不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「はあー……バレると思った」
 文化祭が終わり、俺たち以外誰もいないバスの中で大神と一番後ろの席で隣に並んで座っていた。ミスターコンを思い出しては、盛大なため息が出る。
 大神が俺の顔を覗き込んでくる。
「頑張ってたね」
 きっと大神は、俺たちのことが周囲にバレたって平気なんだろうなって思う。ただ、俺に注目が集まるのは避けたいだけで。
「かっこよかったよ、さっきの小鳩」
「……ださいよ。急に大声出したりして……俺の黒歴史だ」
「俺にとってはいい思い出だったけどな。あんなふうに熱烈な愛を受けられるって分かってたなら、最初からミスターコンも出てた」
「あ、一位おめでとう」
「今かい」
 はは、と大神が笑う。夕日に照らされた横顔が妙に色っぽい。
 改めて思うけど、大神ってやっぱりかっこいいな。
「小鳩」
 その顔で、俺の名前を呼ぶ。
「大丈夫だよ」
 大神の大きな手が俺の手を覆う。なんで指、こんな長いんだろ。しかもやたらときれいなところがむかつく。
「誰にもバレないようにする」
「あんなことしておいて?」
「それは反省してる」
「反省してる顔しなさい」
「顔には出ないタイプなんで」
 微笑んで大神が言った。
 つくづく、大神と付き合えてよかったと思う。俺の人生にこんな幸せなことが起こるなんて夢を見ているみたいだ。
「今日は一緒にいれなくてごめん」
 大神が、俺の手をきつく握った。
「いいよ。約束通り、俺のところに戻ってきてくれたし」
「でも終わりがけだった」
 大神と合流できたのは、文化祭があと五分で終わるというタイミングだった。たしかに大神と回りたかった場所はいくつかあったけど、そんなことはもういい。今こうして手を繋いでいられるなら。
「小鳩と一緒に行きたいなって思う教室を前に、逃げ回るのは最悪だった」
「はは、それは最悪だ」
「ミスターコンも連行されたし」
「抵抗虚しく?」
「いや、ひとりふたりは手が当たったと思う」
「暴力沙汰になってるじゃん」
「小鳩の元に早く戻りたかったから」
 爽やかさからかけ離れた行動に呆れて笑ってしまう。最近の大神は、いい意味で人間らしくなってきたと思う。
「手が当たった人にはちゃんと謝った?」
「……そんなような気もする」
「絶対嘘じゃん。明日ちゃんと謝りなよ。実行委員も大変なんだから」
「小鳩が言うなら謝る」
 俺に言われたから謝るとは、なんだか子どもみたいだ。よしよしと、大神と頭を撫でてみる。俺よりも座高が高いから、見た目としては不格好だけど。
「大神」
「ん」
「すっごい好きだよ」
 そう言ったら、なぜか沈黙が続いた。恒例のフリーズタイムだ。
 大神は定期的に固まる。頭を撫でていた手を、今度は顔の前でひらひらとさせた。
「大神?」
「このまま持って帰っていいのか熟考してた」
 真面目な顔でなに言ってるんだ。
「熟考するところじゃない。あと持って帰らない」
「はい」
 素直。こんな可愛いところを知っているのは俺だけだろうか。
 視線を移して、窓ガラスを見た。当たり前だけど、そこには俺と大神が映っていた。隣に、大神がいる。ずっと大神の後ろ姿を見るだけだと思っていた。
 窓に頭をもたれていた大神は、今や俺の肩にもたれている。
 その頭に俺も頬をもたれてみる。大神の匂いがして、温かくて、目を閉じる。
「好きだよ、俺も」
 大神が、ぽつりと静かにこぼした。どんな顔をしているのだろう。うん、と答えたら、重いよ、と返ってきた。
「重い?」
「俺、基本的に重いと思う。小鳩と付き合いだしてから気づいた」
「大神が重いなんてとっくに知ってたよ」
 山田への怒り方は尋常じゃなかった。今さらだ。
「小鳩以外興味ないくらいには好きだったりするよ」
 好きが、加速していく。これ以上好きになることなんてないと、いつもそう思うのに。大神といると、いつだって好きの上限を超えていく。
「俺もそう思う」
「言葉をはしょらないでください」
 大神に怒られて、今度は俺が「はい」と素直に受け止める。

「大神を誰にも渡したくないくらい好きだなって思ってるから」
「一緒だ」
 そう言って、大神が動いた。まるで掬い上げるように、キスをされた。
どうしてだか、初めて大神のほっぺにしたキスを思い出す。あの日がなければ、俺たちは付き合うことなんてなかった。
 今は王様ゲームなんかじゃない。俺たちがしたいと思ってしていること。
 好きだよ、と。何度伝えても足りないくらいの気持ちはどうしたらいいんだろう。
 大神のことだから、全部受け止めてくれるんだろうな。俺がそうしたいって思ってるみたいに。