南沢くんと深瀬くんの交換日記。



放課後。
俺たちは、駅から降りた最寄りにあるファミレスにやって来た。

「はぁ、疲れた~!類、何にする?ドリンクバーは必須だよな?」

そう言いながら、空いているテーブル席に座ると、さっそくメニュー表に目を通す。表のノボリの『濃厚スウィートいちごパフェ』がさっきから気になるけど……。

どうしよう、いっちゃう?パフェいっちゃう?

「あ、俺、あとこのいちごパフェにしようっと!類、決まった?」

「俺は、ドリンクバーと『チョモランマポテト』にする」

「………プッ!」

「……なに?」

「いや~、なんか、類の口から『チョモランマ』とか聞くと、おもしろいなと思って」

「……お前、セクハラだぞ、それ」

「ええっ!?うそ!どこらへんが?」

「……まあいい。ほら、注文するぞ。お前の奢りだから、遠慮なくさせてもらう」

「おう、そうしてくれ!シャーペン買ってくれたし、俺と交換日記してくれる礼だからな!……あ、すいませーん!」

店員さんを呼んで注文を済ませると、俺は席から立ち上がる。

「類、飲み物何がいい?」

「俺は……ジンジャーエール」

「りょーかい!じゃあ、取りに行ってくるな!ちょい待ち」

「……うん」


いざ、ドリンクバーへレッツゴー。
並べてあるグラスをケースから取り出すと、ドリンクマシーンの注ぎ口のところにグラスを置く。

あ……どうしよう。
なんか俺、思いついちゃったな……ウフフ。

もう、こうなったら最後までやってみなきゃ止められない。イタズラって、ひらめいたらどうして試してみたくなるんだろう。

グラスの中に、まずコーラを入れて、その後にグレープジュース。最後にウーロン茶の順に三分の一ずつ入れると、俺考案『デビルブラックジュース』の出来上がりだ。

あとは普通に、俺の紅茶と類のジンジャーエールをそれぞれカップやグラスに注いで、何食わぬ顔で戻ればオッケー。

「ほーい、ジンジャーエール。あと、それからこれ、新しくセットされたドリンクらしくて……まあ、ベースはコーラなんだけど、ザクロの味がするらしい。ちょっと変わってておもしろそうだから、類と飲んでみようと思って持ってきた」

「へぇ、そうなのか」

……よし。疑ってる気配はなさそうだ。
ジンジャーエールを一口飲んで、涼しい顔でスマホをいじっている。

ここからが勝負。気を抜いたらアウト。
最初の一口を類が飲まなきゃ、このイタズラは成立しない。俺が初めに飲んだら、不味さのあまり吹き出してジ・エンドだからな。

ただ、勘が鋭い類のことだ。「先、飲んでみてよ?」なんて、俺がさりげなく言ったとして「何かあるだろ。お前が先に飲め」って、勘づかれて詰むのは想像がつく。

さて、どうするか……。


「飲んでみてもいい?」

「えっ……あ、うん!どうぞ!どうぞ!飲んでみて!」

ウッッソー!またとないチャーンスッ!
類の好奇心をくすぐってしまったのか、俺~ッ!

そんなことを心の中で叫んでいる俺を傍らに、類は『デビルブラック』が入ったグラスに手を伸ばす。
そして、何の躊躇いもなくグラスを口元に近づけてそのまま傾けて、喉仏が一回ゴクッと動いたのを俺は確認した。

さあ~、どうだ?マズイだろ~?
マズイよな?なっ?

「これ、うまいな」

「……っ!?」

「なんていうか、コーラの奥深い甘味とスカッとした炭酸の後に、ザクロのほどよい酸味が追いかけてきて、爽やかになってる」

「へ、へぇ……」

な、に、そ、れー!
俺、ミラクル起こしたってこと!?
味変革命!?それか、類の舌がおかしいのか……?

「友、お前も飲んでみろ」

「お、おう。どれどれ…………ブッ!」


……俺は、後悔した。
こんなイタズラを考えたこと。類を騙せると思ったこと。

だって、よく考えたらおかしいじゃん?
類が経験してない飲み物とか食べ物を自分からいくタイプじゃないってこと、俺は知ってるはずなのに……。
バレてた。完全にバレてた。

「うぉえっ……まっずぅ!!おい!類、お前飲んだんじゃねぇのかよ!!」

「……バーカ。飲んだフリに決まってるだろ」

「きったねーぞ!」

「俺をハメようとするからだ。自業自得」

ベッと一瞬舌を見せる類に、俺の意思とは関係なく心臓がトクンと跳ねた。

……また、だ。
マジで、なんだこれ?

そのうちすぐに、さっきみたいに心臓の音がドキドキ速くなってくる。

やっぱり、俺……なにかの病気なのかな?

「……あのさ、類」

「……ん?」

「俺、その、もしかして、びょう……」


『お待たせしました、チョモランマポテトです』


言おうとした瞬間、話を遮るように、大皿にこれでもかと山盛りにされたポテトがテーブルの上に置かれた。揚げたての香ばしいポテトの匂いが、俺の食欲を一気に掻き立てる。

「友、お前も食べる?」

「え、いいの?」

「そんな物欲しそうに、お前にじっと見つめられたら、ポテトともかわいそうだからな」

「な、なんだよ、それ。俺よりポテトの心配かよぉ……」

「じゃあ、いらない?」

「いる!いるに決まってるだろ!」

──パクッ。

一口食べればお口の中は、たちまちファンタジー。デビルブラックの不快な味も、さっきの体の心配事も一瞬で消え去っていく。

「うまっ!えぐっ!ポテトって悪魔的食べ物だよな?止まんねー!」

「……お前、パフェ注文してること忘れてないよな?満腹で食べられなくなっても知らないぞ」

「だいじょーぶだいじょーぶ!甘いのは別腹って言うだろ?」

「ふっ、女子か」

「……っ!」

一瞬だけど、類が笑った。ほとんど笑わない類が笑った。その笑顔は、普段クールとは思えない呆気ない無邪気さがあって、破壊力は凄まじい。

こんなの女子が見たら、『瞬殺落ち』からの『ガチ恋』になること間違いない。

──ドキン。

うっ……まただ……。
本当に変だ、俺……。

類の普段見ない表情を見るたび、心臓がドキンっと跳ねる。

え、不整脈ってやつ?
じーちゃんがよくなってたけど……。
俺、まだ、そんな年じゃないのに……。

もしかして、ストレスかな?
あ~、だとしたら、あのせいか!
地獄のバレンタインのせいだな、きっとそうだ!そうに違いない!

「……」

「……急に静かになって、どうした?」

「……あ、その……」

たぶん、ストレスだと思うけど、心配だから類に相談してみてもいいですか?
でも、口からは言いにくい……そうだ!

カバンから例のノートを取り出す。そして、買ってもらったばかりのシャーペンで思いのままそこに書き出すと、俺は類にノートを渡した。

「……これ、今ここで読んだら、交換日記っていうのか?」

「いいから!とにかく……読んでほしい……」

「……わかった」

類は素直にノートを受けとると、黙って俺の字に目を通した。でも、すぐにゴミを見るような目で俺に視線を向けた。

「……は?」

「『は?』ってなんだよ!『は?』って!俺は真剣に悩んでるんだぞ!」

「……俺の顔見るたび不整脈になるって……なに、ディスり?」

「ちっがーう!!そうじゃなくて!俺にもわかんねーんだよ……昨日から、お前が笑ったり、なんか表情変わるの見るたびに、ここが……心臓がドキドキして、おかしくて……」

「ふーん」

頬杖ついて、フッと静かに鼻で笑う類。窓の外はいつの間にか真っ暗で、店の前を通りすぎる車のライトが類の切れ長の瞳に反射して、いつもよりも大人っぽく感じる……というか、色気がハンパない。

「な、なんだよっ……」

「べつに。なるほどな、と思って」

「なにが!?なにが、なるほど!?」

『お待たせしました。濃厚スウィートいちごパフェです』

またしても話が遮られた。このドキドキが何なのか、分かったら今すぐ教えてほしい。

「……とりあえず、返事書くから。パフェ食って待ってろ」

「あ、うん……」

類はジンジャーエールを一口飲んでポテトをつまむと、カチカチっとシャーペンの芯を出して、ノートに書き始めた。

贅沢にも、苺がふんだんに使われているこのパフェ。いつもなら、ウマイものは食べるたびに感想を言うのが俺だけど、今は類の邪魔にならないように、静かにすることにした。

「……できた。ほら」

「お、おう、サンキュー」

ノートのページが開いたまま、返答が返ってきた。何て書かれているのか緊張感が走る。

『そんなにうまそうに、ポテトやパフェ食べられるなら、少なくとも病気じゃないから安心しろ』

「…….よ……よかった……よかったなぁ、もう……」

安心して泣きそうになった。類が言うなら間違いないってそう思うから。

「……友、ここクリームついてる」

「えっ、どこ?」

「ここ……」

類の指先が俺の口元に触れて、クリームを拭っていく。その指をどうするのかと思いきや、類は自分の口元に近づけ、指についたクリームをペロッと舐めた。

「……これ、甘くてうまいな」

「……っ!」

あ……また!
ドキドキしてる!

胸をスリスリ撫でて落ち着かせようとしている俺を見て、何が楽しいか知らないけど。
まだまだ山盛りのポテトを前に頬杖をつく類は、何だか機嫌がよさそうに見えた。