生徒達の足音とガヤガヤとうるさい教室を静かに出て、階段を降り渡り廊下を歩く。毎日行き来するルートにも慣れ、人に見られる事もせず自動販売機でお茶を買ってから、旧部室棟の出入り口の扉を開ける。
高校1年生になって早3ヶ月ちょっとが経ち、すっかり学校生活にも慣れた俺小野雪羽には学校での毎日行うルーティンがある。
ヒソヒソと誰かに見られない様に入る姿は側から見たら怪しいだろうが関係ない。
見られなければオールOKだからだ、本当に、マジで。
旧部活棟の木造建築の一角で使われてない部室の1つ。他の部室とは違い埃や汚れのない部屋に、古びた廊下とキィキィとなる床、まばらに点灯する蛍光灯、静かな廊下を俺は歩く。
「相変わらず不気味、だな」
俺はそんな事を呟きながら廊下を歩く。その片手にお弁当入れを持ち、目的地である2階角の電気の付いた部屋のドアを引く。
ガラッと開けると、窓を開け外を見つめていた人物が俺の方に顔を向けた。
その人物は、俺がこの、旧部活棟に来るルーティンを作った人物だ。
整った顔立ちと白い肌に切長の目に綺麗な鼻筋、少し長めでハーフアップにした黒髪を持ち、少しだらしない感じで制服を着こなして、キラキラとした輝きを放ち、飴を舐めてる男性に俺は部屋に入った第一声は、
「先輩、お昼ご飯前に飴舐めるのダメって前に言いましたよね!?」
「だって、雪羽が遅いからじゃん」
「言い訳ダメです!、あと、遅くなったのはごめんなさい」
「素直に謝られるのは、俺も謝らざる負えないじゃん、ユッキーの鬼」
「ユッキー辞めてください、春夜先輩」
ハァと、俺はため息が思わず出てしまう。埃1つない綺麗なソファに座る先輩の隣に座って、これまた綺麗なテーブルにお弁当入れを置く。その隣には色違いのお弁当入れが置かれている。
そしてこの一見チャラ男感強めの男性は、俺の1学年上の先輩で高校2年生である大原春夜先輩と言う男だ。
見た目通りのザ!イケメンで、正統派とはちょっと違うチャ感ある感じのイケメンで、学校でも憧れの存在で有名だ。
所謂、学園の王子様、みたいな感じだ。
まぁ、チャラ男だから、王子って感じはしないが。
それでも、友達の居ない俺からしたら、雲の上の存在で、俺は庶民で先輩は王子、だな、って思った事が何回もある。
「先輩、今日のお弁当は先輩のリクエストの、鶏マヨ作りましたよ」
「!マジ?ヤッタ、俺は、今日はオムライスを作った。前に雪が教えてくれたバターライス、にしてみた」
先輩の方に俺が持って来たお弁当入れを渡し、先輩が持って来たお弁当入れを俺が受け取る。
俺と先輩の関係を一言で表すのであれば、お弁当交換同盟、だろうか。
見た目も性格も地味で唯一の目立つポイントって言えば、少し長い髪ぐらいな俺と学園の憧れの存在である先輩が何でそんな関係なんだって思う人は多分沢山いる。
俺だって、は???って思うし、しょうがない。
最初は、お弁当を交換する、事って関係ではなかった。
「いただきます。パクっ、、、、!、先輩、美味しいです!と言うか、上手になってる」
「そりゃあ、雪に教えて貰ったからな。雪羽の鶏マヨもマジ美味しい。エビがアレルギーで食べれない俺の為に、作ってくれてるから愛情を感じる」
「、、、、先輩って何でそんな恥ずかしげもなく言えるんですか」
「恥ずかしいと思ってないから。鶏マヨ食べてると、最初に雪羽に分けて貰ったお弁当思い出す」
「俺もです。まぁ、その時は雨降ってましたけどね」
「そうだったな」
俺が先輩とこんな関係?になる最初の時、俺はその時1人外でお弁当を食べながらボッチ飯をしてた。
友達も碌に出来なくて、寂しいなぁ、って思ってたんだ。まぁ、陽キャ達とのノリとか、人との接し方とか上手く出来ない俺の悪い所も発揮してたせいでもあるけど。
だけど、そんな生活が一変したのは、5月下旬に入って凄い雨が降って食べる所探して、誰も入る事のない部活棟に入ったんだ。
『誰も、居ないから大丈夫だよね?』
普段から誰も使わないからと安心し切って、思い切って2階の今俺と先輩が居る部屋に入った。
だが、扉を開けた時微かに何かが動く音がして、虫か!?ってその時はビクビクしながら開けた部屋の先を見たよね。
そん時は、先輩がソファに寝っ転がってて、テーブルには大量の菓子パンが置かれてたのを良く覚えてる。だって、惣菜パンじゃなくて全部菓子パンだったから。
少し眩暈がした。
先輩は部屋に入って唖然としている俺に顔を上げて見つめて、一言。
『何?』
って、ちょっと冷たい声だったけど、俺はそんな事気にせずに俺の第一声は今日見たく大きな声で、
『何この、菓子パンの量!!?!?』
菓子パンの量に俺は驚きを隠せてなかった。
いや、しょうがない。うん、あの時はしょうがないとしか言えん。
カロリーの高そうで甘々っそうな菓子パンだからけテーブルに近づく。春夜先輩なんて少しも視線を向けずにね。
先輩はそんな俺の様子を見て、さっきの冷たい雰囲気とは一変して、何だコイツ見たいな視線を向けてた様な、向けてなかった様な。
あの時はごめんね、春夜先輩。悪気はないんだ。
『!、ハァ?(体を起こす)』
『メロンパンにアンパン?クリームパン?!チョココロネに丸ごとバナナ!!?!?アンタ、アホ!!?』
『、、、、何?お前、急に罵って来て』
『は?え、、、、ぁ、(自分の言動を思い出す)、ヤバっ』
菓子パンを手に取って驚きと呆れで思わず俺は、アホって言ってしまって、先輩の冷静な発言を聞いて、ハッとしたし、顔が青くなったと思う。
相手が誰かはすぐに分かってたし、もし、誰かにバラされたら俺の平穏な学園生活は終わるってこの時は本気で思ってた。
そして一気に冷や汗ダラダラ。自分の言った事とか行動とかを思い出して、ヤバいと思ってその部屋から出ようと、走り去ろうと決意して、先輩に背を向けて逃げようとした。
だって、捕まったら死ぬ。
学園の憧れの存在に、アホって言ったのを学校中にバレたら俺死ぬ。
そう思うのが当然じゃん?
だけど、そんな俺をこの時の先輩は無情にも引き留めた。
『待てよ』
『はい!待ちます!』
先輩の言葉通りのその場に立ち止まった。思わず、握りしめてる弁当入れの力が強くなるし。
だけど俺の予想とは反して、春夜先輩は怒っている感じはしてなかった。それに、その反対で笑いながら俺の事を見て居た。
俺、怪しんじゃうし、身を守る体制になっちゃうじゃん。
『素直だな、おい笑、、、、その手に持ってんのって、弁当?』
『え?、ぁ、はい。そうですけど』
『ふーん、ちょっとくれよ』
『え?、俺が菓子パン食べんの信じられないんだろ。だったら、少しは頂戴』
『!』
先輩の発言にこの時の俺は断れる訳もなく、俺はお弁当を半分提供した。
その代わり、春夜先輩の菓子パンを半分貰った。
俺がその時作ってた鶏マヨを食べて、先輩は目を輝かせながら食べてた。
パクパク食べて、頬を膨らませて笑みを浮かべたてちょっと意外だなって、その時は思った。
口を空にしてから、お茶を飲んで俺の方を見たと思ったら先輩は笑顔で、言い放った。
『美味い!超美味かった!』
『!!』
その言葉だけで俺はブワッと嬉しくなった。
自分で食べる為だけに作ったお弁当を美味しそうに食べて、それで美味かった、って感想を貰ってこんなにも嬉しいんだって、この時俺は初めて気づいた。
心臓がギュッてなって、幸せを感じたんだ。自己紹介をして、菓子パンを食べながら、俺は言いたい事を言う事にした。久しぶりの菓子パンは美味しかった、けどこの甘さを殆ど毎日食べてるってなったら、不健康まっしぐら、だよねぇ。
言わないとこの人には伝わらない気がしたから。
『先輩、菓子パンなんて食べて、健康に悪いですよ』
『悪いって言っても、俺料理作れねーし、一人暮らしだし』
『え!、それだったら夜ご飯はどうしてるんですか?!』
『コンビニ弁当とか、カップラーメン?』
『更に不健康になる一方!!食生活どうにかして下さいよ』
『そんなに言うんだったら雪羽、雪羽が俺にお弁当作ってくれよ』
『え?』
『決めた。明日から雪羽は俺のお弁当も作る事』
『え?』
こうして、俺は春夜先輩にお弁当を作る事になった。
まぁ半分強引だっけど、俺も俺で美味しそうに食べてくれる春夜先輩の顔が見たくて、受け入れしまった部分あるから、何も言えない。
それでお弁当を交換する関係になったのは、簡単に説明すれば、
『俺も雪羽に倣って料理初めて見た。だから、お弁当交換して、味の感想聞かせて欲しい』
『え?、ぁ、はい』
ってな感じで、始まった。
因みに、俺は両親共働きな上、兄姉3人どっちも小学生の時に結婚して家を出ているので、小さい頃から料理やって来たから、料理出来るだけだ。
家の事は基本的に俺任せだし生活費も俺に手渡されてるし、家計簿俺がつけてるから、この前等々欲しかったオーブントースターと冷蔵庫を買っちゃった。
怒られなかった。と言うか、怒られる訳がない。
怒った場合、家計簿管理しているのは誰だ?、って言えば黙る。
「先輩がこうやって料理頑張ってくれて俺嬉しいです」
「そう?、と言うか、俺が料理に興味持ったの雪羽のおかげだし」
「え?俺のおかげ?」
先輩の発言に俺思わず箸落としそうになっちゃった!
ヤダ、辞めてよ。照れちゃうでしょ!
って言う冗談は置いておこう。
でも正直、俺のおかげって言うのが普通に気になるのは確か。
俺は頭を傾げながら、問う。
「俺さ、母さんは病気で死んで、親父は再婚して、まぁ思春期真っ盛りの俺は気を遣って一人暮らししてて、料理出来ないから、コンビニ弁当とかカップ麺に頼ってて、料理に興味とかなかった。食べれたら何でも良いって思ってたんだ」
「だけど、、、、あの日、雪羽にアホって言われて、雪羽のお弁当を分けて貰ってさ、久しぶりに誰かが作った料理食べて心が温かくなった。それと同時に思い出した。あぁ、手作りの料理は美味しいんだって事に」
「!」
「だから、こうやって俺が料理作り始めて上達したのは、ぜーんぶ、雪羽のおかげって訳」
「、、、、」
「?、、、、雪羽?どうした?気分悪いか?」
「いえ、そう言う訳では、、、、ちょっと手洗って来ます」
「、そうかよ。って、今更?」
春夜先輩の発言に俺、思わず部屋から飛び出してしまった。
廊下の壁に背を付けて、ズルズルズルって、その場に座り込んじゃった。
顔を下に向けている俺の顔は、多分真っ赤っかでニヤけて居ると思うんだ。
あんな真剣で、初めての事ばかりの話を聞かされて平然と出来る人間は居ない。
それに、あんな優しい顔で、俺のおかげ、なんて言われてニヤけない奴が居ない。
それに、それに、俺は、俺は、、、、
「春夜先輩、ズル過ぎるよ、、、、!、、、、好きって気持ちが隠せないじゃん」
そう、俺は春夜先輩、大原春夜が好きなのだ。大好きなのだ。
恋愛感情として、1人の男として好きなのだ。
この想いは誰にも言わない。それは本人でもある春夜先輩にだって言わないって決めた。男である俺にこんな感情向けられるなんて普通に気持ち悪いだろうし。それに俺も初めて男の人を好きになったのは春夜先輩なんだ。ゲイとかバイとかは分かんない。でも好きなのは春夜先輩なんだ。
なのに、なのに、あの男は、
「俺を殺しにかかってるとしか思えない!!」
距離感近過ぎだし、何なの!?マジ、何なの!!?!?
俺だから良かったものの、俺じゃなかったら勘違いするっての!!
まぁ、あの人俺の事ただの後輩兼同盟としか思ってないから良かったけど!!!!!!
こっちの純情な気持ちを破壊する気かこのヤロ〜!!!!!!
何て、屋上で叫びたい気持ちを心の屋上で叫び終えたら、先輩の元に戻る。
ぁ、因みに先輩に対して不純な気持ちとか一切ないから、純粋に好きだから。
それに、あの人とのこの関係が壊れるような事は絶対したくないし。
部屋に戻ると、お弁当を食べ終えたのか片付けている先輩。
「どうでしたか、今日のお弁当」
「んっ、美味しかった。雪羽の料理は何でも美味しい」
「それはどうも。明日は何が良いとかありますか?」
「それなら、、、、コロッケ」
「コロッケ、良いですよ。なら、帰りにジャガイモ買っておかないと。楽しみにして下さいね」
「あぁ。雪羽とのこの時間が俺の毎日の楽しみだ」
「!、俺も、俺も先輩との、毎日のこの時間は楽しみです」
「そうか。それは嬉しい、(雪羽の頭を撫でる)」
ソファに座って、俺もお弁当を食べようかな、って思いながら先輩と会話をする。
先輩の言葉に感無量と嬉しさを覚えながら、一口食べていると、急に頭を撫でられてギョッとしてしまって体が硬直しちゃう。
そんな俺の事は気づいてないのか、お構いなしに撫で続ける春夜先輩の表情は優しさに溢れている。
だけど、俺は俺で気が気じゃなくて、心臓バックバク。
やっぱりこの男は俺を殺す気なんじゃないかって思って来た。マジ。
とりあえず、精神統一しよう。そうしよう。
「ぁ、帰り俺が送ろうか?1人でちゃんと教室行けるか?」
「結構です!と言うか、俺そんな事出来ないように見えますかね」
「何かあったら嫌なんだ。大事な大事な存在だからな」
「!、、、、ただの教室に戻るだけで心配してたら、早死にしますよ」
「そんな事はしない、、、、多分」
「笑、多分って自信なさげ」
あぁ、ほーんと、この人には敵わないなぁ。
だけど、だけど、そう言うところが好きなんだ。だからこそ、この関係を壊せば、この人から離れないといけないって事になる。
俺はそんな覚悟が出来ない。それぐらい、この人の事が好きになっちゃったからだ。
春夜先輩からしたらなんて事ない発言かもしれない。でも、俺からしたら、宝物と同等に大切で、苦しいんだ。
あぁ、、、、情けないなぁ。本当に俺は、、、
