「もっと星の話聞かせて」
俺が言えば、大神は少しおどろいたような顔をして、それから苦笑した。
「つまらなくなったら言って」
「ならないよ」
大神のことだから、頼めばずっと星の話をしてくれるのだろう。大神が好きなものに触れていたい。
「じゃあ、次は土星かな。輪っかがあるのが特徴」
「望遠鏡だと輪っかまで見えるの?」
「天気が良ければ。今日はわりと見えるかも」
大神は視線を望遠鏡から少し外して、俺に笑いかける。
「あと、少し暗い星はオリオン座。冬の夜空ではよく目立つ」
「オリオン……あ、三つ並んだ星だよね?」
「そうそう、肉眼でも見えるよ」
指で空をなぞる大神の手が、月明かりに照らされて少し近く見える。
「あ、あのへんだ」
「多分、正解」
ふっと大神が笑う。
「じゃあ次はあの明るい星、シリウス。冬の大犬座の一番星」
「あれ、一番星っていっぱいあんの?」
「さっき小鳩が見つけたのは、ポラリスのほうで北極星。今のはシリウスで、夜空で一番明るい星って言われてる」
「ああ、じゃあ俺にとってのシリウスは大神だ」
大神がポラリスを俺だと言ってくれた。でも今の話を聞いたら、シリウスのように誰よりも光っているのが大神だ。
「どっちも一番星」
そう言ったら、大神は「ほんとだな」と微笑んだ。星を前にしたときの大神は、いつも以上にかなり優しい顔をするらしい。
夜空は広いのに、今の俺たちはなんだかふたりだけの世界にいるみたいだった。
「……なんか不思議」
大神がぽつりと呟いた。
「え?」
「星を見るときは、大体ひとりだったから。特に親父が忙しくなってからは」
空を見上げる。
そっか、大神はこの夜空をいつもひとりで見ていたのか。
「小鳩が付き合ってくれるなんて思わなかった」
「面白いよ。俺も星好きになったし、まだ見たいって思うから」
「でも俺の話、長くなるよ」
「聞くよ。大神の話ならどれだけでも」
いつまでも聞いていたいと思うから。
この夜を、この空を、この瞬間を共有していたい。
そんな気持ちが、胸いっぱいに広がっていく。
またこうして大神と星空を見てみたい。
そう思っていたら、背後から熱い体温が伝わった。
大神が俺をそっと抱きしめてくる。
「小鳩」
低く、落ち着いた声が耳元で響く。
「ごめん、これ以上はしない。ちょっと我慢できなくなっただけ」
「星見てたのに?」
「俺は、小鳩を見てる時間のほうが長かったよ」
そうだったのか。いや、俺も同じだったかもしれない。
星を見ているよりも、星について語る大神の横顔を見ていた時間のほうが圧倒的に長かったと気づく。
ふたり揃ってなにをしているのか。
「あ、大神。ここ外だよ」
「見えないって」
「見えるよ……その、通行人とかさ」
「目が合ったら、にっこりしとけばいいよ」
「……いいのかな、それ」
忘れていたけど、爽やかな顔でこういうことを言ってくるやつだった。
だけど、イヤだと思ってない自分がいるから厄介だ。
背後から抱きしめられたまま、耳元で笑い声が聞こえる。
「……大神、なんで笑ってるんだよ」
「だって、小鳩の照れてる顔が可愛いから」
からかわれて、余計に顔に熱がこもる。なんで後ろから見えるんだ。
「……なんか、俺ばっかりドキドキさせられてるような気がする」
「俺もだけど」
「大神もドキドキしてんの?」
「だって小鳩を抱きしめてんだよ? しないわけないじゃん」
そんな当たり前みたいに言われても困る。
だけど俺だけじゃないって分かると、心臓の音とか、べつに聞かれてもいいかって開き直れるかも。
「はあ、幸せ」
大神がしみじみと言うものだから、つい笑ってしまう。
「学校とはぜんぜん違う」
「そりゃあ、好きな人に見せる顔は違うもんでしょ」
「じゃあ、俺も大神にはそう見えてる?」
「見えてるよ。俺の前だと、甘えた感じになる」
「本当に?」
「うそ、そうなってほしいって願望」
「なんでうそつくんだよ」
しかも願望って。
だけど……大神がそれを願ってくれるなら。
「じゃあ、言わせてもらうけど」
「うん?」
「もう少し、強く抱きしめてほしい」
大神は俺に触る時、すごく優しかったりする。それは大事にしてくれようとする気持ちからなんだろうけど。
「……物足りないって、思っちゃうから」
こんなこと、口が裂けても言えないと思ってたけど。
大神なら許してくれるはずだから。
「なにそれ、可愛すぎ」
大神が抱きしめる力を強める。少し苦しいくらいだけど、こっちのほうがなんか安心できる。
「あー……やばい。小鳩が可愛くてしょうがない」
「可愛いって連呼するけど、一応男だよ」
「かっこいいって言われたい?」
「……大神からは、いいかも」
「そういうところだって」
甘えたことを言っても、大神は受け止めてくれる。
こんな幸せでいいのかなって不安になるくらいだ。
大神と付き合えただけでも信じられないのに、こうして抱きしめられていることも奇跡みたいだ。
願いを叶えてもらったら、それで満たされると思っていたのに、なぜか逆らしい。
もっともっと欲張ってしまう。
「あのさ、大神」
「んー」
「顔が見えないから、その、見たいです」
できるなら、大神がどんな顔をしているのか知りたかった。
「……はあ、いちいち煽らないでくださいって言ったんですけどね」
「煽ってるのかな?」
「煽ってるよ」
今だけは、姫枠のポジションに感謝できる。可愛がってもらえることがうれしい。もちろん、大神だけにしてもらえることが。
大神が抱きしめる力を弱めたタイミングで後ろに振り返る。
それから真正面から思いっきり抱きつく。ぎゅっと、苦しくなるくらい。
「……小鳩」
「苦しい?」
「いや、本気出していいよって言おうとした」
「えっ、これでも結構本気なんだけど」
おかしいな、痛いくらいのはずなのに。
「本気っていうのは……」
今度は大神から抱きしめられる。その力があまりにも強くて、「うっ」と声が出てしまった。
「ごめん、本気出しました」
「……本気を知りました、もう本気って言いません」
「でもうれしかったから、いつでもして」
そのまま優しく抱きしめられて、大神の顔が俺の肩にのる。
「はあ、小鳩はあったかい」
「……大神もだよ」
大きな背中に腕を回す。本当に大神と付き合っているんだなってなぜか急に実感する。
「好きだよ、大神」
「俺も」
大神の声が近くて、体温が伝わってくる。
風に混じる夜空の冷たさも、大神の腕の中にいると気にならない。
誰かに見られたってべつにいいと思えるくらいには、本気で好きになったんだなと星空の下でしみじみと思った。
俺が言えば、大神は少しおどろいたような顔をして、それから苦笑した。
「つまらなくなったら言って」
「ならないよ」
大神のことだから、頼めばずっと星の話をしてくれるのだろう。大神が好きなものに触れていたい。
「じゃあ、次は土星かな。輪っかがあるのが特徴」
「望遠鏡だと輪っかまで見えるの?」
「天気が良ければ。今日はわりと見えるかも」
大神は視線を望遠鏡から少し外して、俺に笑いかける。
「あと、少し暗い星はオリオン座。冬の夜空ではよく目立つ」
「オリオン……あ、三つ並んだ星だよね?」
「そうそう、肉眼でも見えるよ」
指で空をなぞる大神の手が、月明かりに照らされて少し近く見える。
「あ、あのへんだ」
「多分、正解」
ふっと大神が笑う。
「じゃあ次はあの明るい星、シリウス。冬の大犬座の一番星」
「あれ、一番星っていっぱいあんの?」
「さっき小鳩が見つけたのは、ポラリスのほうで北極星。今のはシリウスで、夜空で一番明るい星って言われてる」
「ああ、じゃあ俺にとってのシリウスは大神だ」
大神がポラリスを俺だと言ってくれた。でも今の話を聞いたら、シリウスのように誰よりも光っているのが大神だ。
「どっちも一番星」
そう言ったら、大神は「ほんとだな」と微笑んだ。星を前にしたときの大神は、いつも以上にかなり優しい顔をするらしい。
夜空は広いのに、今の俺たちはなんだかふたりだけの世界にいるみたいだった。
「……なんか不思議」
大神がぽつりと呟いた。
「え?」
「星を見るときは、大体ひとりだったから。特に親父が忙しくなってからは」
空を見上げる。
そっか、大神はこの夜空をいつもひとりで見ていたのか。
「小鳩が付き合ってくれるなんて思わなかった」
「面白いよ。俺も星好きになったし、まだ見たいって思うから」
「でも俺の話、長くなるよ」
「聞くよ。大神の話ならどれだけでも」
いつまでも聞いていたいと思うから。
この夜を、この空を、この瞬間を共有していたい。
そんな気持ちが、胸いっぱいに広がっていく。
またこうして大神と星空を見てみたい。
そう思っていたら、背後から熱い体温が伝わった。
大神が俺をそっと抱きしめてくる。
「小鳩」
低く、落ち着いた声が耳元で響く。
「ごめん、これ以上はしない。ちょっと我慢できなくなっただけ」
「星見てたのに?」
「俺は、小鳩を見てる時間のほうが長かったよ」
そうだったのか。いや、俺も同じだったかもしれない。
星を見ているよりも、星について語る大神の横顔を見ていた時間のほうが圧倒的に長かったと気づく。
ふたり揃ってなにをしているのか。
「あ、大神。ここ外だよ」
「見えないって」
「見えるよ……その、通行人とかさ」
「目が合ったら、にっこりしとけばいいよ」
「……いいのかな、それ」
忘れていたけど、爽やかな顔でこういうことを言ってくるやつだった。
だけど、イヤだと思ってない自分がいるから厄介だ。
背後から抱きしめられたまま、耳元で笑い声が聞こえる。
「……大神、なんで笑ってるんだよ」
「だって、小鳩の照れてる顔が可愛いから」
からかわれて、余計に顔に熱がこもる。なんで後ろから見えるんだ。
「……なんか、俺ばっかりドキドキさせられてるような気がする」
「俺もだけど」
「大神もドキドキしてんの?」
「だって小鳩を抱きしめてんだよ? しないわけないじゃん」
そんな当たり前みたいに言われても困る。
だけど俺だけじゃないって分かると、心臓の音とか、べつに聞かれてもいいかって開き直れるかも。
「はあ、幸せ」
大神がしみじみと言うものだから、つい笑ってしまう。
「学校とはぜんぜん違う」
「そりゃあ、好きな人に見せる顔は違うもんでしょ」
「じゃあ、俺も大神にはそう見えてる?」
「見えてるよ。俺の前だと、甘えた感じになる」
「本当に?」
「うそ、そうなってほしいって願望」
「なんでうそつくんだよ」
しかも願望って。
だけど……大神がそれを願ってくれるなら。
「じゃあ、言わせてもらうけど」
「うん?」
「もう少し、強く抱きしめてほしい」
大神は俺に触る時、すごく優しかったりする。それは大事にしてくれようとする気持ちからなんだろうけど。
「……物足りないって、思っちゃうから」
こんなこと、口が裂けても言えないと思ってたけど。
大神なら許してくれるはずだから。
「なにそれ、可愛すぎ」
大神が抱きしめる力を強める。少し苦しいくらいだけど、こっちのほうがなんか安心できる。
「あー……やばい。小鳩が可愛くてしょうがない」
「可愛いって連呼するけど、一応男だよ」
「かっこいいって言われたい?」
「……大神からは、いいかも」
「そういうところだって」
甘えたことを言っても、大神は受け止めてくれる。
こんな幸せでいいのかなって不安になるくらいだ。
大神と付き合えただけでも信じられないのに、こうして抱きしめられていることも奇跡みたいだ。
願いを叶えてもらったら、それで満たされると思っていたのに、なぜか逆らしい。
もっともっと欲張ってしまう。
「あのさ、大神」
「んー」
「顔が見えないから、その、見たいです」
できるなら、大神がどんな顔をしているのか知りたかった。
「……はあ、いちいち煽らないでくださいって言ったんですけどね」
「煽ってるのかな?」
「煽ってるよ」
今だけは、姫枠のポジションに感謝できる。可愛がってもらえることがうれしい。もちろん、大神だけにしてもらえることが。
大神が抱きしめる力を弱めたタイミングで後ろに振り返る。
それから真正面から思いっきり抱きつく。ぎゅっと、苦しくなるくらい。
「……小鳩」
「苦しい?」
「いや、本気出していいよって言おうとした」
「えっ、これでも結構本気なんだけど」
おかしいな、痛いくらいのはずなのに。
「本気っていうのは……」
今度は大神から抱きしめられる。その力があまりにも強くて、「うっ」と声が出てしまった。
「ごめん、本気出しました」
「……本気を知りました、もう本気って言いません」
「でもうれしかったから、いつでもして」
そのまま優しく抱きしめられて、大神の顔が俺の肩にのる。
「はあ、小鳩はあったかい」
「……大神もだよ」
大きな背中に腕を回す。本当に大神と付き合っているんだなってなぜか急に実感する。
「好きだよ、大神」
「俺も」
大神の声が近くて、体温が伝わってくる。
風に混じる夜空の冷たさも、大神の腕の中にいると気にならない。
誰かに見られたってべつにいいと思えるくらいには、本気で好きになったんだなと星空の下でしみじみと思った。


