大神が復活した。その後、俺に風邪が移ることもなく一週間が過ぎた。
学校で会話をすることがなくても、放課後は昇降口や校門前で待ち合わせて一緒にいられる。
たまに大神が誰かに誘われて、渋々そっちに参加するときは、白井たちと過ごした。
「大神じゃん!」
十一月。寒さが厳しくなり始めた放課後、大神と高校から少し離れた商店街に来ていた。そこで山田に見つかった。
「え、なんで俺の誘い断って小鳩といるわけ!?」
山田の後ろにはいつものメンバーがいて、派手だからよく目立つ。声もでかいから注目の的だ。
「予定があるって、小鳩と?」
山田がぐいっと大神に近づく。
「そう」
そして、大神は平然と答えてしまう。
山田は「なんで!?」とあからさまに俺と大神を交互に見た。
俺たちの関係を知らないから、ここで一緒にいる意味も分からないはずだ。かといって「俺たち付き合ってるんだよね」とは口が裂けても言えない。
「小鳩と一緒にいるってどういうこと?」
「なんでもいいっしょ」
「よくねえよ。大神、最近付き合い悪くね?」
山田の一言は、本人からすると何気ないものだったかもしれない。
けれど、このままだと空気が悪くなるような気がしてならない。
「誰といようが山田には関係な――」
「ごめん!」
大神の言葉を遮る形で、無計画に言葉を弾き出す。
「大神ごめん、無理に付き合わせて」
「……は?」
「本当は今日じゃなくてもよかったんだけど、売り切れるの怖くて。ひとりひとつだしさ」
そう言って近くにあったポスターを指さす。待望の新作フィギュア。数量限定、おひとり様ひとつまで。
「大神のおかげで買えたし、本当ありがと」
「え、小鳩ってこういうのが趣味だったん?」
山田がまじまじとポスターを見ている。よく見ていなかったが、そこには相撲姿のキャラクターがいた。
なんでよりにもよって……!
よく見てなかった俺が悪いから、キャラクターにはなんの罪もないけど!!
今さら取り消すわけにもいかず、なんとか「そう!」と言葉を続ける。
「そこで大神とばったり会って、時間があるならって無理に誘ったんだよ。だから、ごめん。こっちはいいから」
じゃあ、となんとか切り出せた自分を褒めてやりたい。その場から逃げるように走り出す。
「小鳩!」
大神の声が聞こえたけど、その場からとにかく早く離れてしまいたかった。
置いていくことになって申し訳ないけど、俺があの場所にいるよりはよかったはずだ。
これで大神は山田たちと一緒にいることができるし、俺たちの関係も気づかれなくて済む。
近くの公園まで走り、ベンチに座った。小さな公園で遊具も滑り台だけだからか、子どもたちの姿はない。
息を整えて、ぼうっと目の前の景色を見つめる。
……これで、よかった。
でも、なんでこんなことになってんだろう。
俺と大神、ただ一緒にいただけなのに。
付き合っているだけなのに。
「小鳩」
声が聞こえて公園の入り口を見た。そこには膝に手をつく大神がいる。
「……なんで」
「いなくなるなよ」
はあ、と深く息をついて大神がこっちへ歩いてくる。
「え……山田たちは?」
「知らない。小鳩のほうが大事だし」
「でも、俺といたら山田たちに付き合ってることがバレるかもしれないし」
「いいよ、それで。もういっそ気づかれればいい。それで、小鳩と一緒にいられるなら」
だめだって。そう返したかったのに、声にならなかった。
「小鳩と山田たちの二択だったら、圧倒的に小鳩だし。ってか、これ何回言わせんの」
「い、言ってほしいわけじゃなかったんだけど……」
はあ、と大神は俺の前に座り込んだ。「疲れた」と言ったまま顔をあげない。
「大神、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、小鳩に走らされた」
それは申し訳ない。こんな大神を見るのは初めてだ。
「……そんなに走るなんて、大神らしくない」
「俺らしくもなくなるっしょ。小鳩に必死なんだから」
なんとなく、大神の髪を撫でてみる。俺よりも背が高いのに、今はつむじがよく見えて、このタイミングで思うことじゃないけど、ちょっと可愛いなと思ったりしてしまう。
「ごめんなさい」
大神と同じように座り込んで、目線を合わせる。
「勝手に暴走して間違ってたと……うん、思う」
大神の意見もちゃんと聞くべきだったし、事前にもう少し話しておくべきだった。
周囲に俺たちの関係を話さない、だけじゃなくて、バレそうになったときはどうするべきだったのかとか。
「今度から、気をつける」
「分かればよろしい」
俺の懺悔に、大神は緩く笑って、それから今度は俺の頭を撫でて立ち上がった。
「じゃあ、仲直りのキスでもしておこうか」
当たり前のような顔で、大神が俺に手を差し伸べた。
俺よりも大きな手に自分の手を重ねると、ぐいっと引き上げられる。そのまま、大神に抱きしめられるような体勢になった。
「え、待って。……今、なんて言った?」
「仲直りのキス」
「キスできればなんでもいい感じだよね?」
そう問い詰めたら「上目遣いは禁止」と目を塞がれた。
「え、ちょっ……大神っ、ん」
視界を奪われながら、口づけが落ちてくる。「あー……ごめんなさいって言ってた小鳩、可愛かったなあ」
「心の声が──」
大神は、自分で話すときは唇を少しだけ離すくせに、俺が何かを言おうとすると遮るように深めてくる。ずるい。
「おおか、み……公園だ、から」
なんとか伝えると、大神は「んー」と反応するだけで止めてくれそうにない。
「ちょっ、本当に……」
「うん、ここまで」
パッと切り替えるように大神が離れた。
「……え、そんなあっさりと?」
逆に俺のほうが戸惑う。いや、そう願ったのは俺なんだけど。
「あれ、寂しい感じ?」
片方の口角だけ上げて笑うその顔に、かっと顔が熱くなる。
「そっ、そういうわけじゃ……ないわけでもない」
「どっちだよ」
ふっと、大神が笑う。それから俺を射抜くように見て──。
「大丈夫、近いうちにって決めてるから」
なんてことはない口調おどろかされてばかりだに、。
「近いうちにって……」
「だから安心して」
じゃあ行こうか、と俺の肩に手を置いた大神はスタスタと公園を出て行く。大神のペースに振り回されてばかりなのに、それを望んでいる俺は、よっぽど大神のことが好きらしい。
学校で会話をすることがなくても、放課後は昇降口や校門前で待ち合わせて一緒にいられる。
たまに大神が誰かに誘われて、渋々そっちに参加するときは、白井たちと過ごした。
「大神じゃん!」
十一月。寒さが厳しくなり始めた放課後、大神と高校から少し離れた商店街に来ていた。そこで山田に見つかった。
「え、なんで俺の誘い断って小鳩といるわけ!?」
山田の後ろにはいつものメンバーがいて、派手だからよく目立つ。声もでかいから注目の的だ。
「予定があるって、小鳩と?」
山田がぐいっと大神に近づく。
「そう」
そして、大神は平然と答えてしまう。
山田は「なんで!?」とあからさまに俺と大神を交互に見た。
俺たちの関係を知らないから、ここで一緒にいる意味も分からないはずだ。かといって「俺たち付き合ってるんだよね」とは口が裂けても言えない。
「小鳩と一緒にいるってどういうこと?」
「なんでもいいっしょ」
「よくねえよ。大神、最近付き合い悪くね?」
山田の一言は、本人からすると何気ないものだったかもしれない。
けれど、このままだと空気が悪くなるような気がしてならない。
「誰といようが山田には関係な――」
「ごめん!」
大神の言葉を遮る形で、無計画に言葉を弾き出す。
「大神ごめん、無理に付き合わせて」
「……は?」
「本当は今日じゃなくてもよかったんだけど、売り切れるの怖くて。ひとりひとつだしさ」
そう言って近くにあったポスターを指さす。待望の新作フィギュア。数量限定、おひとり様ひとつまで。
「大神のおかげで買えたし、本当ありがと」
「え、小鳩ってこういうのが趣味だったん?」
山田がまじまじとポスターを見ている。よく見ていなかったが、そこには相撲姿のキャラクターがいた。
なんでよりにもよって……!
よく見てなかった俺が悪いから、キャラクターにはなんの罪もないけど!!
今さら取り消すわけにもいかず、なんとか「そう!」と言葉を続ける。
「そこで大神とばったり会って、時間があるならって無理に誘ったんだよ。だから、ごめん。こっちはいいから」
じゃあ、となんとか切り出せた自分を褒めてやりたい。その場から逃げるように走り出す。
「小鳩!」
大神の声が聞こえたけど、その場からとにかく早く離れてしまいたかった。
置いていくことになって申し訳ないけど、俺があの場所にいるよりはよかったはずだ。
これで大神は山田たちと一緒にいることができるし、俺たちの関係も気づかれなくて済む。
近くの公園まで走り、ベンチに座った。小さな公園で遊具も滑り台だけだからか、子どもたちの姿はない。
息を整えて、ぼうっと目の前の景色を見つめる。
……これで、よかった。
でも、なんでこんなことになってんだろう。
俺と大神、ただ一緒にいただけなのに。
付き合っているだけなのに。
「小鳩」
声が聞こえて公園の入り口を見た。そこには膝に手をつく大神がいる。
「……なんで」
「いなくなるなよ」
はあ、と深く息をついて大神がこっちへ歩いてくる。
「え……山田たちは?」
「知らない。小鳩のほうが大事だし」
「でも、俺といたら山田たちに付き合ってることがバレるかもしれないし」
「いいよ、それで。もういっそ気づかれればいい。それで、小鳩と一緒にいられるなら」
だめだって。そう返したかったのに、声にならなかった。
「小鳩と山田たちの二択だったら、圧倒的に小鳩だし。ってか、これ何回言わせんの」
「い、言ってほしいわけじゃなかったんだけど……」
はあ、と大神は俺の前に座り込んだ。「疲れた」と言ったまま顔をあげない。
「大神、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、小鳩に走らされた」
それは申し訳ない。こんな大神を見るのは初めてだ。
「……そんなに走るなんて、大神らしくない」
「俺らしくもなくなるっしょ。小鳩に必死なんだから」
なんとなく、大神の髪を撫でてみる。俺よりも背が高いのに、今はつむじがよく見えて、このタイミングで思うことじゃないけど、ちょっと可愛いなと思ったりしてしまう。
「ごめんなさい」
大神と同じように座り込んで、目線を合わせる。
「勝手に暴走して間違ってたと……うん、思う」
大神の意見もちゃんと聞くべきだったし、事前にもう少し話しておくべきだった。
周囲に俺たちの関係を話さない、だけじゃなくて、バレそうになったときはどうするべきだったのかとか。
「今度から、気をつける」
「分かればよろしい」
俺の懺悔に、大神は緩く笑って、それから今度は俺の頭を撫でて立ち上がった。
「じゃあ、仲直りのキスでもしておこうか」
当たり前のような顔で、大神が俺に手を差し伸べた。
俺よりも大きな手に自分の手を重ねると、ぐいっと引き上げられる。そのまま、大神に抱きしめられるような体勢になった。
「え、待って。……今、なんて言った?」
「仲直りのキス」
「キスできればなんでもいい感じだよね?」
そう問い詰めたら「上目遣いは禁止」と目を塞がれた。
「え、ちょっ……大神っ、ん」
視界を奪われながら、口づけが落ちてくる。「あー……ごめんなさいって言ってた小鳩、可愛かったなあ」
「心の声が──」
大神は、自分で話すときは唇を少しだけ離すくせに、俺が何かを言おうとすると遮るように深めてくる。ずるい。
「おおか、み……公園だ、から」
なんとか伝えると、大神は「んー」と反応するだけで止めてくれそうにない。
「ちょっ、本当に……」
「うん、ここまで」
パッと切り替えるように大神が離れた。
「……え、そんなあっさりと?」
逆に俺のほうが戸惑う。いや、そう願ったのは俺なんだけど。
「あれ、寂しい感じ?」
片方の口角だけ上げて笑うその顔に、かっと顔が熱くなる。
「そっ、そういうわけじゃ……ないわけでもない」
「どっちだよ」
ふっと、大神が笑う。それから俺を射抜くように見て──。
「大丈夫、近いうちにって決めてるから」
なんてことはない口調おどろかされてばかりだに、。
「近いうちにって……」
「だから安心して」
じゃあ行こうか、と俺の肩に手を置いた大神はスタスタと公園を出て行く。大神のペースに振り回されてばかりなのに、それを望んでいる俺は、よっぽど大神のことが好きらしい。


