不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

【大神side】
 目が覚めて、一番に目に飛び込んできたのは、小鳩の寝顔だった。
 は?
 天使か? 自発光やばすぎんだろ。さすがに耐えられそうにない。
 一度昇天しかけて、目を閉じる。もしかしたらまだ夢を見ているのかもしれない。
 いや、夢か。そうだ、これは夢だ。
 まさか小鳩が俺の腕の中で寝ているなんて、そんなことが現実で起きるはずがない。
 落ち着け、と自分に言い聞かせ、それから目を開けた。
「……いる」
 小鳩がいた。夢じゃないらしい。
 だとすれば、とりあえず連写したい。それから動画も長尺で必要だ。
 スマホを探そうとして、ここが保健室だったことを思い出す。
 曖昧だった記憶を手繰り寄せていくうちに、小鳩が俺を探しに来てくれたことや、成り行きで一緒に寝ることになったことが脳内で再生された。
 ……だめだ、これは可愛い。
 小鳩が目覚めないうちにと、さらさらとした髪を撫でる。
 やわらかい。持って帰りたい。って、昨日お持ち帰りしたんだった。
 我ながら、とても健全な家デートだったと思う。
 ふたりで話して、星を見て、メシ食って。遅くなったから小鳩を途中まで送った。
 本当は家まで送りたかったけど「俺も男だから」と笑った小鳩を見たら、なにも言えなかった。
 そんなの関係ないんだよと、もう少し言ってみればよかったと今でも後悔している。
 今だってそうだ。
 寝ている小鳩は可愛い。それは男の俺でも素直に思うほどだ。
 小鳩はよく女の子に間違われることがあるらしい。この高校でも、小鳩が一部の層から支持を受けていることも知っている。
 姫と呼ばれていることも納得がいくような顔をしていた。華奢だし、守りたくなるような雰囲気を持っている。
 でも、そういうのを小鳩は求めていないんだろうなと一緒にいて思う。
 「一応男だから」と小鳩はよく言う。女の子みたいな顔はしているけど、女の子扱いされたいわけでもない。そういう気持ちを尊重するべきだと分かっているつもりだけど、それでも俺ができることはしたい。
 きれいな顔をしているからこそ、心配になることが多い。
「小鳩」
 呼んでも反応しない。
「返事ないなら、なんでもしていい?」
「…………」
「よし」
 もし、小鳩に移っていたら、俺がなにからなにまで看病しよう。
 添い寝もするし、メシも作るし、あと……うん、なんでもやろう。
 かと言って、しんどい思いをさせるのは気が引ける。
 熱が出た小鳩は、それはそれで愛くるしいんだろうけど、かと言って可哀想だ。この怠さとか、そういうのは味わってほしくはない。
 朝から身体が重いなとは思っていたけど、小鳩に会いたくて教室に辿り着いたところまでは覚えている。
 山田たちからしつこく話しかけられたけど、会話の内容は思い出せない。どうせどうでもいい内容だったのだろう。
 そこからは、ほぼ記憶なし。昼休みになって、いい加減ちょっと寝たほうがいいかもしれないと思い保健室まで来た。
 意識が落ちていく手前で、小鳩に会いたいと思っていた。
 話したいし、抱きしめたい。
 さっきまで同じ教室にいたはずなのに、小鳩との距離が遠く感じた。
 でもそれは自業自得だ。
 俺が、学校では一緒にいないほうがいいと判断して、小鳩にそうお願いしたから。
 せめて小鳩の声だけでも聞いていたかった。
 白井と笑いながら話している声を聞いたら普通に妬く。それでも、小鳩の声が聞けるのならいいと自分に言い聞かせた。
 夢を見ていたような気がするけど、なんとなく声が聞こえた。目を開けたときには保健室に小鳩がいて、思わず手を掴んでしまった。
 小鳩だ。俺の好きな、小鳩。
「……ん」
 そんなことを思い出していたら、小鳩が起きた。何度か瞬きをして、俺を認識した瞬間には、黒目が大きく見開いた。
「っ、うううううあ、ごめんっ」 ベッドから落ちそうになった体を受け止める。
「いいよ、離れないで、そばにいて」
 大人しくなった小鳩が、縮こまりながら俺を見上げた。
「……大神って力あるよね」
「男だからね」
「俺も男だけど、大神を受け止める自信はないよ」
「好きって気持ちだけ受け止めてくれたらいい」
「返しまでかっこいいとか罪だ」
 かっこいいと、小鳩はよく言ってくれる。初めて言われたときは思考が停止したものだ。
 あれは山田が強引に始めた王様ゲームをした翌日のこと。
 小鳩が山田とディープキスをする光景を見たくないからと、嘘までついて阻止をした。
 俺の勝手な行動に、小鳩は怒っているんじゃないかと不安だった。
『……大神はすごいよ。どんなときでもかっこよく動けるから』
 それなのに、小鳩に言われた言葉が最初は信じられなくて、しかも「かっこよく」と思われていたことにも感動して、咄嗟に言葉が続かなかった。
 今だって、小鳩は俺のことを過大評価してくれる。
 本当は、自分の弱いところなんて見せたくなかった。しかも好きな人には。
 体調が悪いことも隠すつもりだったのに、小鳩に見抜かれて、本当のことを言ってもきっと受け止めてもらえると思ったら甘えてしまった。
「体調はどう?」
 小鳩が、俺の額に手をあてる。さっきもそうだったけど、小鳩の手は気持ちいい。
「治ったよ、小鳩のおかげで」
「本当だ、さっきよりは下がってる」
「俺、嘘つかないよ」
「さっきまで嘘ばかりついてた男がなに言ってんだよ」
 眉を下げて呆れたように笑う。ついキスをしそうになって、ここは危険だと思い直すことにする。
「小鳩、送ってくよ」
「大神は病人なんだから、俺が送ってく」
 家は知ってるし、とどこか照れくさそうに言う。
 だめだ、家まで送ってもらったら連れ込む自信しかない。
「じゃあ途中まで帰ろう。大人しく今日は帰るから、小鳩も俺と分かれたら真っ直ぐ帰って」
 そう言ったら、小鳩は「心配性だな」とまた苦笑した。
 心配にもなるんだよ、恋人がこんなにも可愛かったら。
 こんな感情を誰かに抱くことが人生で初めてで、だからこそ大切にしたい。