「大神、俺は聞く権利があると思っているんだよ。お前の昨日の過ごし方について」
大神と過ごした翌日、登校すると大神は山田にダル絡みされていた。
「言わない」
そして、大神は笑ってはいるものの、徹底して昨日のことについては触れなかった。
「そんなことあり!? どんだけの人間が大神を待ってたと思ってんだこの野郎」
「俺は俺で大事な用事があったんで」
「え~そんなこと……あるか~」
その大事な用事が、俺と一緒にいたということだとは誰も思わないだろう。俺としては一緒に過ごせて幸せだったけど、やっぱり大神を待っていた人たちっていたんだよな。そのことに、少しだけ悪いなと思ってしまう。
大神は、皆の大神だった。
人気者で誰からも愛される。そんな男を、独り占めしたいなんて、欲張りなんだろうな。でも、一緒にいたいって気持ちも強く残っているからややこしい。
「で、俺たちの誘いを断るってことは、もしかして女か」
山田がしつこく追及する。あれは逃れられそうにない。自分の席に座っている俺でさえ、話しかけられるわけでもないのにひやひやする。
「ちがう」
「じゃあなんだよ」
「なによりも優先したいことに決まってますけど」
当たり前のように答えた大神の声は、俺の耳にもしっかり届く。
……優先したいこと。躊躇うことなく口にした大神の強さに憧れた。
どうしてあんなにも、自分というものを持っていられるんだろう。
「ひど! 今のは友達としてどうなんですか~教えてもらえませんか~」
「言いませーん」
大神が冷たいよん、と近くの男子生徒に泣きつく山田。うえーいと謎のテンションで盛り上がっているが、大神は興味がないらしくスマホを取り出していた。
「相変わらずあそこは賑やかだなあ」
いつの間にか登校していた白井が、前の席に座っていた。
「山田たち、昨日もゲーセンでナンパ三昧だったし」
「白井も一緒だったんだ?」
「いや、他校の子とゲーセンデートしようってことで行ったら山田たちがいたって感じ。まっ、俺はドタキャンされたんですけど」
「それはご愁傷様」
ということは、大神はそこに呼び出されていたということか。
大神が断ってくれて安心したけど、こういうことはこれからも起こったりするんだろうな。
「最初は山田たちがふたり組の女子に声かけてたんだけど、彼氏いるからって拒否られててさあ」
「そうなんだ」
「んで、次は大神の写真を見せ始めて」
「え」
まさかの展開に、つい反応してしまった。
その場にいない大神の写真を見せた?
「今からこいつも来るらしいから一緒に遊ぼうよって誘ったら、見事にオッケーもらってて」
すごいな、エサみたいな感じで使われてるじゃん。
「てか、彼氏いるんじゃなかったの?」
「嘘だったらしいよ」
笑えるよな、と白井は言う。
おそらく山田たちも、彼氏がいると嘘をつかれていたことを軽く流したのだろう。大神で釣れた女の子たちと仲良くなりたい一心で、鬼電してきたのかと思うと、その熱意はもっと別のところに向かないのかと憐れみを抱く。
「でも結局、大神は来なかったんだよ。んで、友達とか嘘じゃんって女子たち怒って帰ったってわけ」
「……そっか」
本当に、心の底から大神が断ってくれてよかったと安心する。きっと大神が顔を出していれば、少なくとも女の子たちは喜んでいたはずだ。
そして、その中のひとりが大神にガチ恋でもしたら……そう考えるだけで、心がざわついてしまう。
俺ってこんなに心が狭かったのか。
「つか、暇だから山田たちのこと見てたんだ?」
「そ、山田たちが無残に振られる光景を見守ってた」
「最低じゃん」
「しょうがないだろ、俺だけ可哀想だし」
口を尖らせては「ほんと山田たちが木端微塵でうけたわ」と人の心を持ち合わせていないような発言を聞きながら、大神と過ごした昨日を思い出す。
あれから、特になにかあったわけじゃないけど、それでも一緒にいられるだけで心が満たされていた。
大神と付き合えたことが今でも夢みたいだけど、たまに目が合って微笑まれると、本当だったんだって実感できる。
だからか、大神に独占欲みたいなものを抱いてしまう。
どんなときでも俺と一緒にいてくれたらと、そんなわがままを言いそうになる。
面倒な恋人にはなりたくないのに、大神が俺以外と一緒にいるのを見るとどうしても嫉妬心が生まれてしまう。
「あれ、大神見てない?」
山田が周囲を見渡しながら全体に問いかけていた。
昼休みに入り、大神がふらりと教室を出て行くのは見た。すぐに戻ってくるのかと思えば、昼休みが終わっても大神は戻らなくて、どうしたのだろうと不思議に思ったのは俺だけじゃない。
山田に対して、クラスメイトたちは「帰ったんじゃね?」と首を傾げていたが、通学バッグは残っている。
五限が始まると、数学の教科担任が空席を見つけて座席表を確認する。
山田が「消えたんすよ」と答えたが、あの口ぶりからしていまだに行方は分かっていないらしい。
昨日交換した連絡先に、こっそりと文字を打ち込んでみる。
【どうした?】
……既読にならない。
連絡を確認できない状況なんだろうか。
結局、五限目、六限目と時間がすぎても大神が戻ってくることはなく、連絡も返ってこなかった。
帰りのHRが終わり、もう一回【どこ】と送ってみたが、やはり既読にすらならない。
さすがに緊急事態として捉えていいよな?
大神がいそうな場所を考えながら廊下に出る。まずは保健室に行ってみよう。さすがにベタすぎるけど、もしかしてということもあるし――。
「……って、いるじゃん」
保健室に入ると、ベッドがひとつ使われていた。白いカーテンで仕切られたそこには、すやすやと眠る大神がいる。
大神と過ごした翌日、登校すると大神は山田にダル絡みされていた。
「言わない」
そして、大神は笑ってはいるものの、徹底して昨日のことについては触れなかった。
「そんなことあり!? どんだけの人間が大神を待ってたと思ってんだこの野郎」
「俺は俺で大事な用事があったんで」
「え~そんなこと……あるか~」
その大事な用事が、俺と一緒にいたということだとは誰も思わないだろう。俺としては一緒に過ごせて幸せだったけど、やっぱり大神を待っていた人たちっていたんだよな。そのことに、少しだけ悪いなと思ってしまう。
大神は、皆の大神だった。
人気者で誰からも愛される。そんな男を、独り占めしたいなんて、欲張りなんだろうな。でも、一緒にいたいって気持ちも強く残っているからややこしい。
「で、俺たちの誘いを断るってことは、もしかして女か」
山田がしつこく追及する。あれは逃れられそうにない。自分の席に座っている俺でさえ、話しかけられるわけでもないのにひやひやする。
「ちがう」
「じゃあなんだよ」
「なによりも優先したいことに決まってますけど」
当たり前のように答えた大神の声は、俺の耳にもしっかり届く。
……優先したいこと。躊躇うことなく口にした大神の強さに憧れた。
どうしてあんなにも、自分というものを持っていられるんだろう。
「ひど! 今のは友達としてどうなんですか~教えてもらえませんか~」
「言いませーん」
大神が冷たいよん、と近くの男子生徒に泣きつく山田。うえーいと謎のテンションで盛り上がっているが、大神は興味がないらしくスマホを取り出していた。
「相変わらずあそこは賑やかだなあ」
いつの間にか登校していた白井が、前の席に座っていた。
「山田たち、昨日もゲーセンでナンパ三昧だったし」
「白井も一緒だったんだ?」
「いや、他校の子とゲーセンデートしようってことで行ったら山田たちがいたって感じ。まっ、俺はドタキャンされたんですけど」
「それはご愁傷様」
ということは、大神はそこに呼び出されていたということか。
大神が断ってくれて安心したけど、こういうことはこれからも起こったりするんだろうな。
「最初は山田たちがふたり組の女子に声かけてたんだけど、彼氏いるからって拒否られててさあ」
「そうなんだ」
「んで、次は大神の写真を見せ始めて」
「え」
まさかの展開に、つい反応してしまった。
その場にいない大神の写真を見せた?
「今からこいつも来るらしいから一緒に遊ぼうよって誘ったら、見事にオッケーもらってて」
すごいな、エサみたいな感じで使われてるじゃん。
「てか、彼氏いるんじゃなかったの?」
「嘘だったらしいよ」
笑えるよな、と白井は言う。
おそらく山田たちも、彼氏がいると嘘をつかれていたことを軽く流したのだろう。大神で釣れた女の子たちと仲良くなりたい一心で、鬼電してきたのかと思うと、その熱意はもっと別のところに向かないのかと憐れみを抱く。
「でも結局、大神は来なかったんだよ。んで、友達とか嘘じゃんって女子たち怒って帰ったってわけ」
「……そっか」
本当に、心の底から大神が断ってくれてよかったと安心する。きっと大神が顔を出していれば、少なくとも女の子たちは喜んでいたはずだ。
そして、その中のひとりが大神にガチ恋でもしたら……そう考えるだけで、心がざわついてしまう。
俺ってこんなに心が狭かったのか。
「つか、暇だから山田たちのこと見てたんだ?」
「そ、山田たちが無残に振られる光景を見守ってた」
「最低じゃん」
「しょうがないだろ、俺だけ可哀想だし」
口を尖らせては「ほんと山田たちが木端微塵でうけたわ」と人の心を持ち合わせていないような発言を聞きながら、大神と過ごした昨日を思い出す。
あれから、特になにかあったわけじゃないけど、それでも一緒にいられるだけで心が満たされていた。
大神と付き合えたことが今でも夢みたいだけど、たまに目が合って微笑まれると、本当だったんだって実感できる。
だからか、大神に独占欲みたいなものを抱いてしまう。
どんなときでも俺と一緒にいてくれたらと、そんなわがままを言いそうになる。
面倒な恋人にはなりたくないのに、大神が俺以外と一緒にいるのを見るとどうしても嫉妬心が生まれてしまう。
「あれ、大神見てない?」
山田が周囲を見渡しながら全体に問いかけていた。
昼休みに入り、大神がふらりと教室を出て行くのは見た。すぐに戻ってくるのかと思えば、昼休みが終わっても大神は戻らなくて、どうしたのだろうと不思議に思ったのは俺だけじゃない。
山田に対して、クラスメイトたちは「帰ったんじゃね?」と首を傾げていたが、通学バッグは残っている。
五限が始まると、数学の教科担任が空席を見つけて座席表を確認する。
山田が「消えたんすよ」と答えたが、あの口ぶりからしていまだに行方は分かっていないらしい。
昨日交換した連絡先に、こっそりと文字を打ち込んでみる。
【どうした?】
……既読にならない。
連絡を確認できない状況なんだろうか。
結局、五限目、六限目と時間がすぎても大神が戻ってくることはなく、連絡も返ってこなかった。
帰りのHRが終わり、もう一回【どこ】と送ってみたが、やはり既読にすらならない。
さすがに緊急事態として捉えていいよな?
大神がいそうな場所を考えながら廊下に出る。まずは保健室に行ってみよう。さすがにベタすぎるけど、もしかしてということもあるし――。
「……って、いるじゃん」
保健室に入ると、ベッドがひとつ使われていた。白いカーテンで仕切られたそこには、すやすやと眠る大神がいる。


