今日も、明日も。

二秒のコール音の後、彼の穏やかで温かく柔らかい声が耳に流れた。
『もしもし日川だけど。杏奈ちゃんから電話くれるなんて珍しいな』
胸が締めつけられたように痛み、優しい声音に思わず泣いてしまいそうになる。
「今日はランドリーの管理人業、何時に終わりますか?」
『え、ああ。いつも通り七時だけど』
「では私が洗濯物を取りに行った時に会えませんか?」
『べつに構わないけど……』
「ありがとうございます。ではまたあとで」
最低限の返事だけをして、通話終了のボタンを押す。一方的で無礼になるーーおそらく両親が知ったら眉をひそめるだろう。だけど今だけでも彼に甘えたかった。

それから十五分後。再び紺色のジャケットを羽織り外へ出た。
辺りは真っ暗になり、風は止んだがひんやりとした冷気が全身を包み込むようだ。
機械特有の無機質な自動扉が開いて中に入ると、日川さんが心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「杏奈ちゃん、どうした。なにかあったのか?」
途端、頭で考えるより先に、気がつけば優斗さんの身体に両腕を回して抱きついていた。私の突然の行動に驚いたのか、彼が一瞬身体を強張らせた。
「あ、杏奈ちゃん……!?」
「……私がもし他の男性と結婚させられそうになったら、優斗さんも一瞬に逃げてくれますか」
「それって駆け落ちなのでは」
素早い彼の反応に、思わず笑ってしまいそうになる。優斗さんは私とは違い、リアクションや反応が早い。そういうところも羨ましい半面、惚れた理由の一つだ。