授業を終えた放課後、僕は飼育室に向かった。
金魚もメダカも生きている。
毎日餌をあげなくてはいけない。
瑞穂も里見も東も割と顔を出す方だと思うが、大体いつも僕より来るのが遅い。
今日も僕が1番乗り。
飼育室は他の生徒の出入りがあまり無い。
こもった空気の入れ替えをしようと窓を開けた時、たまたま中庭を歩いている数多を見つけた。
「おーーーい、数多〜っ」
僕は大きく手を振った。
「ねえ、これからどこ行くの?何か提出物…」
『数多く〜〜〜ん』
僕が言い終わるか終わらないうちに、後ろから隣の組の女子2人がやって来た。
2人は僕をチラッと見たが、気にする様子もなく
数多を囲んで何やら話し始めている。
「何を話してるんだろう、やけに盛り上がってるけど。
あれ、、どこに行っちゃう?」
2人の女子はそのまま数多を風の如く連れ去ってしまった。
僕は消え去る3人を見つめる事しか出来ない。
数多って生徒会長で皆んなに頼られてて、
成績優秀でカッコいい。
数多にとっての僕はどんな存在なんだろう?
窓の下に座り込んで暫くぼんやり考えていた。
「今日はみんなやけに遅いなぁ。来ないのかなあ」
瑞穂も里見も東もなかなか来ない。
そう思っていた時、メールの着信音が鳴った。
里見からだ
「悪い。今日は用事が出来たから行けそうにないわ。
瑞穂は病院に行くって言ってたし、東は何故か先生に捕まってる。多分全員行けないと思う」
「そうか。今日は僕1人か…もうメダカと金魚に餌もやったし、帰ろうかなぁ」
鞄を持って飼育室を後にした。
下駄箱から靴を取り出し、下に置いた。
落ちそうになったカバンを肩に戻そうとした時、1人の女子とぶつかってしまった。
「あっ、ごめん、大丈夫?」
その子がちょっと前のめりになったのが見えた。
「はっ、はい……大丈夫ですけど
日向先輩ですよね。よく見かけるので覚えてました〜。
私達ってなんかよく目が合いませんか?
振り返るといつも先輩がいるなって思って」
初めて会ったんじゃないの??
僕、何も覚えてないんだけど。
「言いづらいなら私の方から言ってもいいですよ」
「えっ、、何を?」
「日向先輩、わた…」
「おい、何やってんだよ。一緒に帰る約束してただろう。早く靴履けよ。もう行くぞ」
「う、うん」
誰だっけ?顔を見る余裕なんて全然ない。
僕は大慌てで靴を履いた。
その声の主は僕の肩を抱いて、校門の方に歩き出した。
「ちっ!」
えっ……チッて言った?
遠くから聞こえた気がした。
とりあえず、あの場を救ってくれた声の主にお礼を言わなければいけない。
声の主の方を見上げた。
「えっ?数多?なんでここに?あっ、ごめん
とりあえずありがとう。助かったよ〜って言うかあの子誰だったんだろう」
動揺は隠せないが、とりあえずお礼は言えた。
まさかあの子、僕の後を追いかけて来たりしないよね?
後ろが気になって振り返ってしまう。
「お前わかってんのか?無防備すぎだろう。何キラキラした目で女子の顔を覗き込んでるんだよ」
「はっつ?何言ってんだよ。誰がキラキラして…」
「お前ほんとに分かってないの?あんな顔されて声かけられたら勘違いするだろう。
それとも側で見張ってないといけないタイプなのか?」
「なに、それ?見張ってないといけないタイプとかって」
僕は手に持っていたカバンをぎゅっと抱きしめた。
「えっ、でもなんで数多がここにいるの?」
数多はさっき隣のクラスの女子達に連れ去られたはず…
『多分2年生の女子だと思うんだけど、日向君の下駄箱の前でウロウロしてる子がいて〜。
あーだこーだ言ってるから大丈夫かなぁと思って。
数多君って日向君と同じクラスで仲良さげだから教えてあげてよ』
隣のクラスの女子達がわざわざ俺に教えに来てくれたんだよ。だからお前の事見てたんだ。」
「そうだったんだ」
え…でもこれって数多?数多との会話だよね?
「助けてもらってあれだけど、なんか言葉遣いが今までと違くない??」
「お前、危なっかしすぎるんだよ。これからはお前に対して素の俺で行くから。
だから、こういう言い方になると思うけど覚悟しといて」
それってどういう意味?
何だか心臓がうるさい
数多の手が僕の肩をもっと強く抱きしめた。
肩を抱かれたままの僕はもう許容範囲を越えそうだ。
いつもの数多の話し方じゃない
たったそれだけの事なのに
何でこんなにドキドキするんだろ。
このままではマズイぞ
「あっ、そうだこの前借りた上着!!
返すのすっかり遅くなっちゃったけど今度返すから」
「あぁ、あれね、いつでもいいよ」
「借りすぎて夏になりそう」
「確かに、、そうかも」
「そうだ!夏…」
「ん、夏?」
「聞きそびれてたんだけどもうすぐ夏休みだし
今度皆んなで大きなテントのある、ほらバーベキューとか出来る…なんていうんだっけ?そこ行かないかなあって思って」
「グランピング?」
「そう、それ」
「皆んなって瑞穂と里見と東?」
「そう」
「いいかもね。なら電車で行けそうな所探しておくよ」
「マジで?」
僕は数多と高校生活最後の夏休みを過ごしたかった。
他の3人には後から話せばいいだろう。
ノリがいいからきっと許してくれるハズ
大学までストレートに行ける高校を頑張って受験した自分を褒めてあげたい。
数多と僕は校門までの長い並木道をゆっくり歩いた。後ろからは誰も追いかけては来なかった。


