「麗音、そのイケメンはどなた?」
帰って早々、母は目を輝かせて陵を見る。
実は母も俺のように触れられたりはしないが、視認することはできる。
故に、俺と同じく生きた人間と勘違いすることもあった。
一方で父は靄のように見えるくらいらしい。
「あ、えっと……」
「和泉陵です。将来麗音君と添い遂げたいと思っています」
「はあ!?ちょっ」
慌てて訂正をしようとしたのも空しく、母はころころ笑い、あらあら、まあまあまあなんて、満更でもなさそうに言ってる。
「それなら、陵君は将来うちの子になるのかしらねえ。お母さん、こんなカッコいい息子が持てるなんて幸せだわあ」
「ちょっ、お母さん!それはない……」
「どうした」
ちょうど父がドアを開けて帰宅した。
「あなた、あのね、麗音がね」
「お母さん!」
勝手に誤解したまま説明し出して慌ててると、父は眼鏡を押し上げて陵がいるところを見る。
「イケメン……ああ、そうか、なるほど」
妙に落ち着き払った様子で納得すると、父は部屋の中へ入っていく。
「あら、ちょっとお父さん!もう、ごめんねえ陵君」
「いえ、お構いなく」
父を追って母もいなくなったところで、陵は不思議そうに俺を見る。
「麗音君のご両親って、俺が見えるんだな」
「まあ、お父さんははっきりとは見えないらしいけど」
「何というか、慣れてるんだな。驚かれないから変な感じだ」
「誰かに見られたことあるんだ?」
「まあ。だいたい逃げられるか、数珠で祈られるか、塩かけられるかだな」
「……苦労、してるんだな」
という言葉も何か違う気がしたけど。
俺はここまで来たならと腹を括り、陵を自室へ案内することにした。
ベランダのある日当たりのいい部屋で、星空が好きなのもあり、カーテンやベッドは青系統で統一している。
「へえ、これが麗音君の部屋か……」
何やら感心したように陵は呟くと、ふと机の上に視線を滑らせた。
「あっ」
俺は慌てて隠そうとしたが、なぜかその場に縫い止められたように動けなくなった。
陵が机に近づく。
今さら見られて困るわけでもないのに、焦燥感が募った。
「これ、隠し撮り?」
陵はその写真を持ち上げ、じっと眺める。
俺は返事をすることもできずに、項垂れた。
その写真は、俺が失恋した相手、隼人が部活をしている様子をこっそり撮ったものだった。
「ふうん。これが麗音君の、ね」
不機嫌そうに陵が呟くと同時に、俺は体がぎりぎりと締め付けられているような感覚を抱いた。
これは。いろいろとまずい。
「りょ……」
名を呼ぼうとした途端、締め付けが緩くなり、陵が振り向く。
「怒ってるのか?だって言ったよな。俺は失恋したばかり……って」
陵は怒っているのではなく、切なげな顔をしていた。
なんでそんな悲しい顔するんだよ。軽い気持ちでナンパしたくせに。
俺まで胸が痛んでしまいながら、陵に手を伸ばす。
「陵」
陵は俺の手を取ると、ベッドの方へ押し倒してきた。
「ちょっ、陵何す……」
「抱き締めさせて」
「えっちょっ……」
言うが早いか、俺の返事も待たずに覆い被さるようにして抱き締めてきた。
「あっ……う……」
俺は嫌なはずなのに、日向の匂いを嗅いでしまうと無意識に力が抜けてしまう。
ドキドキと高鳴る鼓動は陵のものであるはずがないけれど、あっさり絆されてしまうのも嫌で、俺は何とか鎮めようとする。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、陵は俺の方へ顔を近づけてこようとして。
「あらあらあら、まあまあまあ!」
母が乱入してきたので慌てて陵を突き飛ばした。
「お母さん、ノックくらいしろよな」
母は返事をせず、陵の体が浮かび上がったのを見て、変ねえと首を傾げる。
「どうしたの」
「ううんと、私もよく分からないけど、陵君は生者の匂いが強いのよね。最近亡くなったとかかしら」
「最近……かどうかは分かりません。覚えていたのは、自分の名前と年齢とか基本的なことと、麗音君のことだけなので」
「あらあら、まあまあ!素敵ね。よくドラマでもあるわね、記憶喪失だけれど特に強い感情を持った相手のことは覚えてるって。私ああいうの好きなのよねえ」
俺は母の言葉で、ますます気恥ずかしさが込み上げたけれど、あれ、とふと思う。
俺のことを覚えていた?ということは、初対面じゃ、ない?
訊きたいけれど、訊いてどうするというのだろう。
相手は死者だ。知ることで、未練をなくす手助けになるだろうか。
未練がなくなったら、陵は。
俺ははしゃいでいる母と、苦笑いを浮かべている陵を見ながら、複雑な感情を持て余していた。
帰って早々、母は目を輝かせて陵を見る。
実は母も俺のように触れられたりはしないが、視認することはできる。
故に、俺と同じく生きた人間と勘違いすることもあった。
一方で父は靄のように見えるくらいらしい。
「あ、えっと……」
「和泉陵です。将来麗音君と添い遂げたいと思っています」
「はあ!?ちょっ」
慌てて訂正をしようとしたのも空しく、母はころころ笑い、あらあら、まあまあまあなんて、満更でもなさそうに言ってる。
「それなら、陵君は将来うちの子になるのかしらねえ。お母さん、こんなカッコいい息子が持てるなんて幸せだわあ」
「ちょっ、お母さん!それはない……」
「どうした」
ちょうど父がドアを開けて帰宅した。
「あなた、あのね、麗音がね」
「お母さん!」
勝手に誤解したまま説明し出して慌ててると、父は眼鏡を押し上げて陵がいるところを見る。
「イケメン……ああ、そうか、なるほど」
妙に落ち着き払った様子で納得すると、父は部屋の中へ入っていく。
「あら、ちょっとお父さん!もう、ごめんねえ陵君」
「いえ、お構いなく」
父を追って母もいなくなったところで、陵は不思議そうに俺を見る。
「麗音君のご両親って、俺が見えるんだな」
「まあ、お父さんははっきりとは見えないらしいけど」
「何というか、慣れてるんだな。驚かれないから変な感じだ」
「誰かに見られたことあるんだ?」
「まあ。だいたい逃げられるか、数珠で祈られるか、塩かけられるかだな」
「……苦労、してるんだな」
という言葉も何か違う気がしたけど。
俺はここまで来たならと腹を括り、陵を自室へ案内することにした。
ベランダのある日当たりのいい部屋で、星空が好きなのもあり、カーテンやベッドは青系統で統一している。
「へえ、これが麗音君の部屋か……」
何やら感心したように陵は呟くと、ふと机の上に視線を滑らせた。
「あっ」
俺は慌てて隠そうとしたが、なぜかその場に縫い止められたように動けなくなった。
陵が机に近づく。
今さら見られて困るわけでもないのに、焦燥感が募った。
「これ、隠し撮り?」
陵はその写真を持ち上げ、じっと眺める。
俺は返事をすることもできずに、項垂れた。
その写真は、俺が失恋した相手、隼人が部活をしている様子をこっそり撮ったものだった。
「ふうん。これが麗音君の、ね」
不機嫌そうに陵が呟くと同時に、俺は体がぎりぎりと締め付けられているような感覚を抱いた。
これは。いろいろとまずい。
「りょ……」
名を呼ぼうとした途端、締め付けが緩くなり、陵が振り向く。
「怒ってるのか?だって言ったよな。俺は失恋したばかり……って」
陵は怒っているのではなく、切なげな顔をしていた。
なんでそんな悲しい顔するんだよ。軽い気持ちでナンパしたくせに。
俺まで胸が痛んでしまいながら、陵に手を伸ばす。
「陵」
陵は俺の手を取ると、ベッドの方へ押し倒してきた。
「ちょっ、陵何す……」
「抱き締めさせて」
「えっちょっ……」
言うが早いか、俺の返事も待たずに覆い被さるようにして抱き締めてきた。
「あっ……う……」
俺は嫌なはずなのに、日向の匂いを嗅いでしまうと無意識に力が抜けてしまう。
ドキドキと高鳴る鼓動は陵のものであるはずがないけれど、あっさり絆されてしまうのも嫌で、俺は何とか鎮めようとする。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、陵は俺の方へ顔を近づけてこようとして。
「あらあらあら、まあまあまあ!」
母が乱入してきたので慌てて陵を突き飛ばした。
「お母さん、ノックくらいしろよな」
母は返事をせず、陵の体が浮かび上がったのを見て、変ねえと首を傾げる。
「どうしたの」
「ううんと、私もよく分からないけど、陵君は生者の匂いが強いのよね。最近亡くなったとかかしら」
「最近……かどうかは分かりません。覚えていたのは、自分の名前と年齢とか基本的なことと、麗音君のことだけなので」
「あらあら、まあまあ!素敵ね。よくドラマでもあるわね、記憶喪失だけれど特に強い感情を持った相手のことは覚えてるって。私ああいうの好きなのよねえ」
俺は母の言葉で、ますます気恥ずかしさが込み上げたけれど、あれ、とふと思う。
俺のことを覚えていた?ということは、初対面じゃ、ない?
訊きたいけれど、訊いてどうするというのだろう。
相手は死者だ。知ることで、未練をなくす手助けになるだろうか。
未練がなくなったら、陵は。
俺ははしゃいでいる母と、苦笑いを浮かべている陵を見ながら、複雑な感情を持て余していた。



