんだよな」
里見はどうも遊びに積極的な様だった。
ゴトンゴトンゴトン
優しい電車に揺られながら僕達全員はいつの間にか深い眠りについていた。
「おい日向、日向ってば、起きて早く」
誰かが僕の肩を揺らしている。
「えつ、何?」
「駅!ついたよ。早く降りるよ」
「駅??」
僕はびっくりして飛び起きた。
足で挟んでいたはずのキャリーケースは数多が持ってくれている。
「やば!マジで爆睡してた」
「俺もだよ。ウトウトしてたら着いててさぁ。
次の乗り継ぎ電車の待ち時間が10分あったお陰で命拾いしたよ」
僕達は慌てて電車から飛び降りた。
流石の数多も疲れていたんだろう。なのに僕のキャリーケースまで持ってくれていて…
爆睡してしまった自分が申し訳なく感じる。
「でもさぁなんだかんだ言って最後にアクシデントもあったけど、怪我もなく楽しく終われて良かったよね」
瑞穂が微笑みながら後ろを振り向き僕に笑いかけた。
駅の改札口を抜けると
「俺達こっちだから。また夏休み中にどっか行こうぜー。連絡するよ」
と里見が僕と数多に話かけてきた。
「グループチャットにお願いね」
と瑞穂が付け加える。
「だねだね」と東がクビを縦に振っている。
「じゃあ、行きますか。2人共気をつけてね〜バイバーイ」
3人は手を振って去っていった。
僕と数多は3人の後ろ姿を見ながら振り返していた手を下ろした。
「じゃあ、僕達も帰ろうか…えっとーお母さんは…何処に…」
その瞬間僕は血の気が引いて顔面蒼白になった。
慌ててカバンの中から携帯を取り出してメッセージをチェックする。
「日向、何時に迎えに行けばいいの?
「日向、今日帰ってくるんでしょう」
「おい、日向、無視とか??」
「まさか携帯無くした??」
鬼メールに電話の着信履歴が数十件
母親からだ……。
「ヤバい、連絡するの忘れてたあぁ」
「何?どうしたの?」
数多が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
「駅に迎えに来てもらう時間メールするの忘れてた。
ごめん今すぐお母さんに連絡するからちょっと待っててくれる?」
「いいよ」
僕は急いで母親に電話をかけた。
電話を取った母親は
「何やってたのよー。連絡も寄越さないで。
今日迎えに行くんだったよね?携帯でも失くしたのかと思ってお母さん心配しちゃったわよ」
「うん。ごめん。ちょっと疲れて寝落ちしちゃって。
今駅に着いたんだけど、何時ごろ来れそう?」
「お母さん、今買い出しに出ちゃったからぁ〜。
そうねえ、今から30分位待っててくれたら行けると思うから。
じゃあさぁ駅の近くに公園あるじゃない…そこで待っててくれない?着いたらお母さん電話するから。」
「うん、分かった。じゃあそういうことで」
よかった!!30分後には迎えに来てくれると言う言葉に僕は安心した。
数多の方に振り返って
「お母さん30分後に駅近の公園に迎えに来てくれることになった。ごめん!!
うっかり寝ちゃって連絡するの忘れてた。」
数多に情けない奴だと思われていないだろうか?
なんだか落ち込んでしまう。
「仕方ないよ、疲れたんだろう。そんなことより、公園に行こう」
数多と僕はキャリーケースをゴロゴロ引きずりながら公園に進んでいった。
適当なベンチに腰掛けて一息ついた。
「あっ、そうだ、上着」
僕は背負っていたカバンから借りていた上着を取り出した。
「はい、これ。長い間借りっぱなしでごめん。
そしてありがとう」
「どういたしまして。俺の上着が日向を温められたなら
それで満足だよ」
数多はニッコリ微笑みながら、僕から上着を受け取った。
数多って僕といる時だけ自分のことを俺って呼ぶ。
そんな些細なことにドキドキしている自分がいる。
「あっ、それとこれ」
と言って数多がキーホルダーを2つ指にぶら下げて見せた
「えっ、これって…キャラメルのおまけ?とか…」
「そう、実は全部で3個買ってたんだよ。て言うか3個しかなかったんだけどね。
日向に1つあげるよ。どっちがいい?」
ゆらゆら揺れるしっぽが可愛い赤オレンジ色の金魚と何とも間抜け面だが、愛嬌のあるメダカが数多の指で泳いでいる。
「じゃあ僕はメダカをもらうよ。メダカもらってもいい?」
「いいよ。はいどーぞ」
と言ってメダカのキーホルダーを僕の手の上に乗せてくれた。
「あっ、僕もキャラメルのおまけ持ってきたんだ。
これだったんだよ」
自分のズボンのポッケからキーホルダーを取り出して数多に見せた。
「金魚…」
「うん、ゆらゆらしっぽの青色の金魚。でもさ、はじめは勿体無くてなかなか開封出来なくて。旅行の前日にやっと開ける事が出来たんだ。
僕が青で数多が赤か。お揃いだね」
お揃い……男子高校生がお揃いで喜ぶって。
自分で言っておきながら僕は顔が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめん…お揃いとかってちょっとキモイかな?
でも、僕これすごい大切にするよ。ていうか…キモいついでに言わせて貰うと、僕あのお、その…数多の事がすっ、…好きなんだ」
ここで言うつもりなんて無かったのに何故か口をついて出てしまった好き。
数多は何って思っんだろう?引いてる?
でも僕は逃げない。逃げないと決めたんだ。
そうは言いつつもやはり心配になってチラッと数多の方を見てしまった。
数多は最後まで僕の話を聞こうと真剣な面持ちで僕を見ている。
「キモいなんて誰が思うの?悩んで決心して、今告白してくれたんだろう。好きな人からの告白だからうれしいよ。
日向は優しいし、カッコいいよ。
なのに自分に自信が無いだろう。
だから自信を持って俺に好きって言って欲しかった。
いや、俺の事が好きなんだって自信を持って欲しかったんだ。言わせてごめん」
数多は僕のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
好きな人?今僕の事好きな人って言った?
「僕でいいの?」
数多が僕の事を好きだなんて信じられなかった。
「日向はもっと自分の魅力に気づいた方がいいよ。
時々俺の声が日向には届いてないのかなぁって不安になる時もあったんだよ。
前だって2年生の女子から下駄箱で捕まえられそうになってただろう。」
そう言えばそんな事もあったかも。
人は嫌な記憶を抹消してしまえる生き物なんだと気づいてしまった。
「俺はいつも日向をみてる。日向の事が好きだよ。
でもいつも守ってやれるとは限らない。だから自分の身は自分で守れる様にして欲しいんだ。危ないと思ったら相手に遠慮なんかせずにやめろって言って欲しい」
こんなに僕の事を気にしてくれていたなんて
胸が一杯で気の利いたセリフなんて一つも浮かばない。
「うん、分かった。」
「分かってくれたの…良かった……やっと捕まえたよ」
数多が僕の顎に手をおいて囁いた。
「やっと??」
どういう意味??と聞こうとした瞬間
数多の唇が僕の唇と重なる
まさかの展開に驚いたが拒むことなんて出来ない。
2人の唇は少しして離れたが、お互いのおでこはくっつけたまま、見つめ合ってくすっと笑った。
恥ずかしすぎて目が泳いでしまう。
「僕と付き合ってもらえますか?」
心臓が口から飛び出るかと思う位、ドキドキしながら数多に告白した。
「僕と付き合ってください」
なんとも数多らしい返しに僕の足はおぼつかない。
地面がスポンジみたいにふわふわしている様に感じた。
そんな余韻に浸っていた時、母親から電話がかかってきた。
「今公園に着いたから出ておいで」
母親の車に乗り込み数多の家に向かう。
「ごめんね、数多君、この子連絡くれるの遅かったから」
「いえ、実は僕も眠り込んでたんで」
「男の子5人だもんね。さぞかし騒がしかったんでしょう〜。でも無事に帰って来れてよかったわ。」
そんな話をしている間に数多の家に到着した。
「送ってもらってありがとうございました。
日向またメールするね。じゃあさようなら」
数多は僕の母親に丁寧にお礼を言って車を降りた。
母親と僕の2人になった車の中は静かだった。
チラッと母親がミラーで僕の事を確認している。
うとうとしているふりをして、僕は唇にそっと触れた。
8時にセットされた携帯のアラームがなり響いている。
誰かそのアラームを止めてくれないだろうか?
誰も止めてはくれないからなんとか片手だけで携帯を探し出す。その時朝日がまぶしく部屋の中に降り注いでいるのに気付いた。
ボサボサになった髪をぐしゃぐしゃと掻きながら、布団から顔を出して半分寝ぼけまなこで
「ふぁぁ〜」
と大きく伸びをする僕。
「そうだ、数多は?」
昨日、数多に手を握られながら何故か安心して眠ってしまったが、隣に寝ていたはずの数多の姿がいない。
「おはよう、目が覚めた?」
一番最初に声をかけてくれたのは里見だった。
「うん、おはよう。あれ…もしかしてもうみんな起きてた?僕が1番遅い?」
「いや、俺らもちょっと前に起きたとこだよ」
「そうか…数多は?」
数多の姿を探してしまう。
「あっ、数多?みんなの分のコーヒー入れるって今キッチンのところにいるよ。家から引いた豆を持ってきてくれたみたいでさぁ。すごくいい匂いしてんだよ。」
里見が鼻をクンクンとさせている。
僕もクンクンしてみた。
「本当だ。いい匂い。朝からこんないい匂いをかけるなんて最高だね。」
「だろう〜〜やっぱ数多って気が利くっていうか…
女子だったらもうイチコロだよね」
里見が笑ってみせた。
コーヒーをいれるだけでイチコロにさせる、そんな破壊力を数多は実際に持っている。
東も瑞穂も犬みたいに鼻をクンクンさせている。
部屋の酸素濃度が一気に下がった。そんな気がして面白かった。
「お待たせコーヒー入ったよ」
数多が白いテーブルの上に5個のコーヒーカップを置いた。
コーヒーカップは、最初から部屋に準備されていたものだ。
薄い茶色のコーヒーカップはコーヒーの色を際立たせてより一層美味しそうに見えた。
朝食は最初からついていないと知らされていたので
昨日の夕方に売店、いや売店ではない。カフェスペースで購入したハムエッグトーストやミックスサンド、あんドーナツ、おにぎりなどを買い込んでいた。
それらが大きなお皿の上にきれいに並べられている。
「数多、これ全部やってくれたの?
数多って、本当に僕にとっての王子様だよぉ」
と、言って瑞穂が目をキラキラさせながら数多を見ている。
「じゃあ、僕はこれにし・よ・う」
と言って、真っ先にミックスサンドを選んでいる。
瑞穂はやっぱり根っからのアイドル男子だ。
「じゃあ俺はおにぎりにしようかな」
里見がまさかのおにぎりを選んだ。
「コーヒーとおにぎりって合うの?」
思わず、僕は里見に素朴な質問をしてしまった。
「おにぎり食べ切ってからコーヒー飲むわ」
成程…順番が大事なのか。
僕と数多は同時にハムエッグトーストに手を伸ばした。
数多と僕の手が重なった時、僕は慌てて自分の手を引っ込めた。
「日向はハムエッグトースト好きなんだ。これ食べていいよ。」
数多が僕に譲ってくれようとする。
「じゃあ僕はやっぱおにぎりにするわ。日本人男子、
朝は、やっぱりお米ということで」
と東がおにぎりに手を伸ばした。
数多は最後に残ったあんドーナツを自分の皿に乗せた。
「数多、そのあんドーナツとハムエッグトースト、半分ずつにしない?僕、甘いのとしょっぱいの両方食べたいんだ。」
数多が朝から甘い物を食べたいとは思えなかった。
「えっ、いいの?じゃあ半分ずつ…キッチンで何か切るものないか探してくる」
2〜3分後数多がキッチンからプラスチック製のナイフを持ってきた。
あんドーナツとハムエッグを半分に切って、僕のお皿の上に乗せてくれた。
数多は自分の分を皿に載せ終わると僕の方にそっと振り向き
「同じもの食べれるね」
と囁いてちょっとクールな顔で微笑んだ。
僕もつられて笑っていた。
他の3人が
「半分ことか思いつかなかったよ。
俺らもそうすればよかった」
少し不満そうにこっちを見ている。
「数多は日向に甘過ぎない?」
瑞穂がちょっと拗ねている。
今、数多に見とれてた僕の事気づいてないよね?
僕も慌ててコーヒーを1口飲んだ。
たった1日では全然遊び足りない…
物足りないが高校生の身分では仕方ない
朝の10時半がチェックアウト。
僕たちはキャリーケースをズルズル引っ張りながら、受付に鍵を返しに行った。
「カギ、返しに来ました」
「はーい、ありがとうございました」
カウンターにいた見た目年齢僕達のお母さん位の人がお礼を言ってくれた。
「高校生5人で来たの?」
「はい、そうです」
「何年生?」
「高校3年生です」
「高校生活最後の夏休みだね、高校生かぁ、いいなぁ。楽しめたかなぁ?」
「凄く楽しかったです。また皆んなで来たいと思ってます」
男子高校生5人とスタッフの人たちでちょっとした会話が弾んだ。
そこに里見が
「いや、俺は今度は可愛い彼女と一緒に来たいと思ってます。」
いもしない彼女の存在を匂わせている。
「おまえ、彼女なんて居ないだろ…」
珍しく数多が突っ込んでいる。
「5人とも凄くかっこいいから絶対モテるでしょう?
でもこーいう所は男の子同士できてワイワイガヤガヤした方が楽しいとおばさんは思うよ。高校生活最後なら尚更よ〜。
彼女と2人ならいつでも来れるだろうけど、男友達5人ってなるとなかなか難しいのよ〜」
「そんなもんですかね?僕達はずっと仲良しですけど」
と東が会話に入ってきた。
「そうね〜今は分からないかもしれないけど、何年かしたらおばさんの言った意味がわかると思うよー」
スタッフさんは優しく笑いながら僕達を送り出してくれた。
コロリン…携帯の着信音が鳴った
僕の母親からのメールだった。
「今日は何時に駅に迎えに行けばいいの?」
今回は僕の母親が駅に迎えに来て、数多を乗せて彼
の家まで送っていく番になっている。
男子高校生は案外ノープランで行動しているもの。
帰りの電車の時間は行き当たりばったりでいいと思う。
なぜなら夏休みで時間は余るほど有るんだから。
母親も今日は仕事が休み。一日中家に居ると言っていたし。
電車に乗ってからでも間に合うはず。
取り敢えず〔また後でメールする〕と返信しておこう。
「帰りって何時の電車があるの?」
瑞穂が数多に聞いている。
「そうだなぁ、1番早くてあと20分後かな」
乗り継ぎ案内を確認しながら時計を見ている。
20分…微妙な時間がある。
「ソフトクリームでも食べて時間潰す?」
誰かがボソッと誘ってきた。
「そうだなぁ、折角だし…丁度時間潰すのに良いかも」
最後の地域限定特製ソフトクリームを男子5人で味わい、食べ終わった頃に、僕達を現実の世界に連れ戻す電車がやって来た。
本当に楽しかったなぁ。数多との距離も少し縮まった気がするこの地にさようなら……また来れたらいいな。
心の中でお別れを呟いて電車に乗り込んだ。
平日に旅行に行けると言うのはなんとも最高。
平日の電車は割と空いている。
引いていたキャリーケースを股の間に入れて動かないように固定して深く席に腰掛けた。
「あーあ本当に楽しかったねえ」
瑞穂がなごり惜しそうに外を見ながら呟いた。
「またいつもの毎日に戻るのか…」
東が残念そうに下を見た。
「まだ夏休みは残っているんだから、みんなでプールとか行けばいいんじゃない?近場だけど」
数多が何故が慰める役になっている。
「僕もそのメンバーに入れてよ」
思わず口をついて出てしまった。
僕ももっと皆んなと遊びたい…皆んなと??
いや、数多とかもしれない。
「あっ、俺も行く行く!夏休み割と暇なんだよね。
飼育委員の餌やりだって先生が代わりばんこで面倒みるって言ってただろ。
毎日飼育室に行ってたのに行かなくてもいいとなるとなんか物足りなく感じるんだよな」
里見はどうも遊びに積極的な様だった。
ゴトンゴトンゴトン
優しい電車に揺られながら僕達全員はいつの間にか深い眠りについていた。
「おい日向、日向ってば、起きて早く」
誰かが僕の肩を揺らしている。
「えつ、何?」
「駅!ついたよ。早く降りるよ」
「駅??」
僕はびっくりして飛び起きた。
足で挟んでいたはずのキャリーケースは数多が持ってくれている。
「やば!マジで爆睡してた」
「俺もだよ。ウトウトしてたら着いててさぁ。
次の乗り継ぎ電車の待ち時間が10分あったお陰で命拾いしたよ」
僕達は慌てて電車から飛び降りた。
流石の数多も疲れていたんだろう。なのに僕のキャリーケースまで持ってくれていて…
爆睡してしまった自分が申し訳なく感じる。
「でもさぁなんだかんだ言って最後にアクシデントもあったけど、怪我もなく楽しく終われて良かったよね」
瑞穂が微笑みながら後ろを振り向き僕に笑いかけた。
駅の改札口を抜けると
「俺達こっちだから。また夏休み中にどっか行こうぜー。連絡するよ」
と里見が僕と数多に話かけてきた。
「グループチャットにお願いね」
と瑞穂が付け加える。
「だねだね」と東がクビを縦に振っている。
「じゃあ、行きますか。2人共気をつけてね〜バイバーイ」
3人は手を振って去っていった。
僕と数多は3人の後ろ姿を見ながら振り返していた手を下ろした。
「じゃあ、僕達も帰ろうか…えっとーお母さんは…何処に…」
その瞬間僕は血の気が引いて顔面蒼白になった。
慌ててカバンの中から携帯を取り出してメッセージをチェックする。
「日向、何時に迎えに行けばいいの?
「日向、今日帰ってくるんでしょう」
「おい、日向、無視とか??」
「まさか携帯無くした??」
鬼メールに電話の着信履歴が数十件
母親からだ……。
「ヤバい、連絡するの忘れてたあぁ」
「何?どうしたの?」
数多が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
「駅に迎えに来てもらう時間メールするの忘れてた。
ごめん今すぐお母さんに連絡するからちょっと待っててくれる?」
「いいよ」
僕は急いで母親に電話をかけた。
電話を取った母親は
「何やってたのよー。連絡も寄越さないで。
今日迎えに行くんだったよね?携帯でも失くしたのかと思ってお母さん心配しちゃったわよ」
「うん。ごめん。ちょっと疲れて寝落ちしちゃって。
今駅に着いたんだけど、何時ごろ来れそう?」
「お母さん、今買い出しに出ちゃったからぁ〜。
そうねえ、今から30分位待っててくれたら行けると思うから。
じゃあさぁ駅の近くに公園あるじゃない…そこで待っててくれない?着いたらお母さん電話するから。」
「うん、分かった。じゃあそういうことで」
よかった!!30分後には迎えに来てくれると言う言葉に僕は安心した。
数多の方に振り返って
「お母さん30分後に駅近の公園に迎えに来てくれることになった。ごめん!!
うっかり寝ちゃって連絡するの忘れてた。」
数多に情けない奴だと思われていないだろうか?
なんだか落ち込んでしまう。
「仕方ないよ、疲れたんだろう。そんなことより、公園に行こう」
数多と僕はキャリーケースをゴロゴロ引きずりながら公園に進んでいった。
適当なベンチに腰掛けて一息ついた。
「あっ、そうだ、上着」
僕は背負っていたカバンから借りていた上着を取り出した。
「はい、これ。長い間借りっぱなしでごめん。
そしてありがとう」
「どういたしまして。俺の上着が日向を温められたなら
それで満足だよ」
数多はニッコリ微笑みながら、僕から上着を受け取った。
数多って僕といる時だけ自分のことを俺って呼ぶ。
そんな些細なことにドキドキしている自分がいる。
「あっ、それとこれ」
と言って数多がキーホルダーを2つ指にぶら下げて見せた
「えっ、これって…キャラメルのおまけ?とか…」
「そう、実は全部で3個買ってたんだよ。て言うか3個しかなかったんだけどね。
日向に1つあげるよ。どっちがいい?」
ゆらゆら揺れるしっぽが可愛い赤オレンジ色の金魚と何とも間抜け面だが、愛嬌のあるメダカが数多の指で泳いでいる。
「じゃあ僕はメダカをもらうよ。メダカもらってもいい?」
「いいよ。はいどーぞ」
と言ってメダカのキーホルダーを僕の手の上に乗せてくれた。
「あっ、僕もキャラメルのおまけ持ってきたんだ。
これだったんだよ」
自分のズボンのポッケからキーホルダーを取り出して数多に見せた。
「金魚…」
「うん、ゆらゆらしっぽの青色の金魚。でもさ、はじめは勿体無くてなかなか開封出来なくて。旅行の前日にやっと開ける事が出来たんだ。
僕が青で数多が赤か。お揃いだね」
お揃い……男子高校生がお揃いで喜ぶって。
自分で言っておきながら僕は顔が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめん…お揃いとかってちょっとキモイかな?
でも、僕これすごい大切にするよ。ていうか…キモいついでに言わせて貰うと、僕あのお、その…数多の事がすっ、…好きなんだ」
ここで言うつもりなんて無かったのに何故か口をついて出てしまった好き。
数多は何って思っんだろう?引いてる?
でも僕は逃げない。逃げないと決めたんだ。
そうは言いつつもやはり心配になってチラッと数多の方を見てしまった。
数多は最後まで僕の話を聞こうと真剣な面持ちで僕を見ている。
「キモいなんて誰が思うの?悩んで決心して、今告白してくれたんだろう。好きな人からの告白だからうれしいよ。
日向は優しいし、カッコいいよ。
なのに自分に自信が無いだろう。
だから自信を持って俺に好きって言って欲しかった。
いや、俺の事が好きなんだって自信を持って欲しかったんだ。言わせてごめん」
数多は僕のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
好きな人?今僕の事好きな人って言った?
「僕でいいの?」
数多が僕の事を好きだなんて信じられなかった。
「日向はもっと自分の魅力に気づいた方がいいよ。
時々俺の声が日向には届いてないのかなぁって不安になる時もあったんだよ。
前だって2年生の女子から下駄箱で捕まえられそうになってただろう。」
そう言えばそんな事もあったかも。
人は嫌な記憶を抹消してしまえる生き物なんだと気づいてしまった。
「俺はいつも日向をみてる。日向の事が好きだよ。
でもいつも守ってやれるとは限らない。だから自分の身は自分で守れる様にして欲しいんだ。危ないと思ったら相手に遠慮なんかせずにやめろって言って欲しい」
こんなに僕の事を気にしてくれていたなんて
胸が一杯で気の利いたセリフなんて一つも浮かばない。
「うん、分かった。」
「分かってくれたの…良かった……やっと捕まえたよ」
数多が僕の顎に手をおいて囁いた。
「やっと??」
どういう意味??と聞こうとした瞬間
数多の唇が僕の唇と重なる
まさかの展開に驚いたが拒むことなんて出来ない。
2人の唇は少しして離れたが、お互いのおでこはくっつけたまま、見つめ合ってくすっと笑った。
恥ずかしすぎて目が泳いでしまう。
「僕と付き合ってもらえますか?」
心臓が口から飛び出るかと思う位、ドキドキしながら数多に告白した。
「僕と付き合ってください」
なんとも数多らしい返しに僕の足はおぼつかない。
地面がスポンジみたいにふわふわしている様に感じた。
そんな余韻に浸っていた時、母親から電話がかかってきた。
「今公園に着いたから出ておいで」
母親の車に乗り込み数多の家に向かう。
「ごめんね、数多君、この子連絡くれるの遅かったから」
「いえ、実は僕も眠り込んでたんで」
「男の子5人だもんね。さぞかし騒がしかったんでしょう〜。でも無事に帰って来れてよかったわ。」
そんな話をしている間に数多の家に到着した。
「送ってもらってありがとうございました。
日向またメールするね。じゃあさようなら」
数多は僕の母親に丁寧にお礼を言って車を降りた。
母親と僕の2人になった車の中は静かだった。
チラッと母親がミラーで僕の事を確認している。
うとうとしているふりをして、僕は唇にそっと触れた。
