「ヒバリ。私はいくつになったと思う?」
「二十歳でしょう? 存じてます」
「うん……そうじゃ。もう立派な大人じゃ」
────ああ、この人は。
言おうとしている。ずっと、言えなかったことを。
夕焼けの光が、ククルの金髪を淡く染めてゆく。
青い瞳は、戦場で見せる鋼の光ではなく、行き場を失った子どものように揺れていた。
「だから……私はその……私は……」
言葉が、続かない。焦ったくて、ヒバリは喉が乾くのを感じていた。
けれど指輪に触れれば、冷たい金属の感触が現実へと引き戻そうとしてくる。
────やめて。
心の奥で、誰かが囁く。
────その先を聞いてしまったら、戻れなくなる。
それでも、視線を逸らすことができない。
ククルの唇が、もう一度開く。
「ヒバリ、私は……そなたと……」
その瞬間、ヒバリの心臓が大きく跳ねた。
言葉の続きが、怖い。嬉しいのに、怖い……胸の奥で、過去と現在が引き裂き合っているのだ。
あの人の温もり、雨漏りの部屋。
安い指輪……戦死の報せ。
そして────
八年間、怪我を作っては通い続けたこの青年。
そうだ。もういいのではないか。もう十分に悲しんだ。
ヒバリの震える指先が、いまは誰を求めているのか。本当はもうわかっている。
そのときだった。
「……ヒバリ」
背後から、声がした。
低く、かすれた声。それは懐かしいはずの響き。
……だが、ありえない。そんなはずはない。だって彼は死んだのだから。
それでも……ゆっくりと……ヒバリは振り返った。
ありえないと、心のどこかで叫びながら。
「うそ……あぁ……そんなこと……」
夕焼けの中に、ひとりの若い男が立っていた。
時間が、止まる。心だけがたしかに震えている。
「……あなた……?」



