不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

 文化祭が一週間後に迫っていた。
 毎年盛り上がる伝統的なイベント、ミスターコンは非公式ではあるものの、多くの人間がその行方を追っていた。
 とはいえ、コンテストの結果を待たずとも、王者が誰であるのかは明白だった。
「やっぱり大神か~」
 昼休み、教室で白井が眺めていたのは、これまた非公式の北高SNSアカウント。そこに暫定順位が発表されていた。
 そして今のところ一位を独占しているのが大神というわけだ。
「強者だよ。地味に二位が山田だし」
ちなみに大神は強制参加でエントリーされたが、現段階で「出ない」と断っているらしい。
「これで大神のファン激増だろ」
 文化祭は一般公開されることもあり、他校の生徒もやってくる。
「去年はかなり盛り上がってたって」
「え、そうなの?」
「とんでもないイケメンの先輩がいたらしいよ。名前なんだっけ……」
 そんな人がいたなら、興味本位ではあるけれど見てみたかった。
「ま、大神のファンが増えたとしても、俺には姫がいるからいいか」
「あー……」
 白井には申し訳ないけれど、俺も立派な大神のファンだ。しかも恋人でもある。
 そんなことを口にでもしたら白井は「裏切り者オオオ!」と怒号を響かせるか、しくしく泣くかもしれない。
「あ、朝宮先輩だったわ」
 どうやら白井が例のイケメン先輩の名前を思い出したらしい。
「へえ……語り継がれるほどのイケメンってすご」
「俺も会ってみたかったわ~あと間山先輩も有名だったって話」
「かっこよかったんだ?」
「朝宮先輩が卒業式の日、間山先輩に公開プロポーズしてたらしくて伝説になってんの」
「ん? 他校の人?」
「いや、同じく北高の人」
 北高はずっと男子校だと聞く。ということは、朝宮先輩と間山先輩は男子のはずだ。
 ……なんとなく、親近感が湧いてしまう。 一年早かったら、伝説となったプロポーズも拝めたのかもしれない。
 先輩の話を聞きながら、視線は流れるように大神を探していた。すると、大神は廊下にいた。壁にもたれて腕を組んでいる。そこに山田がちょっかいをかけていて、笑顔でなにかを言っている。口の動きを読んで「しばくぞ」と物騒なことを言っていたことにびっくりした。顔と言葉が一致していない。
 山田にまだ怒っているのかもしれない。
「大神くん」
 そこに、見慣れない男子生徒が登場した。同じクラスではない。高校に入学して七か月が経ったけど、別のクラスの生徒はまだ覚えられていない。
「コンテスト、がんばって。応援してるから」
 どこか恥ずかしそうなその横顔に、少しだけ妬いてしまう。
「んー、今のところ出ないつもりなんだけど、ありがとう」
 大神は爽やかな顔で男子生徒の気持ちに応えていた。あれは表向きの大神だな。
「今の見た? 男の俺でも今惚れかけたんだけど」
 白井が目を細めて大神を見ていた。男子生徒もうれしそうに「うん!」と去って行く。
「……かっこいいよね、大神は」
 同性でさえ虜にしてしまうような魅力が、大神にはあった。
 大神がいたら、つい目で追いかけてしまう。かっこいいなと何度思えば気が済むのか。
「ちょっとそこまで」
「トイレか。一緒に行ってやるよ」
「なんでだよ」
「あ、姫が反抗期だ」
 ただ、ここから離れたかっただけ。それを白井に言うわけにもいかず「散歩」と答えて廊下に出る。
 大神は、今度は三年の先輩に声をかけられていた。
「大神、ミスターコン絶対出ろよ。その顔は文化祭を盛り上げるためにあるんだから」
 と熱烈なオファーを受けている。ここの生徒は、一体どれだけ大神に出場してほしいのだろう。
 その会話をできるだけ聞かないようにして、ふらふらと教室を出た。頭を冷やしたいときは歩くのがいい。同じ場所で大人しくぐるぐる考えたところでネガティブな思考になるばかりだ。
 賑やかしい場所を抜けて、体育館へと続く外廊下を歩く。ここで外の空気でも吸って気持ちを切り替えようと思っていた。「小鳩」と、呼ばれるまでは。
 振り返れば、大神がいる。さっきまで廊下にいたのに。
「なんでここに……」
「小鳩がひとりになったから。チャンスだと思って」
 あれだけ話しかけられていたのに、俺のことを見てくれていたのか。
「文化祭、どこ回る予定?」
 大神が当たり前のように俺の隣に立った。
「ええと……プラネタリウムがあるからそれは見たいなって」
「りょうかい。一緒に行こ」
「え、俺と?」
「小鳩以外、誰と回ったらいいの」
「でも」
 ――忙しいんじゃないの?
 ミスターコンもあるし、そもそも俺と一緒に文化祭を回るなんて、ほかの奴らが見たら疑問に思うはずだ。
 そういうことを大神は察してくれたのか「俺はさ」と切り出した。
「できれば小鳩と一緒にいる時間を増やしたいわけですよ」
「それはうれしいけど、俺と大神がふたりで行動してたら……変って思われるかも」
 いつも一緒に行動するメンバーではない。それに大神は目立つ。その隣に山田ではなく俺がいたら、周りからすると違和感に映らないだろうか。
「誰にどう思われようが、どうでもよくないっすか」
 大神がずいっと顔を近づけた。その顔はどこか不満そうだ。
「あ、……おっしゃる通りっす」
「俺は小鳩とふたりでいたい。小鳩は?」
 聞かれて、答えに困った。素直に言っていいものなのか悩んで、でも嘘をつけるほど、俺は器用でもない。
「……俺も、同じ」
「じゃあ決まり」
 大神がうれしそうだ。大神がいいって言ってくれるのなら、俺は喜んでその隣を死守したい。
「文化祭、楽しみだね」
 俺が言ったら、大神は「そうだね」と微笑んだ。
 初めての文化祭。好きな人と一緒にいられる時間を想像しては、自然と頬が緩んだ。
 ……はずだった。