先生、それって飼育委員じゃなきゃダメなんですか?

数多がいろいろ調べてくれたお陰で、電車で行けるグランピングを予約する事が出来た。
しかも数多のお母さんが、保護者として登録してくれたらしい。
瑞穂、里見、東の3人に関してはグループチャットで誘った瞬間に
「絶対に行く」
「何時にどこ集合?」
「グランピングって例えば何処らへん?」
「何泊するの?いつ宿泊代支払えばいい?」
断ると言う考えは無さそうだった。
高校生活最後の夏休み。皆んなで過ごせるなんて本当に楽しみしか無い。
でも僕はこの旅行で、数多との距離をもっと縮めたい。
願わくば好きだと伝えたいと思っている。

旅行当日は数多のお母さんが僕の家の近くまで車で迎えに来てくれて、そのまま駅に僕達を送ってくれた。
その代わりと言ってはなんだが、帰りは、僕の母親が駅まで迎えに来て数多を家まで送って行くと言うことになった。

駅に着くと瑞穂、里見、東はキャリーケースを持ってすでに改札口の前で待っていた。
「おはよう。もう着いてたんだ、早かったんだね」
僕は3人に声をかけた
「いやーなんかさー、瑞穂と東が俺ん家に泊まりに行きたいって言ってさぁ、昨日この2人泊まってったんだよなぁ。
でさぁ、俺の母ちゃん、朝から仕事じゃん。
朝飯3人分作ってくれて、そのまま駅に送ってくれたんだけど、ちょっと早く着いちゃったんだよ」
「なんだ、里見ん家に前泊したんだ。旅行が待てなかったって事?」
数多がお守り大変だったね。と言うような眼差しで里見を見ている。
「違うよ〜キャリーケースを1人でゴロゴロ転がしながら駅まで歩くのが嫌だったんだよぉ。」
瑞穂が口をとがらせて拗ねて見せた。
「そうそう、それにさあこんなお泊まり会なんて今までやってこなかったからさぁ〜。里見ん家にも一度行ってみたかったわけ。でも、すっごい楽しかったよ」
東が笑って答えた。
「そろそろ電車来てるんじゃない?中に入ろうよ。」
「あっ、そうだなぁ。乗り遅れたら大変だ。」
改札口を通って、目的地まで乗せてくれる電車を探した。電車はすでに到着していて発車の時間を待っている。
僕達5人は慌てて電車に飛び乗った。

5人で話しながら電車に揺られていると、あっという間に目的地に着いた。
駅を降りると想像を絶する景色がそこには広がっていた。
辺り一面山に囲まれていて、その側には川が流れ、大きな円形の白いテントがドーンと存在感を表している。
何ここ?異世界?
一度言ってみたかった
「空気がおいしい〜〜〜〜〜っつ」
全員が同じタイミングで叫んだのには、思わず笑ってしまった。
僕達は受付を済ませ、テントの番号を探した。

「ちょっと何?ここ想像以上なんだけど…」
僕は思わず後ずさりをしてしまう。
近くでみるとますます大きく感じるテントに萎縮してしまったのかもしれない。
「みんなで一緒に入ろうよ。抜け駆けは無しだよ」
数多の言葉に間抜け面をしていた僕達4人ははっと我に帰った。
「じゃあみんな一斉にせーーーーーの」
ドアを開けて同時に中に入った訳だが、
5人ともスケールのでかさに言葉を失う
「すげーっ、ベッドでっかい」
「トイレ、俺ん家の3倍」
「冷蔵庫もキッチンもあるよ。しかもコーヒーメーカーも!」
「風呂、足伸ばせて入れるよ」
「テントって言うわりにすごいしっかりしてるんだね」
もう誰が何を喋っているのか…探検隊がピラミッドのお宝を発見したら、こんな感じになるんだろうか?
暫く僕たちのテント探索は続いた。
探索を楽しんだ後、僕達は一息ついて窓の外を見た。
「本当に自然が綺麗だよなぁ」
「山があって川があって」
「でもなんか、お腹すいたなぁ〜〜。何か食べようよ。」
そういえば朝ご飯を食べてから何も食べていなかった。
東の一言に、僕達もお腹が空いている事に気付いてしまった。
「来る途中にソフトクリームとか団子とか売ってる所なかった?」
瑞穂が思い出したように言う。
「あったよね…そこ行ってみる?」
僕は皆んなに尋ねてみた。
「夕飯はバーベキューが出来るように材料の予約はしてあるから、昼は軽くカフェスタンドで済ませてもいいかもな」 と数多が答えた。
カフェスタンドぉぉぉ……なんて素敵な響き
何か青春じゃない??
売店でも同じ意味なんだろうけどなにかが違う!!
隣を見ると同じ事を思ったのか、間抜け面をした男子高校生3人がうっとりとした顔で数多の方を眺めていた。
全員一致で、カフェスタンドで各々好きなものを注文して食べる事になった。
何とかバーガーを食べているのもいれば、名物の団子を頬張っていたり、そばを啜っていたりとか…
男子高校生の食欲は計り知れない。
最後の締めはソフトクリーム。
ソフトクリームにハズレがあるのを見たことが無い。

僕たちの胃袋は充分に満たされた。
「ねぇ後でテントの周りを散策してみない?」
「するよぉ〜、勿論する」
「さっき川もあったよな…川に足とかつけてみたくない?」
「なんかバトミントンとかしたいんだけど。僕持ってきたんだよね」
「花火って川の近くでならしてもいいかなぁ?俺は花火を持ってきたよね。」
我先にと言いたいことを喋り出すから、誰が何を言っているのか…もうみんなが小学生に思えてきた。
でも、皆んながとても楽しそうで僕は思わず笑ってしまった。
その時、僕を見る視線に気がついた。
顔を向けると数多が、あいつら本当に仕方ないよなぁ〜とでも言いたげな顔で笑っている。
僕達2人はお互いに見つめ合って笑い合った。

夕飯まで僕達はバドミントン50回ラリーに挑戦する事にした…けど全然続かない。
室内と室外ではこんなに差が出るもんなんだろうか?
と言うより4人でラリー続ける方が難しいと思う。
バドミントンのラケットが2本足りないと思っていたけど受付で貸してもらえると分かり、急遽4人でのラリーになった訳だけど今少し後悔している。
10分もしたらぜいぜい息が切れて足が重くなってきた。
瑞穂が早速
「僕もう疲れた〜」
ギブアップした所で川に足をつけて5人で涼んだ。
透き通った川の水が僕達の足の上を流れていく。
「スイカでも買ってこれば良かったな」
やっぱり夏の風物詩はスイカだよな…

夕飯のバーベキューは地元で取れた野菜が山盛りに盛られていた。
その上豚肉、鶏肉も皿いっぱいに盛られている。
牛肉はちょっと高かったのでパスした。
だとしても、男子高校生5人の胃袋を満たすのには充分…いや多すぎだった。

お腹が一杯だ。ちょっと部屋で休憩しよう…。
僕たちはベッドで横になろうとしたが、男5人に用意されたベッドは何故か横並びにぴったりとくっついている。
「このベッドの距離感、間違ってない?これって…これで合ってるんだよな?」
里見が驚いた様に皆んなに問いかける。
朝からそうなっていたはずなのに、テンションが高すぎて誰も気が付かなかったらしい。
流石ベット5台は多過ぎたのかも。
スタッフさんも配置に悩んだのだろう…最後にこの並びに辿り着いたのは理解が出来た。

僕は出来る事なら数多とベッドの上で話がしたかった。
隣同士でなければ絶対に声が通ってしまう…
絶望を感じていると数多が
「日向、グランピングに行きたいって言い出したの日向だよな。日向はどのベッドがいいの?1番に決めていいよ。なっ、皆んないいよな?」
と声を掛けてくれた。
3人はどーぞと言う顔で僕を見ている。
「あっ、あーー僕が1番に選んでいいの?
なら……えっとぉ1番窓際かその隣…かなぁ」
「じゃあ、数多が次に選べばいいよ。色々手配してくれたしさぁ」
東はそう言う所に気がつくタイプ。
「そうだよね、それでいいよ。僕達3人はじゃんけんで決めるから、なぁ〜」
ここから3人のじゃんけん大会が始まった。

数多は窓際から2番目のベットを選んだ。
つまり、窓際(部屋の奥)から僕、数多、里見、東、瑞穂となった訳。
5個のベッドの距離がバグっているから話は出来ないとしても数多の寝顔なら見る事は出来る。
それだけでも今の僕には充分幸せかもしれない。

部屋では学校の事やお小遣いが少ないとか親の愚痴なんかを言い合って過ごしていた。
そのうち瑞穂、里見、東の3人がトランプをやり始めた。
僕と数多は何となくその3人の様子を眺めていた。
すると隣に座っていた数多が
「日向って夜は何時に寝るの?」
「僕?そうだなぁ〜ゲームとか始めちゃうと朝方2時過ぎまでやっちゃう時もあるかも」
「そうなんだぁ、日向ゲームやるんだ」
「うん、なるべく12時には終わる様にしてるんだけど」
「へぇーっ、ゲームっていつから始めたの?」
「えっとぉ、彼女と別れてからだから高1の終わり頃からかな」
「日向、彼女居たんだ」
「居たって言ってもそんな…あの…なんて言うかぁ〜あれだよ、アレ!!
友達の延長みたいな??手も繋いだことないし」
一人であたふたして、まるで浮気を問い詰められて弁解しているみたいで恥ずかしくなってくる。
数多は僕の目をじっと見て
「何そんなに慌ててるんだよ」
と言って笑った。
「いや、だって。彼女が出来たのその時が初めてだったし」
「そうなんだ、日向から告白したの?」
「いや、された方…。あっ、数多は彼女とかいたの?」
流石に怖くて彼女いるの?とは聞けない。
「俺?居ないね」
即答だった。
「そんなにカッコいいのに、告白されないなんて事無いでしょう…」
数多はモテるんだ。
「告白された事は何度でもあるよ。
でも俺が好きじゃないのに付き合えないだろ」
「そうだよね…」
「俺は自分がちゃんと好きって思った相手とじゃなき付き合いたくないんだ。ノリで付き合うとかは考えられないなぁ」

数多はちゃんと自分という物を持っている。
なんと無くで付き合ってしまった彼女には申し訳ないと思うし、自分にも反省する点はある。
数多は僕に今まで知らなかった感情も教えてくれる。
でも、何度も告白された事があるって…
分かってはいたけど、本人からそんな話を聞くと案外ショックを感じるものなんだ。
この気持ちって僕が数多の事を好きって思ってる証拠なんだよね…きっと。

ちょっと前の僕なら今のままが無くなるのが怖くて好きなんて言えなかっただろうなと思う。
でも今の僕は自分から逃げない。自信を持って
数多に気持ちを伝える。そう決めた。

「数多は告白とかした事あるの?」
聞こうとした時
「ねえ、花火しようよ。川の側なら大丈夫でしょ」
トランプに飽きた瑞穂がせがむ。

「星がめちゃくちゃ綺麗だよー。空一面星だらけでさあ。なんなのここは!
僕達の住んでる世界と本当に同じ世界なの?ここって」
外に出ていた東が興奮して騒いでいる。
「どれどれ?うわぁー何コレ?お前ら早く来いよ。こっち、こっち」
と里見が僕と数多に手招きをする。
中庭に続く扉を開いて外に出ながら僕と数多は空を眺めた。
「プラネタリウムなの?ここ」
僕達の前に居た瑞穂が絞り出す様に呟いた。
その時
「日向の瞳と同じくらい綺麗だな」
数多が僕の耳元で囁いた。
いくらなんでも褒め過ぎだよ。こんな綺麗な星に敵うわけない。でも耳が熱い。
僕の耳は太陽くらい熱くなって輝く星を消し去ってしまわないかと本気で心配になるくらい真っ赤になっていたと思う。夜でよかった
数多がそんな事言うのって僕だけに…だよね?

満天の星の下で行われる5人だけの花火大学…
どちらも美しくて甲乙つけ難いと思ったが、やはり人間は身近な方に気を引かれるのか、花火が楽し過ぎて星の事はすっかり忘れてしまっていた。
花火を満喫した僕たちは後片付けをして、テントに戻った。
大きな浴槽で汗を流し、ドライヤーをかけてベッドに潜り込む。
今日は楽しかった。いや楽しすぎた。
さすがに疲れたのか、誰かのスースと言う寝息がすぐに聞こえてきた。
僕も今日の朝は早く起きてさすがに疲れた。
そろそろ寝むくなって……くるはずがない!!
だって、隣には数多が寝ているんだから。
スースーと言う寝息にぐふぐふと言う寝息が重なってくる。
誰か2人は寝落ちしたのだろうか?
「僕と同じ位、星が綺麗〜」
あれは瑞穂の声…寝言か??
彼はどこに行ってもアイドルなんだろう。
スースーに、ぐふぐふに寝言…
という事は3人は寝落ちしているはず!
数多は寝たのだろうか?
僕は隣の数多の方にこっそり寝返りを打った。
その瞬間布団がごそごそと動いてしまった。
「日向、起きてるの?」
数多が小声で話しかけてきた。
「うん、起きてるよ。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、最初から寝てない」
「そう…なんだ」
「今日、本当に楽しかったね。なんかあっという間に時間が過ぎちゃったなぁ」
「楽しみすぎて逆に興奮して眠れないとか」
数多が僕の顔を覗き込んだ。
「うん、それもあるかも。あのさぁ、数多って今まで付き合った人って本当にいないの?」
2人の空間だ!聞くなら今しかない。
「自分が本当にこの人好きだ。と思った人としか付き合いたくないから本当に一度も付き合ったことないよ。
付き合って下さいって告白された事は何度かあるけど、俺の何を見て好きなのかなぁって考えちゃうんだよ」
「そうかぁ〜。じゃぁさぁ、なんていうか…
えっと、やっぱり男子は女子を女子は男子を好きなのが、当たり前で、男子が男子を好きなのって変なのかなぁ」
あぁぁ聞いてしまった。
数多はこんなこと質問されて引いてないかなぁ。
喉が渇いてカラカラだ。
「そうだなぁ、一般的にはそういうことなんだろうけど、俺が好きになるのは男とか女とか関係ないと思ってる。
その人が好きっていうか。
一人間として魅力を感じて好きになるのかなぁって。
俺が1番最初に好きになったのは幼稚園の時のひまわり組の先生だったけど、どうして好きだったのかって言われると幼稚園の時だから…
はっきりとは記憶にないんだけど、怪我をした俺の手に絆創膏を貼ってくれたり、転んだら抱き上げてくれたり、喧嘩している子はどうしてそんな喧嘩をしているのかお互いの理由を聞いて止めに入ったり……
とにかく先生のそういう行動が好きだったんだ。
俺の覚えている限りだけど、その先生結構年配だったんだよな。俺のおばあちゃんと似てたからさぁ。
俺はその時から皆んなの為に一生懸命働く先生の姿に魅力を感じていたんだと思う。だから男でも女でも若くて歳でもそんなの関係ないんだよ。
ちょっと長くなっちゃったけど、理解できた?」

「うん、かなり難しい話だったけど、理解できたよ。僕もきっと数多側だから。
僕は、前の彼女を幸せにしてあげれなかったけど、
今度付き合う時は好きって告白されて付き合うんじゃなくて…本当に好きって思えた人と付き合いたいなって。
彼女の手を一回も握れなかったのは、僕の気持ちが彼女には向いていなかったからかもしれない。
だから、僕本当に一度も好きな人と手なんて繋いだ事ないし、キスもした事ないって言うか」

そう言い終えた瞬間、数多が僕の布団の中に手を入れてきた。
「えっ?」
と、驚く僕の手をギュッと握って恋人繋ぎをする数多。
「彼女と手も握ったことないんだよな?俺が初めて日向の手を握る人になるよ。」
そう言って、2人の頭の間に握った手を置いた。
僕はドキドキしすぎて手に汗をかいていないか心配になってしまう。
「数多、この手繋ぎってどういう意味?
僕ちょっと…自分の都合の良いように考えちゃってもいいの?」
「日向の都合の良い様に考えるっていうのはどう言う事?」
数多は意地悪な事を言いつつ、それでも僕の髪を優しくなでてくれる。
暖かい指先と優しく頭を撫でられる気持ち良さに、疲れていた僕の瞼はゆっくり閉じていった。
「日向?もう寝たの?」
まだまだ聞きたい事があるっぽい数多だけど僕の寝顔を見て諦めたらしい。
ありがとう、数多。