「よし、大神に送信と」
「送ったの?」
「うん、姫とラブって」
「誤解を招くようなことを……!」
なんでそんなものをわざわざ送る必要があるんだよ!
どう考えてもないだろ!
山田からスマホを奪い取ろうとするが、大神と同じく高身長というところも相まってか、長い腕が器用に俺から逃げていく。
「はは、姫ってこうしてみると小せえよなあ」
「同情するならスマホ貸して!」
「同情してない。からかってるだけ」
そこに問題がある!
ああ、どうしよう。大神に変な誤解をされたら。話だけでもちゃんと聞いてもらえるんだろうか。山田に巻き込まれただけであって、ノリノリで参加したわけではないことを信じてほしい。
「まっ、大神って既読になんのも遅いし、そもそもスルーしてくるからさ。俺たちは雑談でも楽しもうぜ」
「え、大神って即レスじゃない?」
「は?」
山田の顔が、分かりやすくおどろきに変わっていた。信じられないことを聞いたような反応だ。
「いやいや、大神から返事きたことほぼないんだけど」
「あ、じゃあ俺のときだけ、たまたまだったのかな」
「待って、聞き逃せない。どう考えても今のはノロケだろ」
「ノロケって……べつにそんなつもりじゃ」
「ほら、見てみろ! 俺のは既読にもなんねえよ!」
ずいっとスマホの画面を向けられる。姫とラブの文言の隣には、既読の二文字がついていた。
「え、既読になってるけど」
「いやいや、大神がこんなにも早く確認するわけ……ってガチで!?」
何度も画面を切り替えては、トーク画面へと戻す。しかし既読の文字はそんなことでは消えない。山田は「あいつが即レス……?」と、今もまだ状況を飲み込めないらしい。
俺からすると、大神はかなりマメに連絡を取る人間だと思っていた。遅くても十分以内には必ず返ってくるくらいだ。
……ん?
ということは、俺が今まで大神に無理をさせていたということはないか?
大神からの連絡が届いたらうれしくて、すぐに返していたし、俺からも大神には連絡を入れることもあった。
そのたびに、すぐ返信はあったけど、もしかしたら俺がそうさせてしまっていたのかも。
「うわーこえー……」
山田に見せられたのは【居場所送れ】の簡素な文字だけ。
「それにしても、大神って意外と嫉妬マンなんだ」
「まさか……俺らと話をしたかっただけかも」
「えーないだろー」
山田が顔をしかめた。
「俺といるくらいなら家に帰るし」
自分で言っていて悲しくないのだろうか。
「つか、姫って近くで見てもやっぱ男って感じがしないよなあ」
山田がまじまじと俺を観察しながら、顔の距離を縮めてくる。
「山田? 近いような……」
「肌とかどうなってんの。むきたてのゆで卵じゃん」
じりじりと寄られては、後ずさることしかできない。
「……ゆで卵は初めて言われた」
「顔もきれいだし、線も細いつーか……大神が惚れるだけあるわ」
「山田……そろそろ離れてほしいっていうか」
「うん、俺も姫とキスできる自信がある――」
バンっと勢いよく扉が開かれ、現れた大神と目が合った。
そのままズカズカと部屋に入ってきたかと思えば、すぐ近くにいた山田の肩を掴んで思いっきり俺から引きはがした。
「殺すぞ」
初めて聞いた大神の低音ボイス。普段の大神からは想像できないような物騒な言葉だ。
抵抗できなかったのか、椅子から引きずり落とされた山田は苦笑している。
「ガチで怒ってんじゃん。いってえ」
「小鳩、この変態に手出されてないか」
「えっ、だ、大丈夫」
「出されてなくても警察には通報しとくから」
友達では?
山田は「通報とか初めて」と呑気に笑っている。なぜそんなに余裕なんだ。
「なんだよ、俺だって小鳩と楽しんだっていいだろ」
「いいわけねえだろ」
人前では爽やかさを思う存分発揮しているのに、今は冷静じゃない。大神のこんな顔、初めて見る。
「お前らが真剣に付き合ってるか確認したかったんだよ」
「しゃしゃんな」
「俺も小鳩とお近づきになりたくて」
「今後小鳩に近づいたら潰すぞ、お前」
蔑むような顔。しかも山田のスマホを奪い取り、俺と撮ったばかりの写真を削除していた。徹底ぶりが凄まじい。
「へいへい。小鳩は大神のもの。頭に叩き込みやした」
「その教訓二度と忘れんな」
はいよ、と山田は立ち上がると、大神からスマホを受け取って部屋を出て行く。
「じゃあ、あとは若いふたりで仲良くやんな」
手をひらひらとさせながら嵐が過ぎ去っていくと、途端に静けさが戻ってくる。
「小鳩」
さっきまで山田がいた場所に大神が座った。それから、「おいで」と膝の上に座るように指示された。後ろからすっぽりと抱きしめられて、それが無性に安心する。
「本当になにもされてない?」
顔を覗き込まれて、恥ずかしくなりながらもうなずく。
「大丈夫だって」
「そもそも、なんで山田と一緒だった?」
「あー……ええと、山田が……ちょっと」
「脅されたんだな。明日しばいとく。なんなら今日の夜にでも」
「い、いや、だから大丈夫なんだって」
「小鳩はなんも心配しなくていいよ。悪いのは山田の存在だから」
「存在ごと!?」
だんだん山田が可哀想に思えてきた。大神を怒らせると危険だ。
大神の顎が俺の肩にのって、それから俺の指で遊び始めた。やることがいちいち可愛い。
「そういえば、大神って山田との連絡はあんまマメじゃなかったんだな」
「山田っていうか、小鳩以外はあんま連絡しないけど」
「え、でも俺のときはすげえ返信早いけど」
「小鳩のだけ通知許可してるだけ。あとはオフかブロック」
悪気なく言っている顔が見なくても思い浮かぶ。
「返事、無理にしなくていいから」
「無理をしたことは一度もないし、小鳩からの連絡なら逆にうれしい」
「……そっか」
大神からの気持ちに応えるように、指を絡ませて手を繋ぐ。俺よりもでかい手は、俺の手を包み込むように握り返してくれた。
「てか、大神のほうは大丈夫だった? 実行委員に追いかけられてたみたいだけど」
「あー……忘れてた」
「じゃあまだ追いかけられてる途中なのか」
きっと諦めてはいないだろう。今もなお大神を探している実行委員たちを思うと、この状況が申し訳なくなる。
「ごめん、先帰っててって言われたのに」
「いや、屋上に逃げ込んでたけど、小鳩と一緒に帰りたかった。巻き込みたくなかっただけで」
それに、と大神が俺の首筋に唇をよせる。
「小鳩がいるところならどこでも行く」
くすぐったくて、でも離れてしまいたくなくて「うん」と答えるだけで精一杯だった。
きっと地球の裏側にいたとしても、大神なら迎えに来てくれそうだな。こんなの付き合う前は想像もしなかった。
「送ったの?」
「うん、姫とラブって」
「誤解を招くようなことを……!」
なんでそんなものをわざわざ送る必要があるんだよ!
どう考えてもないだろ!
山田からスマホを奪い取ろうとするが、大神と同じく高身長というところも相まってか、長い腕が器用に俺から逃げていく。
「はは、姫ってこうしてみると小せえよなあ」
「同情するならスマホ貸して!」
「同情してない。からかってるだけ」
そこに問題がある!
ああ、どうしよう。大神に変な誤解をされたら。話だけでもちゃんと聞いてもらえるんだろうか。山田に巻き込まれただけであって、ノリノリで参加したわけではないことを信じてほしい。
「まっ、大神って既読になんのも遅いし、そもそもスルーしてくるからさ。俺たちは雑談でも楽しもうぜ」
「え、大神って即レスじゃない?」
「は?」
山田の顔が、分かりやすくおどろきに変わっていた。信じられないことを聞いたような反応だ。
「いやいや、大神から返事きたことほぼないんだけど」
「あ、じゃあ俺のときだけ、たまたまだったのかな」
「待って、聞き逃せない。どう考えても今のはノロケだろ」
「ノロケって……べつにそんなつもりじゃ」
「ほら、見てみろ! 俺のは既読にもなんねえよ!」
ずいっとスマホの画面を向けられる。姫とラブの文言の隣には、既読の二文字がついていた。
「え、既読になってるけど」
「いやいや、大神がこんなにも早く確認するわけ……ってガチで!?」
何度も画面を切り替えては、トーク画面へと戻す。しかし既読の文字はそんなことでは消えない。山田は「あいつが即レス……?」と、今もまだ状況を飲み込めないらしい。
俺からすると、大神はかなりマメに連絡を取る人間だと思っていた。遅くても十分以内には必ず返ってくるくらいだ。
……ん?
ということは、俺が今まで大神に無理をさせていたということはないか?
大神からの連絡が届いたらうれしくて、すぐに返していたし、俺からも大神には連絡を入れることもあった。
そのたびに、すぐ返信はあったけど、もしかしたら俺がそうさせてしまっていたのかも。
「うわーこえー……」
山田に見せられたのは【居場所送れ】の簡素な文字だけ。
「それにしても、大神って意外と嫉妬マンなんだ」
「まさか……俺らと話をしたかっただけかも」
「えーないだろー」
山田が顔をしかめた。
「俺といるくらいなら家に帰るし」
自分で言っていて悲しくないのだろうか。
「つか、姫って近くで見てもやっぱ男って感じがしないよなあ」
山田がまじまじと俺を観察しながら、顔の距離を縮めてくる。
「山田? 近いような……」
「肌とかどうなってんの。むきたてのゆで卵じゃん」
じりじりと寄られては、後ずさることしかできない。
「……ゆで卵は初めて言われた」
「顔もきれいだし、線も細いつーか……大神が惚れるだけあるわ」
「山田……そろそろ離れてほしいっていうか」
「うん、俺も姫とキスできる自信がある――」
バンっと勢いよく扉が開かれ、現れた大神と目が合った。
そのままズカズカと部屋に入ってきたかと思えば、すぐ近くにいた山田の肩を掴んで思いっきり俺から引きはがした。
「殺すぞ」
初めて聞いた大神の低音ボイス。普段の大神からは想像できないような物騒な言葉だ。
抵抗できなかったのか、椅子から引きずり落とされた山田は苦笑している。
「ガチで怒ってんじゃん。いってえ」
「小鳩、この変態に手出されてないか」
「えっ、だ、大丈夫」
「出されてなくても警察には通報しとくから」
友達では?
山田は「通報とか初めて」と呑気に笑っている。なぜそんなに余裕なんだ。
「なんだよ、俺だって小鳩と楽しんだっていいだろ」
「いいわけねえだろ」
人前では爽やかさを思う存分発揮しているのに、今は冷静じゃない。大神のこんな顔、初めて見る。
「お前らが真剣に付き合ってるか確認したかったんだよ」
「しゃしゃんな」
「俺も小鳩とお近づきになりたくて」
「今後小鳩に近づいたら潰すぞ、お前」
蔑むような顔。しかも山田のスマホを奪い取り、俺と撮ったばかりの写真を削除していた。徹底ぶりが凄まじい。
「へいへい。小鳩は大神のもの。頭に叩き込みやした」
「その教訓二度と忘れんな」
はいよ、と山田は立ち上がると、大神からスマホを受け取って部屋を出て行く。
「じゃあ、あとは若いふたりで仲良くやんな」
手をひらひらとさせながら嵐が過ぎ去っていくと、途端に静けさが戻ってくる。
「小鳩」
さっきまで山田がいた場所に大神が座った。それから、「おいで」と膝の上に座るように指示された。後ろからすっぽりと抱きしめられて、それが無性に安心する。
「本当になにもされてない?」
顔を覗き込まれて、恥ずかしくなりながらもうなずく。
「大丈夫だって」
「そもそも、なんで山田と一緒だった?」
「あー……ええと、山田が……ちょっと」
「脅されたんだな。明日しばいとく。なんなら今日の夜にでも」
「い、いや、だから大丈夫なんだって」
「小鳩はなんも心配しなくていいよ。悪いのは山田の存在だから」
「存在ごと!?」
だんだん山田が可哀想に思えてきた。大神を怒らせると危険だ。
大神の顎が俺の肩にのって、それから俺の指で遊び始めた。やることがいちいち可愛い。
「そういえば、大神って山田との連絡はあんまマメじゃなかったんだな」
「山田っていうか、小鳩以外はあんま連絡しないけど」
「え、でも俺のときはすげえ返信早いけど」
「小鳩のだけ通知許可してるだけ。あとはオフかブロック」
悪気なく言っている顔が見なくても思い浮かぶ。
「返事、無理にしなくていいから」
「無理をしたことは一度もないし、小鳩からの連絡なら逆にうれしい」
「……そっか」
大神からの気持ちに応えるように、指を絡ませて手を繋ぐ。俺よりもでかい手は、俺の手を包み込むように握り返してくれた。
「てか、大神のほうは大丈夫だった? 実行委員に追いかけられてたみたいだけど」
「あー……忘れてた」
「じゃあまだ追いかけられてる途中なのか」
きっと諦めてはいないだろう。今もなお大神を探している実行委員たちを思うと、この状況が申し訳なくなる。
「ごめん、先帰っててって言われたのに」
「いや、屋上に逃げ込んでたけど、小鳩と一緒に帰りたかった。巻き込みたくなかっただけで」
それに、と大神が俺の首筋に唇をよせる。
「小鳩がいるところならどこでも行く」
くすぐったくて、でも離れてしまいたくなくて「うん」と答えるだけで精一杯だった。
きっと地球の裏側にいたとしても、大神なら迎えに来てくれそうだな。こんなの付き合う前は想像もしなかった。


