災血一番隊長・恋王子ククル──最強な彼は、未亡人に甘えたくて今日もわざと怪我をする


 帝都・御楯部本部、円卓室。

 天井の高い石造りの空間の中央に、巨大な円卓が据えられている。
 その周囲には、十の席。
 だが実際に腰を下ろしているのは、二人だけだった。

 一番隊隊長・恋王子ククル。
 そして、火の災血 ────三番隊隊長・薪師(まきし)メラヴ。

「いやぁ、相変わらず堅ぇ部屋だな。もうちょい色気ってもんがあってもいいんじゃねぇの?」

 燃えるような赤髪の青年が、椅子の背にもたれながら天井を見上げている。
 異能特務隊の軍服の上着は肩に引っ掛けるだけ。足を組み、まるで戦場ではなく酒場にでもいるかのような気安さだ。

「会議に色気はいらぬのじゃ」

 ククルは淡々と答えた。
 白手袋の指先を揃え、背筋を伸ばして座る姿は、まさに模範的な軍人である。

「わかってるよ、最強ちゃん。だがな、わざわざ帝都まで来たんだ。少しくらい歓迎しろって」
「誰も呼んでおらぬのじゃ。貴様は好きで来たのじゃろうて」
「ったりめぇだろ。俺はオメーんとこの副官ちゃんに会いに来たんだよ」

 メラヴは、にやりと笑った。
 彼はククルと、女装美少年である一番隊副官のチサキを取り合って、殺し合い同然の決闘をした仲である。その際は、大陸の一都市が廃墟となったのは有名な話だった。
 
「ウチの副官はあげないのじゃ」
「いいぜ? チカラずくで奪うからよぉ」

 いまにも()りだしそうなふたりを諌めるように、円卓の空気がわずかに揺らいだ。
 次の瞬間、席の一つに影が現れる────輪郭だけの人影だ。
 だが、その声ははっきりと響いた。

「……ふたりともヤメロ。みっともない」
 
 影の災血────七番隊隊長のヨル。
 最年少の隊長だ。
 ククルに対抗心を燃やす少女の声は、まだ幼さを残しながらも、鋭く円卓を切り裂いた。

 続いて、別の席に淡い光が結ばれる。
 糸のような光の線が空間を縫い合わせ、そこに新たな影が形を取った。

「いいじゃないですか。仲良しの証明ですよ」

 結の災血────4番隊隊長・繭子。
 点と点を結ぶ彼女の能力が、この会議を成立させている。

 さらに、微かな共鳴音が空間に満ちた。
 風鈴にも似た音色が、影たちの声に輪郭を与えていく。

「だるっ。ずっと寝てたい」

 音の災血────9番隊隊長・無音法師。
 その能力が、遠く離れた都市の隊長たちの声を、この円卓へと届けていた。

 次々と席が埋まっていく。

 倫敦(ロンドン)に配置された雷の災血。
 静かに周囲を観察する水の災血。
 合理主義の毒の災血。

 だが────“二席”が、空いたままだった。

「砂の災血はまだ怪我治らないのぉ? サボりなのぉ?」

 雷の災血が低く呟く。

「昨日の戦闘でまた負傷したと聞いたよ。まぁサボりだね」

 水の災血が静かに補足した。

 そしてもう一席────(ほっぺ)の災血の席。

 そこに関しては誰も、何も言わない。
 欠席の理由はない。連絡もない。
 それでも、誰一人として欠席を咎めようとはしなかった。

 十番隊隊長・四隅(よすみ)ププ。
 ────彼女がこの世代で“最強”であることを、口に出さずとも全員が知っているからだ。

「もう、そろそろいいか?」

 影の災血・ヨルの声が、静かに告げた。

「ああ。議題に入るのじゃ」

 遊びは終わりだ。
 ククルが円卓の中央を見据えるその表情は揺るがない。
 だが胸の奥では、夕焼けの中で震えていたヒバリの声が、まだ消えずに残っていた。

 ────あなた……?