大魔道士が転生先で最強の暗殺者になるまで

■始まり
気がつくと、俺は赤ん坊だった。
視界はぼやけ、体は思うように動かない。
だが、意識だけははっきりしていた。 (……ここは病院じゃない)
天井にはシャンデリア。
壁には見たこともない紋章。
そして、重厚な木の扉。
「ハルト様……よく眠っておられます」 女性の声が聞こえる。
――ハルト様?俺はディンだぞ? 何を言っているのだ。あれ?話せない
なぜだ、俺をどうやって抱えているのだ。ん?ん?んー?俺赤ん坊になってる〜?!
レオン・ハルトそれが、この世界での俺の名前だった。
代々王国に仕える名門貴族、レオン家の三男として 俺は新しい人生を与えられたのだった。
レオン家には三人の息子がいる。 長男アルベルトは剣の申し子。
次男クラウスは政治と交渉の才を持つ天才。
そして三男の俺。 「……魔力量、平均以下です」 水晶球を覗き込んだメイドが、わずかに眉をひそめた。
父は静かに頷いた。 「三男なら問題ない。自由に育てよ」 その言葉は温情だったのか、期待されていない証だったのか。
しかし俺は、内心で別のことを考えていた。
(平均以下? ……いやそんなことより) 測定水晶に吸い取られた俺の魔力に赤黒い何かが見えていた。
これは何だ?俺の魔力とは別に何かが一緒に水晶球に流れ込んでいる。(まあ今は置いておこう)
測定が終わると、水晶球の輝きはゆっくりと消えていった。
だが俺の目には、最後まで残る“残滓”が見えていた。
赤黒い靄のようなものが、水晶の奥で渦を巻いている。
(魔力じゃない……)
冷たい。重い。
まるで沈殿した感情のような、不快な感触。
「どうかされましたか、ハルト様?」
メイドが首をかしげる。
どうやら、あれが見えているのは俺だけらしい。
(今の俺の体に、何かが混じっている……?)
父と母が部屋を出ていった、それにしても最後までこの画面にはなにも言わなかったな…
この画面には転生の神からの手紙と書かれていた。
内容を要約するとこうだ
あなたは悪魔王バランの攻撃で家ごと消滅し、私がこの世界に連れてきた。
この世界でまた魔法を極めてもいいし、別の人生を歩んでもいいと書いてあった。
この世界にも魔法はあるらしい、それなら前世の記憶―― 元大魔道士の知識が、ここで役立ちそうだ!!
未知の現象に出会ったとき最も愚かな行為は、
理解できぬまま触れることだ。
観察し、記録し、仮説を立てる。
それが魔術探究の基本。
そのためには基礎体力を最低限必要量まで上げなければ……
ベットの上でとにかく筋トレだ!!!!
それから数年。
俺は順調に成長し、屋敷の中を自由に歩き回れるようになった。
そして気づいた。
魔力を強く流そうとすると、うまくいかない。
ある日、試しに魔法を空へ放ってみた。
今俺が打てる魔術はファイヤーボール。前世ではDランクの魔物をワンパンできる威力だが
――弱い。弱すぎる……
「……おかしいな」
制御はできている。
魔力の流れも乱れていない。
それなのに、結果だけが伴わない。
もう一度、魔力を増やしてみる。
威力は少し強くなり――
そして、それ以上は変わらない。
「魔力量が少ないせいか……?」
水晶球の測定結果が頭をよぎる。
平均以下。
落ちこぼれ。
三男なら問題ない。
自嘲気味に息を吐く。
指先に灯る光を見つめていると、
一瞬だけ赤黒い揺らぎが混じった気がした。
だが、瞬きをした瞬間には消えていた。
「……気のせいか」
幼い目の錯覚だろう。
俺はそれ以上気に留めなかった。
魔法の出力が低い理由は単純だ。
魔力量が足りない。
それだけのことだ。
――そう思うことにした。
???「ハルト!」
廊下の向こうから元気な声が響いた。
振り向くと、木剣を担いだ長男アルベルトが立っている。
アルベルト「また一人で難しい顔してるな。それ!!」
「バシッ!!」
木剣を投げられた。
アルベルト「お前が相手だと楽しい!少し付き合ってくれ!!」
後ろから次男クラウスが呆れたように続く。
クラウス「兄上、ハルトは魔術の方が好きなんですよ」
アルベルト「男なら剣だ!」
クラウス「時代は知略です」
言い争う二人を見ながら、俺は思わず笑った。
前世では持てなかったもの。
家族。
居場所。
穏やかな時間。
守るべきものが、ここにはある。
魔法が得意でなくてもいい。
兄たちのように優れていなくてもいい。
それでも――
この家族と、この場所を守れるだけの力が欲しい。
その願いが、後に王立魔法学園で
「才能なし」と呼ばれる少年を、
運命へと導いていくことになるとは、
まだ知らなかった。
その願いが胸に芽生えてからというもの、
俺の一日は大きく変わった。
朝は兄アルベルトの剣の訓練に付き合い、
昼はクラウスの読書会に混ざり、
夜は一人で魔法の練習。
アルベルト「ハルト、足が止まっているぞ!」
木剣が風を切り裂く。
ガンッ、と衝撃が腕に走った。
ハルト「ぐっ……」
アルベルト「今のは避けられただろう!」
アルベルトは嬉しそうに笑っている。
(前世の俺は身体能力を軽視しすぎた)
魔法が通じない状況。
魔力が尽きた瞬間。
近接戦を強いられる場面。
それらは大魔道士であった頃、常に付きまとっていた弱点だった。
アルベルト「もう一本!」
声と同時にアルベルトの鋭く重い一撃を、横に流す。
アルベルトの眉がわずかに上がった。
アルベルト「ほう?」
ハルト「偶然です」
アルベルト「偶然でできる動きじゃないぞ」
次男クラウスが腕を組んで観察している。
クラウス「ハルトは無駄な動きが少ない。合理的ですね」
アルベルト「合理的ってなんだ」
クラウス「兄上は力任せです」
アルベルト「なんだと!」
再び始まる兄弟の口論。
その騒がしさが、なぜか心地よかった。
夜。
クラウス「そういえばハルト、明日再測定の日だったよな?」
ハルト「はい、五歳になるので教会へ受けに行きます。」
クラウス「お前のことだから心配はしてないが結果がどうであれ俺達の大切な弟ということは変わらない、安心して受けてこい」
アルベルト「そうだ!頑張ってこいよ!!」
そうして兄たちと別れた。
屋敷の裏庭。
人気のない場所で、俺は手のひらを空へ向けた。
「ファイアボール」
小さな火球が生まれる。
――弱い。
昼間と同じ結果。
魔力を増やしても、威力は頭打ち。
(やはり魔力量の問題か……)
前世の感覚では、明らかに出力が足りない。
だが原因は特定できない。
火球を見つめていると、炎の奥で一瞬だけ赤黒い揺らぎが走った。
瞬きすると消える。
まるで錯覚のように。
「……疲れているのかもしれないな」
火球を握り潰し、息を吐く。
焦る必要はない。
まだ子供だ。
時間はある。
――だが。
「もしあの時、もっと力があったなら」
ふと、前世の最後の光景がよぎる。
崩れ落ちる家屋。
迫る黒炎。
圧倒的な力。
悪魔王バラン。
拳を握る。
今の俺では、遠く及ばない。
だが。
「同じ結末にはしない」
静かな夜気の中、言葉が溶けた。
とにかく明日は再測定の日!重いことは考えず、良い結果が出るように頑張ろう!