薬師の冷遇妻が解く、公爵家の秘密 〜放置した旦那様が溺愛に変わるまで〜

十一月に入ったある夜、颯介が澄乃の部屋を訪ねてきた。

その夜の颯介は、どこかいつもと違い、表情が硬く、何かを迷っているようでもあった。
部屋に入り、椅子に腰かけてから、しばらく黙っていた。

「どうなさいましたか」

澄乃が促すと、颯介は少し間を置いてから言った。

「静花のことで、相談したいことがある」
「はい」
「最近、静花の体の具合が良くない。薬を飲んでいるのだが、なかなか回復しなくて……いや、むしろ少し悪くなっているような気がして」
「それは、いつ頃からですか」
「ここ数ヶ月のことだ。柴田先生という方に診てもらっていて、薬も処方してもらっているのだが」

澄乃は颯介の顔を見た。

「その柴田という先生は、どういった方ですか」
「義母……蓮子が以前から懇意にしている医者だ。静花が小さい頃から診てもらっている。実績もある、という話だったが……お前から見ると、どうだろう。一度、静花の薬を確認してもらえないか」

颯介の声には、何かを恐れているような、それでいて何かを確かめたいという気持ちが混じっていた。

「ですが、私は静花様に避けられて……」
「静花にはよく言って聞かせる。どうか……」
「私は医者ではございません。素人の見立てになりますが、それでよろしければ」
「構わない。お前の見立てを聞きたいのだ」

静花は澄乃を受け入れていない。
しかし颯介が頼んでいる。
そして静花が苦しんでいるなら、薬について知る者として、見過ごすことはできなかった。

「わかりました。明日、静花様にご挨拶の上、薬を見せていただけますか」
「ありがとう」

颯介はそう言って、深く頭を下げた。
澄乃は少し驚いた。颯介が頭を下げるのを見たのは初めてのことだったから。

翌日、澄乃は颯介と連れ立って静花の部屋を訪ねた。
静花の部屋は、御堂家の邸宅の南側にある日当たりの良い洋室。
部屋の中は小物で飾られ、少女らしい空間だったが、窓のカーテンは半分閉じられ、部屋全体がどこか薄暗い。

ベッドに横たわっていた静花は、澄乃を見て、眉を顰める。

「お兄様……何故この方がいらっしゃるの」
「静花、言っただろう」
「本当にこの方に?本物の薬師でもないのに」
「お前のためを思って頼んでいる」

颯介がそうと言うと、渋々といった様子で頷いた。
澄乃は静花に近づき、「失礼いたします」と言って、まず静花の顔色と瞳の具合を観察した。
顔色は白く、目の下に隈がある。体全体が倦怠しているように見える。

「最近、手足が痺れることはございますか」
「……少し」
「食欲は」
「ないわ。食べると気持ち悪くなって」
「頭痛は」
「……毎日のように」

澄乃は静花の症状を頭の中で整理しながら、薬の瓶を見せてもらった。
棚の上に三本の薬瓶が並んでいた。
それぞれに柴田医師の筆跡で成分らしきものが書かれていたが、澄乃は中の粒薬を取り出し、匂いを嗅ぎ、色を見た。

「これは……」

澄乃は一本目の瓶を手に取り、表記を確認した。
体を温めると書いてある。
しかし中の薬から漂う匂いは、むしろ利尿を促す性質のある生薬のものに近かった。

「少し拝見してもよろしいですか」

澄乃は薬を一粒取り出し、指先で砕き、鼻に近づける。

澄乃の頭の中で、何かが繋がった。
しかし今は表情を変えてはいけない。
澄乃は意識して顔を穏やかに保ちながら、薬瓶を棚に戻した。

「ありがとうございます、確認させていただきました」
「これで終わりですか?何かわかったのですか」
「今少し調べたいことがあります。少し時間をいただけますか」
「頼むな、澄乃」
「…………」