イケメン幽霊に溺愛されてます

「で」
「で?」
「俺、いつまでこうしていればいいんですか」
「だから、麗音君がYESと言うまで」
 シャッターを背に壁ドンされたまま、俺は陵の好みど真ん中の顔から何とか逃れようと視線をあちこち彷徨わせる。
 こんなことをしている場合じゃないのに。
 俺はそもそも、数分前まで。
 衝撃がありすぎて忘れていたことを思い出した。
「YES、とは言えません」
「なんで」
「だって俺、さっき失恋したばかりなんですよ」
 そう、俺は失恋したてなのだ。
 放課後、学校から帰宅途中で、憧れの先輩である久住(くすみ)隼人(はやと)が、美人で人気のある香椎(かしい)(ゆい)と相合傘をしながら歩いて帰っているのを目撃し、泣いて帰っていたところだった。
「知ってる」
「え?」
 一瞬、意外な台詞が聞こえた気がした。
「あ、いや、麗音君が泣いていたのは知ってる」
 陵は慌てて言い直している。
 少し違和感を抱いたけれど、なんだ、そんなことかと思う。
「そういうことなんで、俺はあなたの顔が……」
 顔がタイプだけど付き合えません、と言いかけて、それは言う必要ないと思った。
「顔が?」
「そこ、突っ込まないでください」
「無理。顔が何?」
 駄目だこの人。イケメンだけどしつこいのが玉に(きず)
 と思って頭を抱えた俺の腕を掴み、陵は視線を泳がせながら言った。
「だって、しょうがないだろ。好きな人の言った言葉は、何でも気になる」
 顔を赤らめながら言われて、不覚にも俺はときめきそうになり、首を振る。
 いや、いやいやいや。
 駄目だろ。
 失恋したてでこんな簡単に絆されては。
 何しろさっき出会ったばかりだ。
「好きって言っても、さっき会ったばかりですよね。出会い頭に口説かれても、軽く聞こえます」
 きっぱりと言って掴まれた腕を解くと、陵は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「じゃあ、俺はこれで」
 背を向けて立ち去ろうとした時だった。
「待てよ!」
 そのまま立ち去ってもよかったけれど、思わず足を止めたのは、切実な響きがあったからだ。
 振り返ると、陵は真剣な顔で言い放った。
「じゃあさ、これからもっと知っていけばいいだろ。俺、お前と四六時中一緒にいる」
「………は?」
 わけが分からない。足を止めた俺が馬鹿だった。
 そう思いつつも、心のどこかでは俺もこの出会いが運命だと思いかけていて、どう返そうか悩んだ時に、声が響いた。