世界は、ひとつの国によって静かに統べられている。
名を、日ノ国。
かつては小さき島国に過ぎなかったその国は、半世紀に満たぬ過去の大戦において、世界の勢力図を書き換えた。
勝敗を決したのは、兵数でも兵器でもない。
ただひとつ────日ノ人の血にのみ宿る異能の力だった。
鉄を纏い、雷を落とし、水を従え、火を呼ぶ。
人の理を超えた力は戦場を蹂躙し、やがて諸国は膝を折った。
こうして世界は、皇国のもとに新たな秩序を得ることになる。
だが、もたらされたのは平和だけではなかった。
戦の最中、皇国の皇族のひとりが敵国である連合国側へと寝返ったのだ。
後に「鉄の宮様」と呼ばれることになるその男は、生まれ持った強大な力────“鉄の災血”を振るい、決して消えることのない禍いを残して何処かへと姿を消した。
その置き土産こそが、錆鬼である。
錆びた鉄によって構成された巨大な怪物。
四つ足、鳥獣、虫、あるいは名状しがたい塊。
都市にのみ現れ、触れたすべてを腐食させ、文明そのものを崩してゆく存在。
人の力では太刀打ちできぬ。けれど誰かが止めなければ。
ゆえに皇国は、この化け物に対抗すべく十の災厄を楔として世界へと配置した。
────災禍十血。
鉄、雷、火、水、砂、毒、結、影、時、そして頬。
帝の血を分け与えられた十名から成る最強の異能者たちは、帝都のみならず世界の主要都市に分散され、抑止力として均衡を保っている。
倫敦に雷。
紐育に火。
巴里に影。
そして帝都には────鉄。
厄災は世界を守っているのか。
それとも、厄災によって世界は閉じ込められているのか。
その答えを知る者は、まだいない。
────舞台は再び、桜舞う帝都。
鉄の災血・恋王子ククルが恋に落ちてから迎える、八度目の春のことである。



