イケメン幽霊に溺愛されてます

 最悪だ。
 俺はその二人の後ろ姿を見た時、この土砂降りで傘を忘れたことなど忘れるくらい、どん底に突き落とされた。
 目の前でガラスが砕け散るぐらい叫び出したい衝動に駆られて、強く唇を噛んで堪える。
 血の味が口の中に広がるのを感じて、呟く。
「帰ろう」
 俺は雨の中、濡れるのも構わずに歩き始める。
 どんどん遠ざかっていく二人は、一つの傘だからというのもあるけれど、とても仲睦まじく肩を寄せ合っていた。
 先輩、先輩、久住先輩。
 俺は。
 ずっと、あなたのことが。
 その続きを口にすることはもう叶わない。
 俺は胸の中に渦巻く激流に飲まれるままに、涙を一つ、二つ、この雨に負けないくらいに激しく流し始めた。
 そんな中、唐突に声をかけられた。
「君、泣き顔可愛いね。俺と付き合わない?」
「へ?」
 何もこんな最悪の状況でわざわざ声を張り上げてまで言わなくてもいいのに。
 とは思うものの、俺の涙を止めるには十分だった。
 すらりと均整の取れた長身。
 やや切れ上がり気味のくっきりとした二重。
 薄く、形のいい唇に輝くような笑み。
 水も滴る何とやらで、濡れそぼった僅かに明るい茶髪さえも綺麗に見える。
「えっ、王子?」
 思わずそう呟いてしまうほど、その男の外見は俺のタイプど真ん中だった。
「えっ、何か言った?」
 イケメンが叫びながら近づいてくる。
 雨で聞こえなくてよかった。
「なっ、何でもないどすえ」
 俺は動揺のあまりなぜか出身でもない京都弁まがいの語尾になりながら、じりじりと後退りする。
 けれどイケメンはどんどん迫って来て、商店街のシャッターに両手をついて俺を囲い込んだ。
「俺、和泉(いずみ)(りょう)。君、名前は?」
「さ、佐竹(さたけ)麗音(れおん)です」
 顔面の破壊力に押し負けて正直に答えてしまった。
「麗音か」
 陵は満足気に頷いた後、とんでもない爆弾を投下した。
「付き合うって言うまで逃がさないよ」
「んな横暴なっ!!」
 俺の絶叫は雨音に負けないくらい響き渡った。