イケメン幽霊に溺愛されてます

『陵君、本当に一緒に授業受けるんだ?』
 一限目の授業中、ノートに走り書きをすると、左隣の窓辺に立った陵があっさり頷く。
「当然。四六時中一緒にいるって約束だからな」
『そんな約束した覚えないんだけど』
 と書いても、陵は見て見ぬふりをして窓の方に目を向けている。
 俺はその横顔を見て、そっと溜息をつく。
 さっきのキスの影響か、胸の内がずっとざわざわしていた。
 またあんなキスをされてしまったら、何というか、すごく困る。
「何?」
 俺がちらちら見過ぎていたせいか、陵が気づいてこちらを見る。
「あっ、いや、えーっと」
「意識してるのか」
「ばっ、ちげーよ」
 大声を上げて立ち上がったせいか、クラス中で笑い声が上がった。
「佐竹、何がちげーんだ?」
「あ、いや、すんません。寝ぼけてました」
 陵まで笑っているのを見てムッとしつつ、ノートに殴り書きする。
『お前のせいで笑われた』
「動揺しすぎ。またキスしてやろうか」
 にやりと悪そうな笑みを浮かべていても、ムカつくくらいカッコいい。
 俺は顔が熱いのを誤魔化しながら何とか授業へと意識を戻す。
 陵は意外と頭がいいらしく、さりげなく教えてくれるうちに何とか授業を乗り切った。
 大きく伸びをしたところへ、司がこそこそと小声で声をかけてきた。
「なあ、やっぱりさっきのって近くにいるから叫んだんだろ?」
「えっ」
「そうなんだろ」
「えっと、まあ」
「やっぱりな」
 司はうんうんと頷くと、徐(おもむろ)にお守りを取り出した。
「何それ」
「近所の神社で買ったお守り。気休めかもしれないけど、持ってて」
「持っててって……」
 俺は受け取るかどうか迷った。
 迷う必要なんかどこにもないのに。
「いいから、ほら」
 逡巡するうちに、司が半ば強引に押し付けてくる。
 俺が受け取ると、司は満足そうに立ち去った。
「それ、どうするんだよ」
 陵は不快そうに顔をしかめている。
『何か感じるのか?』
 俺はさっきの教訓を受けて、スマートフォンで文字を打って見せる。
「いや、ちょっと嫌な気がするだけで特に何もないけど」
『そう。じゃあ持っておくか』
「持っとくのかよ?」
 陵を見上げると、悲しそうな目をしている。
 そんなに俺が近くにいるのが嫌なのかよ、という台詞が聞こえてきそうで、俺は思わず口端を持ち上げた。
「何だよその顔」
『ううん、じゃあ陵が何かしてきた時に使う』
「何かって?」
『き……言わせんなよ』
 文字を打ちながら視線を俯けた俺に、陵は笑う。
「まあ、そんなもので俺を止められるならな」
『え!?またするの』
 勢いよく顔を上げると、すごく悪そうな顔をした陵と目が合った。
『陵くん?』
 俺がムッとしながら文字を打てば、陵は楽しげに笑う。
「もー」
 唇を尖らせて陵に殴りかかろうとした、その時だった。
「なあ、あれ久住先輩じゃね。誰か探してんのかな」
 先輩?
 ドキリとして廊下の方を見ると、教室の出入り口に立つ隼人の姿が目に入った。
 そして、俺と目が合うと、隼人はにこりと笑う。
「えっ?俺ですか?」
 自分を指差せば、隼人は頷いた。
 周囲を見渡すと、みんな俺を見ている。
「そう、君だよ。ちょっと話があるからおいで」
 隼人に手招きされ、ドキドキと高鳴る鼓動を持て余しながら歩いていこうとすると、手首を掴まれた。
「行くな」
 切実な陵の声を耳にして、迷いが生じたけれど、振り切った。
「麗音君!」
 俺はもともと先輩が好きで、ずっとずっと好きで、陵のことは何とも思っていない。
 自分に言い聞かせながら隼人の元へと近寄った。
「何ですか?久住先輩」
 背後に陵の気配を感じながら問いかける。
「ああ、いや。その」
 隼人はなぜか忙しなく視線を泳がせている。
 俺は期待と不安を胸にじっと待つ。
 まさか。いや、まさかな。
 隼人は照れ臭そうに頬を掻いて、ようやく告げた。
「実は、相談があるんだけど」