不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「うわ、来場者えぐくね?」
 文化祭当日はあっという間にきた。一年は部活に入っていない限り、基本的には催し物がない。文化祭には参加するだけでよかった。
 そして白井が校庭に映し出されていた来場者数を見て、その数におどろいていた。電光掲示板が設置されているが、その数の増加はとどまることを知らない。
 しかもミスターコンの開催時間が近づくにつれて、他校の女子生徒が多くなっている気がする。
「大神パワーだ」
「……だろうね」
 今そばにいない大神を思っては、気分が落ちていく。
「朝のうちに焼きそば買っといて正解だった~」
 俺は今、白井と一緒に三年が気合いを入れて開催したお化け屋敷に並んでいた。廊下は行列と通行人でとんでもないことになっている。空気がむわっとしていて、新鮮な空気を求めようと近くの窓を開けた。
「ここのお化け屋敷ガチで怖いらしいよ」
 後ろに並んでいた女の子たちが会話をしているのを聞きながら、今頃、大神とプラネタリウムを見るはずだったんだけどなと思ったりする。
 今朝まではその予定だった。
 でも、実行委員会からのミスターコンへの圧がすごく、ふたりで文化祭を回るどころの話ではなくなった。
 出場をのらりくらりとかわしていた大神だったけど「頼むから逃げることだけはしてくれるな」と監視され、ついには連れて行かれてしまった。
 大神は最後の最後まで俺と一緒にいてくれようとしたけど、「俺のことは気にしなくていいよ」とこっそり声をかけた。
 当たり前だけど、大神と一緒にいたい人なんて山のようにいる。
 俺はいつも大神と放課後を過ごしているから、こういうときは潔く諦めたほうがいい。
 大神は「絶対戻ってくるから」と言ったきり消えてしまった。今頃どこにいるんだろう。
「お、ここからだとちょうどステージ見えんじゃん」
 白井が窓の外を見つめている。グラウンドには特設会場が設けられていて、ステージの前にはとんでもない数の見物客が集っていた。
「大神くーん」
 女の子たちがうちわを持って参戦していた。非公式の北高のSNSが話題になっているようで、アイドルのコンサート会場で見るようなグッズを持参する子たちまで現れた。大神が一般人ではなくなる日も近いかもしれない。
「そういえば、姫は誰とまわる予定だったん?」
 痛いところを突かれる。白井には、今日は一緒に行動できないかも、と事前に伝えていた。相手は言わなかったから、気になるのは当然だろう。曖昧な苦笑だけが浮かぶと、白井は目を見開いた。
「まさか女子か!? どこの学校の子だよ」
「いや、ちがうって」
「じゃあ誰なんだよ」
 誰と言われても、大神と白状できるはずもない。
「俺には言えない相手なのか」
「……言えないわけでもないけど、うーん」
「なんだよ、その微妙な返しは。俺と姫の仲じゃん。答えろよ~」
 答えたとして、白井はどんな反応を見せるのか予想がつかない。
 俺だって堂々と「大神と一緒に過ごす予定だった」と言いたい。でも、言えない。ただの友達でもないから。
『さあ、我らがスター、大神くんの登場です!』
 頭の中で浮かんでいた名前が、まさかのマイク越しに聞こえてきて、慌ててその姿を探した。
「お、始まったじゃん」
 白井同様、廊下にいた生徒たちが一斉に窓へと駆け寄る。
 俺としては気が気ではないけれど、やっぱりミスターコンの結果を知りたい。三階のここからだとステージがよく見えた。
 出場者はすでにそろっていたけど、大神はいない。とか思っていたら、山田が満面の笑みで観客席に手を振りながら大神を連れてきた。
 おお、かなり渋々といった様子が歩き方から伝わる。
 大神が登場すると、マイクを通さずとも歓声が会場いっぱいに広がり、盛り上がりを見せる。
「大神くん、出場してくれたんですね!!」
 司会者の男子が感激したように言った。
「辞退できなかったんで」
「大神くんも出場したかったということで、実行委員としてもうれしいです」
 事実をものすごい角度から捻じ曲げている。
 それから司会者は出場者たちに質問を投げかけていく。「意気込みは?」「選ばれたらどうします?」とか。
 しかしこれが大神の番になると質問が一転した。
「ちなみに大神くんは彼女がいないということですが、好きな人はいるんですか~?」
 なぜいきなりそんな質問になったのか。恋人関連はタブーとされていたはずだ。
 優勝を狙っている人間であれば「いないです」と答えることが無難。恋人がいる出場者には投票も集まりにくいだろう。
「いますよ」
 しかし、大神はちがった。にこにこと微笑みながら「います」ときっぱり答えた。
 まさかの回答に、会場全体がどよめいていた。「え、いるの?」「大神くん好きな人いるって」と半ば混乱気味だ。
「もしかして、その人は今日ここに来てますか!?」
 食い気味の司会者に大神は笑った。
「はい」
 大神は大勢を前にしてもブレることはなかった。
 好きな人がいること、そしてその相手がここにいることを、なんの躊躇いもなく答えてしまった。
「って、言ってよかった?」
 そうして大神は、まるで俺がここにいたと最初から分かっているみたいにこっちを見上げて言った。目が合う。俺を見ている大神と。
 大神が示したその先を、会場にいる人たちが必死に追った。
「もしや校舎にいるのですか!?」
「かもしれないし、そうじゃないかも」
「ですって! 皆さん、校舎に注目してください!」
 司会がやたらと盛り上げようとするけど、生徒たちは困惑するばかりだ。
「全部の窓ガラス、生徒で埋まってるけど」
「誰!? 挙手して!!」
「大神くんって冗談言ったりする?」
「中学のとき一緒だったけど、そういうことするタイプじゃなかったよ」
 大神の一言に振り回される観客たちは、その人物を特定するのに躍起になっていた。一部では「嘘なんじゃない?」という声もちらほら聞こえてくる。
 どうしよう、大神は嘘なんて言ってないのに。
 言わないとお互いが約束したから、大神も言い出せないだろう。
 迷惑はかけたくない。だけど、このままだと会場の空気が悪くなっていくかもしれない。
「はいはい! 私、大神くんと付き合ってまーす」
 どうしようかと悩んでいると、自称大神の彼女が名乗り出た。他校の制服を着たノリのいい人で「今日が記念日でーす」などと声をあげている。
 周囲が「ヒュー」と騒ぎ立てていて、変な盛り上がりを見せる。
 ちがう、大神が付き合っているのはその人じゃないし、今日はなんの記念日でもない。
 握った拳に力が入る。大神はそこにいるのに、あまりにも遠い。
「うわあ、絶対あれ嘘だよな」
 白井が隣で言った。
 このまま、誰か知らない人が大神の彼女として認知されていく。それを俺は黙って見ていたほうがいいのか。
 大神もきっと否定はしない。俺の名前なんて出したりしない。それは、俺を守ろうとしてくれるからだろう。
 すーっと息を吸って、それから――。
「大神、好きだよ!」
 大声で、これでもかというほど叫んだ。
 周囲の視線が一斉に集まって、顔が熱くて仕方がない。でも、もう隠れていたくなかった。
 大神と付き合っているのは俺だって、みんなに言いたい。
「びっ……くりした……おい、姫。いきなりどうした」
 白井がおどろいている。どうしたと言われても、これが俺の本音だ。ずっと抱えてきたもの。誰にも見せないようにと必死に隠してきた。
 本当は恥ずかしくて逃げ出してしまいたい。だけど、逃げたくはなかった。
『うん、俺も好き』
 突然、マイク越しに大神の声で「好き」が返ってきた。顔をあげて、大神を見ると、あまりにも優しい顔つきで俺を見ていた。
「おおか――」
「俺も大神好きだぞー!!」
 安堵から名前を呼びかけたところで、野太い声で「大神好き」発声大会が始まった。
 俺への返しを見て、大神からの好きが返ってくると思われたらしい。男だけではなく、女の子たちかも「大神くん付き合って」と甲高い声が入り混じり、結果的に盛り上がることとなった。
 大神は「ありがとー」と笑うだけで、爽やかにステージを去って行き、ミスターコンで堂々の一位に輝いていた。