不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

 こんな部屋に住んでいたら、そりゃあ友達の家でも自慢したくなる。しかも大神の家なんだから。
「じゃあ、俺が初めてなんだ」
「そ、初体験」
「……言い方、なんかえろくない?」
「照れてんだ」
 ずっと大神のペースにのせられている。
 どう頑張っても、なぜか甘い空気が戻ってきてしまう。
 そういえば、大神はこういうことに慣れているんだろうか。付き合ったあとの触れ合いとか。
「小鳩」
 名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
「教えてほしいんだけど」
「な、なに?」
「白井たちとしてること、俺ともしてよ」
 きれいな瞳が後ろから覗き込んでくる。
こてんと、甘えるみたいに俺の肩に頬を預けるその姿が、あまりにも近くて、破壊力えげつない。俺、よく分からないけど、ここで爆発できる自信がある。ぼんっ、て。
 でも白井たちとやってることってなんだ?
 しかも大神が興味を持つようなことって――。


「え、これ?」
 大神がご所望だったのは、スマホのゲームアプリだった。
 領土を守って王国を作っていくようなやつ。コツコツ続けていた結果なのか、大神が興味を持った。
「大神もゲームしたりするんだ」
「暇つぶしにパズルゲームくらい」
「うわ、得意そう。俺そっちは苦手なんだよ」
 慣れたらいけると言われ、鵜呑みにして試すけど、続いたことがない。
 大神が自分のスマホにインストールして、ゲームが始まった。
 最初こそは「どうすんの」「なにやんの」「意味わからん」と続けていたが、チュートリアルが終わってしばらくしたら大人しくなった。おそらくもうやり方を掴んでしまったのだろう。それにしても、と思う。
 やり込みすごくない?
 俺、隣にいるよね?
 ただゲームの要員で呼ばれたんすか。
「大神」
「ん」
「楽しい?」
「んー」
「いや、楽しんでるならいいんだけど」
 あれだけ俺にぴったりくっついてた大神が、今ではスマホにつきっきりだ。
 ゲームの世界にのめり込み、俺からはどんどん離れていっている……ような気もする。
「そもそも、なんでそれがやりたくなった?」
「小鳩がやってるから」
「え?」
 画面を操作しながら、大神が答えた。
「これやってたら、離れてても、小鳩と時間共有できてるような感じする」
 なんですかそれ。そんな理由がそのゲームに込められていたのか。
 教えてくれよ。ちょっとヤキモチやいてたじゃん。俺よりゲームのほうが大事なんかなって。
 ほら、まだ付き合いたてだから。不安になることもあるんすよ、とは言えない。言えたら楽だけど。
「……ひとりになるのは、さみしい」
 でも、これくらいなら言ってもいいだろうか。ちらりと大神を見たら、ぴたりとゲームをやめていた。
「やめます」
「あ、そんなあっさりと」
「さみしい思いをさせたくて家に呼んだわけじゃないから」
 その答えは満点だ。はなまるをあげたいくらい。
「小鳩はなにやりたい? カードゲームとかチェスとか……人生ゲームはある」
「ゲームオンリーだ」
 大神ってそんなにゲームが好きなのか?
「小鳩がいつかこの家に来るかもと思って買っておいただけ」
「えっ、そうなの⁉」
 やたらと誰かと対戦するものだなとは思っていたけど、まさか俺を想定して準備してくれていたとは思わなかった。
「あ、ありがとう」
「俺が勝手にしただけ。んで、何する?」
「うーん……」
 ゲームは楽しいよ。それはいいんだけど。全然いいんだけど。単純に俺と遊びたくて呼んでくれたってことだよな?
 だとしたら、それは極力裏切りたくない気持ちではいるんだけど。
 でもさ、俺たちって付き合ってるんだから。
「……ただ、一緒にいるって選択肢はないんですか」
「ない」
 即答!!
 俺、そんな「ない」ってきっぱり言われるようなこと言った?
「あの……その、真意を知りたいといいますか」
「なにかやってないと、小鳩にしか意識が向かなくなる」
「……ん?」
「ただ一緒にいるってなったら、多分、俺が俺でいられなくなる」
 なんかすげえセリフ言ってる。
「あの、大神じゃなくなるっていうのは……」
「言っていいの?」
 からかうような表情で首を傾げて俺を見てくる。
 考えたことなかったけど、いや、でもそっか。
 大神はそういうことを考えてくれて、ゲームを提案してくれていたのか。ただのゲーム要員じゃなくてよかったとは思うけど。
「……いいよ、聞きたいし」
 さすがに大神が大神じゃなくなったら困るだろうけど。
「…………」
「あ、大神またフリーズしてる」
 おーい、と呼びかけたら、はっとして戻ってきた。
「分かった。どこまでしていい?」
「話が早い!」
「小鳩がいいよって言うから」
「いいよとは……うん、どうだろう」
 俺も深く考えずに許可をしてしまったからよくなかったんだろう。でも限度というものがある。どうやらその線引きは、大神には通用しないらしい。
「じゃあ、こういうのは?」
 細い指が俺の手を持ち上げて、すっと唇を落とした。
「キスとか」
「キ、キッス……!?」
「うん、小鳩は知らないかもしれないけど、キスっていろいろ種類あるんですよ」
「知ってるよ……!」
「へえ?」
 あ、やばい。
 大神、自覚してないかもしれないけど、今すごく爽やかからかけ離れた顔している。
「たとえば?」
「ええと……ほら、この前したじゃん」
「あれって、唇が当たっただけでしょ」
「キスってそういうもんじゃないの!?」
「ちがうよ」
 そういって、後頭部を抑えられて大神からのキスが落ちてくる。
「口、開けて」
「え」
 油断した隙に、生温かい感触がした。
「これは、知ってた?」
 キスしながら話されて、ぶんぶんとなんとか首を振る。
 そうか、俺が知っていたキスは全然ちがうかもしれない。
「はい、おしまい」
 熱だけ残して大神は呆気なく離れていく。強引に抑えられていた後頭部も、解放されるのに、どこかふわふわしていた。