だって、僕は呪われていないし

「……傘家で探してみなよ。
案外持ってくるのを忘れただけかもしれないし」

別に榊とは仲良くなっていない。
仲良くなりたくないと最初に思ったからだ。

だからって訳じゃないけど、話す内容が無い。

「こういう傘が無いとかそういうこと、よくあるんだよね。
変だと思う?」

当たり前の様に榊は言った。

「誰かに嫌われるような……」

俺は思わずそう言ったけれど、まだ転校してきてそれほど日もたっていない上に普通に学校で話す人間もいる榊に聞くような話じゃない気がして途中で言葉を止めた。

「そうじゃないんだけどね。
傘とかなんかそういうものはよく無くなるものだよ」
「なんだよそれ。
忘れもが多い的な?」
「いや……。
なんだろう。たまにひしゃげて戻って来るんだけどね」

ひしゃげ?
一瞬言葉の意味が上手く形作れずじっと隣を歩く榊を見てしまう。

「なんだよ、それ、俺は呪われてるってやつ?」

態と茶化すように言った。

「まさか。
だって、僕は呪われていないし。
呪いなんて世の中に無いよ」

そういって榊は笑った。
普通の話をしているみたいな口調だった。
さっきのひしゃげたという現実感の無い言葉がまるでなかったみたいに、俺が変なことを言った感じの雰囲気になった。

「だよな。
呪いとか言って悪い……」

雨は相変わらず降り続いていた。
俺は榊に家がどこか聞かれて思わず正直に答えてしまった。
嘘をついても逆にめんどくさいみたいな思考はその時には無かった。

それで俺はあのマンションの前を通らなくてはならなくなってしまった。
別に一人じゃないし。
榊は家に帰るんだし。

そう思いながらマンションの前についた。

「それじゃあ、俺んちここだから」
「ああ、また明日」
「うん」

そこで嫌な興味がわいてしまった。
噂にはどの階がという話は無かった。

「榊のうちって何階?」
「え?三階だよ。
高いところの方がなんか虫いないとかいうけどね」

残念と言いながら笑う榊の輪郭が一瞬ぼやけた様に錯覚してしまった。
三階はあのいやな感じのする階だ。
傘があってよかった。
今上を見上げるのは無理だ。
普通に無理。

俺は「そうなんだ……。じゃあまた」とだけ言って、マンションを離れた。
余り長く居たくはなかった。
明らかに不自然だったけれどそこは諦めることにした。