だって、僕は呪われていないし

死体があった。

服を着ていた。その服はきちんとしたものだ。
スーツを着ている。
男性だ。

だけどなんでか分からないけれど、それがもう死んでいるということだけは分かった。

這い上がる気持ち悪さから逃げるように隣に立つ男の手に自分のそれを伸ばして手を握った。

死体と目があった気がした。

その次の瞬間だったと思う。

砂の城が風に飛ばされるように、死体が。
目の前に確かにあったはずの死体がさらさらと消えていった。


怪異とか、心霊とかそういう気配は全くしなかった。
夜中に嫌な影を見てしまったときに感じる、ぞっとするような感覚。

そういうものは一切全く感じられなかった。

それが怖かった。

「今、消えたよな」
「そうだね」
「お前は怖くないのかよ」
「だって、別に僕に何かをされたって訳じゃないだろう」
「そうだけどさ……」

そうだ。
こいつはそういうやつだった。
出会ったときから、ずっと、こいつは常にいつもそういうスタンスだった。

だからこそ思わず今手を伸ばしてしまったのかもしれない。
けれどこいつも俺の手を振りほどこうとしない。

視線はずっと死体があったはずの場所だ。

そういえば、初めから、そんな感じだったのかもしれないことを思い出す。
最初、彼が俺のクラスに転校してきた時から彼はずっと。