イケメン幽霊に溺愛されてます

「おはよう」
 朝目を覚ますと、ドアップで好みの顔があり、条件反射で顔が熱くなるのを感じた。
「あれ、麗音君。顔赤くね?」
「気のせい!てか近い近い!」
 ずいっと唇が触れ合いそうな距離まで近づかれて、俺は慌てて陵の顔を押し退ける。
「何すんだよ麗音君。んな照れんなって」
「照れてない!てか、何で一緒に横に寝てるんだよ」
「寝たりはしないけど、一晩中見てた」
 何を、とは聞くまでもない。
 というか聞きたくない。
 俺は陵の顔を、顔だけは特に見ないようにして、学校に行く支度をする。
「へえ、麗音君の学校って早いんだ。部活でもやってんの?」
「別に。習慣になってるだけ」
「習慣?」
「学校にはついてくるなよ」
「何で」
「何でって、そりゃ……」
「独り言言ってるって思われたくないなら、スマホのメモ機能とか、ノートに書いてくれたら会話できる」
「あ、それもそう……って、だからついて来られるとこま……」
 陵が顔をずいっと俺の目の前に出したせいで、俺は続きを口にできなかった。
 ああ、駄目だ。
 この顔は見たら駄目だ。
「いいじゃん。言っただろ。四六時中一緒にいるって」
「だからそれは」
 陵の顔から目を逸らしながら言うと、陵はちゃっかり回り込んできて話そうとする。
 また俺が顔を逸らせば、必ず陵は目の前に来ようとして。
「だーっ!もう無理!お前の顔無理!」
「えっ、何それひどっそんなに俺の顔嫌いなわけ?」
「えっと、違くて。えっと、……」
 本気で落ち込んでしまう陵に慌てて弁解しようとするも、上手い言葉が浮かばない。
 素直に顔がタイプだと言えば調子に乗るのが目に見えている。
「あっ、てかそれどころじゃないから。そんじゃ」
 俺は陵を置いて部屋を飛び出す。
 陵は落ち込んでいたからか、追いかけてくる気配はなかった。
 そのことにほっとしながら、俺は半ば駆け足になって学校へ向かう。
 俺が急いでいる理由は一つしかない。
 本当は、こんなことさっさと辞めるべきだと分かっているけれど、すぐには割り切ることができない。
 陵を傷つけたくないから突き放したところもある。
「あいつ、泣きそうだもんな」
 それが容易に想像できてしまい、俺はまた胸の奥にもやもやした感情が浮かぶのを感じた。
「でも、それでも俺はやっぱり」
 学校に近づく毎に、朝練をしている野球部の掛け声が耳に届き始める。
「久住ー!打て!」
 俺はその声を耳にして、柵を掴みながら祈る。
 久住先輩、頑張って。
 バッターボックスに立った久住は、真剣に球を見据えてバットを振る。
 見事に球はフェンスを飛び越え、ホームランになった。
 チームメイトに飛びつかれながらも微笑を浮かべるだけではしゃいだりしない久住を見て、俺はさらに思った。
 ああ、やっぱり。
「へえ、これが習慣、ね」
 耳元で響いた声に驚いて飛び上がる。
「り、陵君!?」
「しっ、あの男も見てる」
「えっ」
 視線を正面に戻せば、仲間たちに囲まれながら俺の方を見る久住の姿が目に入った。
 垂れ気味のどこか色気のある目が、不思議そうに俺を見ている。
 他のチームメイトも俺を見ていたけれど、俺は他の人は全く目に入らなかった。
「見んなよ」
 横から響いた声に、何と言ったのか問い返そうとした時だった。
「俺を見ろよ」
 隼人を見ていたのを強引に振り向かせられたかと思うと、顎を掬い上げられ、止める間もなく唇を奪われた。
「んっ!?ん、んぅ……」
 逃れようとしても、許さないというように身動きが封じられ、口付けが長く、深くなっていく。
「んっ……ンっ……やっ」
 自分の声が、知らず鼻につくようなものになったのも、陵のキスが上手いからだ。
 突き放そうとする力も巧みなキスで奪い取り、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた時、野球部の練習終了の号令が響いた。
 そこでようやく唇を離してくれた陵だが、俺を抱いたまま校庭にいる隼人を睨むように見ている。
 俺はその強い目つきに、勝手に体が震えるのを止められなかった。
 恐怖ではなく、興奮に似たそれの意味を掴む前に、陵が俺から離れたことで分からなくなった。
「ごめん。抑えが効かなくなった」
 陵が呟くように謝るのに対して、俺は首を振るので精一杯だった。