不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「気になってるみたいだから言っとくけど、親はふたりとも健在」
 キッチンから俺の頭の中を覗いたような声が聞こえてくる。
「え……顔に出てた?」
「どうしてひとり暮らしなのかって聞こうか悩んでたでしょ」
「なんでそんなバレるかな……」
「小鳩は分かりやすいんだよ。眉間にしわ寄ってるときって考えごとしてるときの顔だし」
 そう言って大神はグラスをふたつ持ってキッチンから出てきた。そのまま片方を俺にくれる。
「ありがと。てか、そんな顔してるんだ、俺」
「めっちゃ分かりやすい。ポーカーフェイスは無理そうだね」
「ただただ恥ずかしいんだけど」
「可愛いけどね」
 大神はくすくすと笑いながらソファに座った。隣に座る勇気もなくて、ソファの下に座ることにする。
「まあひとり暮らしの理由は、両親がどっちも長期の海外出張ってだけで、親戚の家に住む話も出てたけど、高校生ならひとりでやっていけるし」
「……そっか」
「妹と弟も一緒についていったけど、三か月に一回くらいはこっち戻ってくるから定期的に会ってるよ」
 俺が聞いても大丈夫そうな理由で安心した。
「だから心配しなくて大丈夫」
 大神は、俺のことを気にして話してくれたんだろうな。
 大神の家。大神の生活。
 今までは、大神って遠い存在に思っていたのに、こうやって部屋に座っていると、急に身近な人間に見えてくる。
「なんか、大神の家にいるって不思議だ」
「珍しいものはないと思うけどな」
「大神が住んでいるってだけで価値があるよ」
 みんなが知ったら、絶対ここが溜まり場になりそうな気がする。
 だけど、そうなってはほしくないな。ここに来られるのは、俺だけがいい。
 ふと視界に、珍しいものを発見した。望遠鏡だ。窓の近くに設置されている。
「大神って星とか見るの?」
「うん、昔から好きだよ。親父が天体観測好きで、小さい頃一緒に空を見るのが日課だったから」
 大神は立ち上がると、望遠鏡を軽く手でなぞりながら言った。
 普段の大神からは想像できないほど、穏やかで柔らかい表情。爽やかさとはまた違う魅力があっていい。
 俺も一緒に窓の近くまで歩く。
 窓際のカーテンを少し開けると、街の明かりの向こうに夕空が広がっていた。
「今日も見えるかな」
 聞いてみると、大神は窓から空を見上げた。
「雲がないからきれいに見えるかも。まあ、もう少し暗くなったほうがはっきりするとは思うけど」
「暗くなったらか」
「いたら?」
「えっ、いいの?」
「そしたら、小鳩と長く一緒にいられるし」
 ストレートな理由に、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
 余裕そうな顔で言うものだから、こっちだけ感情が乱れて納得がいかない。
「あ、大神。着替えてもいいよ」
「ん?」
「だって、帰ったら着替えるっしょ」
「あー……いいよ。小鳩は制服なんだから」
「遠慮せずとも着替えてくださいよ、旦那」
「なに設定?」
 というか、大神の私服って見たことがないから、これを機会に拝んでおきたいというところはある。
 可能であれば撮影タイムを設けてもらえたらうれしい。さすがにお願いするのは気が引けるけど。
「んー……まあ、分かった」
 渋々といった様子で大神はその場で制服を脱ぎ始める。
 俺が男だからってこともあるのか、そのあたり遠慮なさすぎてちょっと笑ってしまう。俺、意識されなさすぎ。まあ、それがいいんだけど。
「こういうとき、ちょっとここで着替えないでよ、とかなるもんじゃん?」
 大神が苦笑する。
「うーん、小鳩の前ならいいかなと思って」
 ……なんだよちょっと意地悪そうなその笑い方。そんな顔も見せるのかよ。
 それから着替えた姿が、上下白のセットアップってところが、まあ美しかった。
「……なんか眩しい」
「ただの部屋着なんだけど」
 だとしたら、部屋着だけでなんでこんな様になんのか知りたい。俺が着たら身長足りなくて足の袖とか引きずってんだろうな。これまた着こなしが完璧じゃないの。
「ガン見じゃん」
「いやあ、大神は服にも愛されるんだなと思って」
 大神だから許されているみたいなところあるし。
「俺は小鳩だけに愛されてれば、それでいいんだけど」
 俺の後ろにまわったかと思うと、ふわっと抱きしめられた。大神の息遣いが耳元に届いて、なんとなく、ぞくっとしてしまう。これ、わざとじゃない……よな?
「……今日は何時までいられるの?」
 しかも大神が喋るたびに、ダイレクトにくるもんだから困る。
「門限ないし、あ……でも星見たら帰るから」
「帰んの?」
 ぐっと、抱きしめられる力が強くなる。
「か……帰らないと、まずいじゃないですか」
「なにがどうまずいの?」
「……言わせるとか、意地悪だ」
「あれ、知らなかった?」
 ふたりになると、途端に甘くなる。
 もし、俺が泊まっていくなんて言ったらどうするつもりなんだろう。明日も俺たち学校があるじゃん。
「……ここって、友達よく来んの?」
 なんとなく話題を逸らしたくて、部屋を見渡すフリをする。後ろの大神に意識を持っていかれてるのを隠したかった。
「いや、来ない。ってか、人を連れてきたの初めて」
「えっ、山田たちは?」
「ムリ。SNSで拡散されそー」
 それは……うん、否定ができない。