■第一階層
薄暗い通路が、奥へ奥へと静かに続いている。
壁面には湿った苔が広がり、古びた石材の隙間から冷気が滲み出していた。
靴底が床を踏むたび、わずかな水音が返ってくる。
苔の匂い。
湿った土の気配。
遠くで水滴が落ちる音が、一定の間隔で静寂を刻んでいる。
(視界は悪いが、奇襲には向かない地形だな)
耳を澄ます。
呼吸を浅く整える。
前世で培った感覚が、空間のわずかな異変を拾い上げる。
影が揺れた。
次の瞬間――
岩陰から飛び出す小柄な影。
ゴブリン。
黄色く濁った目。
粘つく唾液を垂らした口。
手には錆びた短剣。
低く喉を鳴らしながら、一直線に突進してくる。
俺は一歩も退かず、指先を向けた。
「ファイアボール」
掌の前に生まれた火球が空気を震わせる。
直後、放たれた炎が一直線にゴブリンへと飛翔した。
直撃。
爆ぜる炎。
熱波が周囲の苔を揺らす。
……が。
炎が晴れた先で、ゴブリンは膝をつきながらも立ち上がった。
皮膚は焼け焦げ、煙を上げている。
だが致命傷には至っていない。
(やはり威力が低い)
前世なら、この程度の個体は跡形も残らない。
ゴブリンが叫び声を上げ、再び突進してくる。
(ならば)
足運び。
半歩引き、踏み込み角度を変える。
刃の軌道を読ませない位置取り。
死角へ回る。
ゴブリンが振り向くより早く――
短剣が閃く。
首筋を断つ。
刃が骨の隙間を滑り抜け、頸動脈を断ち切った。
ゴブリンの動きが止まる。
次の瞬間、
その体は崩れ落ち、黒い霧となって空気へ溶けていった。
静寂が戻る。
(魔法だけに頼る必要はない)
俺は短剣の血を払う仕草をしながら、周囲を見渡した。
気配が、まだある。
通路の奥、柱の影、天井近くの暗がり。
一体、また一体。
合計三体のゴブリンが現れる。
包囲の形。
(連携はない。だが数で押すつもりか)
俺は呼吸を整え、間合いを測る。
最初の一体が飛び込む。
火球を最小出力で放つ。
視界妨害。
炎に怯んだ隙に踏み込み、膝裏を切断。
二体目が横から突く。
刃を弾き、体勢を崩させ、喉元へ一撃。
三体目は逃げ腰になり後退する。
俺は追わない。
距離を保ったまま火球を放つ。
命中。
炎に包まれ、魔物は霧となって消滅した。
魔物を倒しレベルが上がったようだ。
再び静寂。
滴る水音だけが戻ってくる。
俺は小さく息を吐いた。
(反応速度、問題なし)
手を軽く握り、開く。
筋肉の動き、呼吸の乱れ、魔力消費量。
すべてを確認する。
前世の経験と、現在の身体能力。
その差を埋めるための戦闘。
(基礎確認としては十分だ)
視線を奥へ向ける。
暗闇は、まだ続いている。
俺は静かに一歩を踏み出し階段を下る。
薄暗い通路が、奥へ奥へと静かに続いている。
壁面には湿った苔が広がり、古びた石材の隙間から冷気が滲み出していた。
靴底が床を踏むたび、わずかな水音が返ってくる。
苔の匂い。
湿った土の気配。
遠くで水滴が落ちる音が、一定の間隔で静寂を刻んでいる。
(視界は悪いが、奇襲には向かない地形だな)
耳を澄ます。
呼吸を浅く整える。
前世で培った感覚が、空間のわずかな異変を拾い上げる。
影が揺れた。
次の瞬間――
岩陰から飛び出す小柄な影。
ゴブリン。
黄色く濁った目。
粘つく唾液を垂らした口。
手には錆びた短剣。
低く喉を鳴らしながら、一直線に突進してくる。
俺は一歩も退かず、指先を向けた。
「ファイアボール」
掌の前に生まれた火球が空気を震わせる。
直後、放たれた炎が一直線にゴブリンへと飛翔した。
直撃。
爆ぜる炎。
熱波が周囲の苔を揺らす。
……が。
炎が晴れた先で、ゴブリンは膝をつきながらも立ち上がった。
皮膚は焼け焦げ、煙を上げている。
だが致命傷には至っていない。
(やはり威力が低い)
前世なら、この程度の個体は跡形も残らない。
ゴブリンが叫び声を上げ、再び突進してくる。
(ならば)
足運び。
半歩引き、踏み込み角度を変える。
刃の軌道を読ませない位置取り。
死角へ回る。
ゴブリンが振り向くより早く――
短剣が閃く。
首筋を断つ。
刃が骨の隙間を滑り抜け、頸動脈を断ち切った。
ゴブリンの動きが止まる。
次の瞬間、
その体は崩れ落ち、黒い霧となって空気へ溶けていった。
静寂が戻る。
(魔法だけに頼る必要はない)
俺は短剣の血を払う仕草をしながら、周囲を見渡した。
気配が、まだある。
通路の奥、柱の影、天井近くの暗がり。
一体、また一体。
合計三体のゴブリンが現れる。
包囲の形。
(連携はない。だが数で押すつもりか)
俺は呼吸を整え、間合いを測る。
最初の一体が飛び込む。
火球を最小出力で放つ。
視界妨害。
炎に怯んだ隙に踏み込み、膝裏を切断。
二体目が横から突く。
刃を弾き、体勢を崩させ、喉元へ一撃。
三体目は逃げ腰になり後退する。
俺は追わない。
距離を保ったまま火球を放つ。
命中。
炎に包まれ、魔物は霧となって消滅した。
魔物を倒しレベルが上がったようだ。
再び静寂。
滴る水音だけが戻ってくる。
俺は小さく息を吐いた。
(反応速度、問題なし)
手を軽く握り、開く。
筋肉の動き、呼吸の乱れ、魔力消費量。
すべてを確認する。
前世の経験と、現在の身体能力。
その差を埋めるための戦闘。
(基礎確認としては十分だ)
視線を奥へ向ける。
暗闇は、まだ続いている。
俺は静かに一歩を踏み出し階段を下る。

