イケメン幽霊に溺愛されてます

「あれ?そこにいるの麗音?何してるんだよ」
 土砂降りが僅かに弱まった中で、友人の七瀬(ななせ)(つかさ)が近づいてくる。
「あ。これは。その、えーっと……」
 まさかナンパされてましたとは言えない。
 というかそもそも、男同士のあれこれを知らない人種だ。
 俺がどう答えたものかと視線をうろつかせていると、陵が奇妙な行動に出た。
 なぜか司の目の前に行き、手のひらをひらひらと顔の前に振ったのだ。
「ちょっ、お前何してんだよ」
 俺が慌てて止めようとした途端、司は眉を(ひそ)めた。
「何してるって、何が?」
「え?だってほら、ここにイケメンがいるだろ」
 俺は陵を指差して言う。
 思わず条件反射でイケメンが、と言ったせいで、陵はどこか得意げな顔をしていた。
 しまった。これは後でしつこく突っ込まれるぞ。
 と思って焦る俺をよそに、司は思わぬことを言った。
「イケメン?どこに?てか何?俺のことそう思ってんの?」
 司が可笑しそうに笑う。
「え?いや違う違う、ほら、ここ」
 陵の方を指差すと、司は首を捻った後に言った。
「あ。まーた始まった。どうせ、また見えてるんだろ」
「え?あれ?」
 含んだような笑みを浮かべる司を見て、俺はようやくその可能性に思い当たった。
 実は俺は、昔からかなり霊感が強く、生きている人間と同じくらいはっきり見える。
 そのせいか幽霊と普通に会話をすることがよくあり、司にはその場面をよく目撃されてきた。
「どうせまた、何か成仏する手助けでもするんだろ?あんまやりすぎるなよ。お前のおばあちゃん、それやりすぎて亡くなってしまったんだから」
「それは……そう、だけど」
 司の言う通り、俺の祖母は生きていた頃かなり凄腕の霊媒師だったが、依頼が来すぎて無理をして亡くなってしまった。
 生きていた頃、よく言っていた。
 ――お前は将来、私よりも強い霊感を持つようになるから、どうか気をつけるんだよ、と。
「まあとにかく、何か手伝えることがあったら言って。じゃ」
「うん、ありがと」
 少ししんみりしながら司に手を振った横で、陵は声を上げた。
「え?俺、成仏させられるわけ?」
「えっと、はい。それが一番いいですよね」
「いやいや、嫌だけど」
「嫌と言われましても」
「少なくとも、未練たらたらで行けねえよ」
「じゃあ、未練は何ですか」
 何となく予想しながら見やると、はっきり言い切られた。
「麗音君と一生添い遂げなければ死ねない」
「もう死んでるんですから」
「じゃあ、麗音君と一生添い遂げなければあの世に行けない」
「そもそも一生って、生きているからこそ使える言葉ですよ」
「それは麗音君がって意味。あ、俺が麗音君をあっちに連れて行けば……」
「怖い怖い怖い」
 俺が耳を塞ぎながら歩き始めると、当然のように陵はついて来る。
「何でついて来るんですか」
「だから、さっき言ったよな。四六時中傍にいるって」
「それは……和泉、さんが勝手に」
「陵」
「和泉さん」
「陵」
「和泉さん」
「陵」
「陵……さん」
 負けた。満面の笑みを向けられると弱い。
「というか、麗音君って何年生?」
「高校1年です」
「へえ」
「何ですか、にんまりして」
「いや、俺と一緒だなと。だから敬語使わなくていいからな」
「あ……そうなんだ。というか、陵……君は、それ制服?見ないデザインだね」
 ネイビーのブレザーにチェック柄のスラックス。
 俺の学生服がかなりダサく見えるくらいカッコいいデザインだ。
 イケメンだからより映えるのかもしれないけど。
「ああ、これ?まあ、ここからは遠いからな」
「あ。制服が気に入ってちょっと遠い学校選んだやつだ」
「そうそう」
 かなり和やかなやり取りを普通に交わしている中、駅が見えて来たところではたと我に返る。
 何和んでるんだよ、俺。
 このままでは一緒に帰ってしまうじゃないか。
「俺帰るから、そろそろ……」
「うん」
 早足で改札を通ろうとすると、当然のように陵はついて来る。
 幽霊だから何も払わなくても普通に改札を通れてしまう。
「………」
「………」
 早足で、最早半ば駆け足になりながら電車が来るホームに向かう最中も、陵はついて来る。
「………」
「……あのさ、ついて来るのやめてくんない?」
「何で」
「何でってそりゃ、俺は帰るから」
「だから俺も一緒に」
「いや、だからそれは困るって!」
 叫んだ途端、周囲の視線が集まった。
「見て、あの人、一人で何か言ってる」
「やばあい、行こ」
 やばい、俺変な人と思われる。
 ボリュームを下げてこそこそ喋っても変な目で見られそうだ。
「麗音君、イヤホン持ってる?」
「え?」
「つけて話せばいいよ」
「あ。そうか。その手があったか」
 なんて素直に納得してイヤホンをつけた後に、また我に返る。
「いやだから、もうどこかいっ……うわっ」
「麗音君!」
 俺は到着した電車に乗り込む人の波に押し流されるかたちで、電車の中に入って行くのだが、バランスを崩して倒れそうになった。
 そこを陵の透明な手が掴み、引き寄せられる。
 ふわっと鼻についた日向のような匂いに、いい匂い、てか幽霊って匂いすんの。
 とか疑問に思いながらも思わずうっとりしてしまううちに、電車の中に陵とともに乗り込んでしまっていた。