ひとりぼっちの私のことを救ってくれたのは魔法使いでした。

 ルーナは、突然手を握られて動揺してしまう。
 でも次の瞬間には、そんなことも忘れてしまう光景が待っていたのです。
 そこには、真っ赤な紅葉(もみじ)の広がる並木道があったのです。
 ルーナは、その中に足をそっと踏み入れます。

 「うーあー、キレイ」

 気分が一気に上がるのを感じる。

 「でも、どうして?応接室だったはずですよね」
 「魔法で並木道がある場所と繋げたんだ」
 「こんなことも魔法で出来るのですね」
 「ああ、圧巻だろ」
 「はい」

 二人で並木道を歩き、地面には散った紅葉の絨毯(じゅうたん)が出来ていました。
 並木道を歩いている途中に、ベンチを見つけ、二人は並んで座る。
 ルーナは、シャルルにエミリオのことについて話します。

 「実は、エミリオさんに二人の出会いを聞かせていただきました」
 「エミリオがそんなことを…」
 「二人の出会いが衝撃的でした」
 「うん、たしかにそうだね。でも今はあそこで出会えてよかったと思っているよ」

 ルーナが、シャルルを見ると、遠くの紅葉をじっと眺めていたのでした。
 それから、しばらくベンチで紅葉を見ながら、ただ静かに二人は時間を過ごしたのでした。

 どのくらいか時間が経った頃。
 シャルルがベンチから立ち上がる。

 「そろそろ、帰ろう。皆が待っている」
 「はい、帰りましょう」

 ルーナもベンチから立ち上がると、扉に向かって歩いていきます。
 樹から紅葉が落ち、風で紅葉が揺れて、まるで紅葉のカーテンのように降り注いでいたのでした。


 屋敷に戻った二人は、一度各自の部屋に戻ることにした。
 ルーナは、部屋に戻ると、さっき拾った紅葉の葉っぱを紙と紙の間に挟み、それを本の間に挟むともう一冊の本を置き重しにする。
 これはなにかというと、押し花である。
 教会にいた頃に一度やったことがあり、覚えていたのである。
 
 ルーナは、日記帳に本日のことを記す。
 『エミリオさんが屋敷にやってきた。ずっと気になっていた二人の出会いを聞けた。 シャルル様が魔法で、紅葉の並木道を見せてくれた。美しかった』
 日記帳を閉じると、部屋を出た。

 夕食の時間のため、食堂に向かう。
 そこには、すでにリリーとリナーが準備をしていた。
 リリーが、ルーナの気配に気づく。
 「ルーナ様、まだ準備をしているところでございますので、少々お待ちくださいね」
 ルーナは、リリーの側に行き、トレーからフォークをとる。

 「私も一緒にやります」
 「お願いいたします」
 
 三人は仲良く準備をしていきます。
 準備を終えると、ちょうどシャルル様がやってくる。

 「もうここにいたんだね。ルーナ」
 「はい。シャルル様、お二人と一緒に準備をしていました」
 「そうか」
 「はい」

 準備を終え、椅子に座ると料理が運ばれてきました。
 メインの肉料理、サラダ、スープにデザートまで出てくる。
 本日のデザートは、キャロットケーキであった。
 ルーナは、一口食べる。
 (お、美味しい、野菜なのにこんなに美味しいなんて……)
 ルーナの表情を見て、シャルルが微笑ましそうに見ている。

 食事を終えると、部屋に戻り本を読み始める。
 本を閉じ、ふとルーナは考えるのでした。
 もしも私に魔法が使えたら、シャルル様の役に立てるのではないかと…。
 でも私は人間であり、魔法の力を持っていない。
 どうしたら役に立てるのだろうか。
 いつも私はシャルル様にもらってばかりだ。
 ルーナは、時計を見ると針が十時を過ぎていて、急いでベッドに入る。
 何気なく横になる前に机の上を見ると、何かが光って見えた気がした。
 しかし、気のせいだろうと思い、灯りを消すと眠りについた。
 しかし、それはルーナの気のせいではなく押し花を挟んだ本が光っていたのでした。


 翌朝、ルーナは朝早く目を覚ます。
 お手洗いのために、シャルルの書斎の前を通るのですが、扉の隙間から明かりが漏れていました。
 耳を澄ませると、誰かと話している声が聞こえます。
 薄暗い早朝に誰と話しているのだろうか?
 扉の前で聞き耳をたてる。

 「何があってもルーナ様をお守りします」

 (え…、ど、どうしてシャルル様が私のことを“様”付けしているの?)

 「近頃では、ほんのわずかですが能力が出てきているようです」

 (能力って何のこと、私は何の能力を持っているの…)

 ルーナは、衝撃的な言葉に動揺して立っていられず膝から崩れ落ちてしまいます。
 バタン。
 ルーナが、倒れた音が廊下に響き渡り、音を聞き付けたシャルルが扉を開ける。

 「ルーナ」

 シャルルは驚いた表情をしている。

 「今の話はなんでございますか?」

 ルーナは、シャルルに問いただす。
 シャルルは、ルーナと同じ目線になる。

 「すまないね」
 「え……」

 シャルルがそういうと、ルーナは言葉を発する間もなく力なく倒れ、気を失ってしまいました。
 シャルルが、唇をきゅっと強く結んだのは、ルーナの質問に答えることが出来ないからです。
 倒れたルーナをシャルルは受け止めると、抱き上げ、ルーナの部屋まで連れていきます。

 まだ少し、もう少しこのままでいてほしい。
 何も知らないままで……。


 ルーナが、目を覚ました。
 随分、寝てしまった。
 着替え終わると、シャルルの書斎に向かいます。
 扉をノックすると、すぐに扉が開く。

 「おはようございます。シャルル様」

 髪をきっちりと整えたシャルルが立っている。

 「おはよう、ルーナよく眠れたかい?」
 「はい。いつもよりも多く眠ってしまったようです」
 「そういう日もあるさ」
 「そうですね」

 シャルルは、一度部屋に戻ると、ルーナに鍵を渡してくれる。

 「ありがとうございます」

 書庫に向かおうとした、ルーナをシャルルが呼び止める。

 「そうだ、ルーナ」
 「何でしょうか」
 「今朝のことだけど」

 身に覚えのないことに首をかしげます。

 「今朝?」
 「勘違いだ。良い本が見つかると良いね」
 「はい」

 ルーナは再び歩き出した。
 その姿を見届けると、シャルルは扉を閉めた。
 どうやらあの時の記憶は、しっかり消えているようであった。
 ルーナは、書庫に到着すると鍵を開ける。
 いつもの定位置に座り、本日読む本を探す。

 ここには、私のために沢山の本があり、シャルル様の魔法で定期的に換えてくれているため、新しい本を読むことが出来るのである。

 「何を読もう」

 ルーナは、一冊の青色の表紙の本を手に取った。
 題名は『魔法の子』。
 物語は、王族の子供として生まれたエミリーは、生まれながらに秘めた力を持っていたのです。
 しかし、その力はまだ赤ん坊のエミリーでは制御できないほどの強い力だったのです。
 王様は魔法使いに頼んで、エミリーの力を封印することにしたのです。
 ですが、魔法使いは王様にある提案を持ちかけるのです。
 エミリーが十七歳になったら……。
 次のページをめくると、ページが破られていた。
 (なぜ、ページがないの?)

 ルーナはなぜか、この本の物語の続きがどの本よりも無性に気になった。
 扉がノックされる。
 扉が開くと、そこにはシャルルが立っていた。
 ルーナは、咄嗟に別の本の下にその本を隠す。
 シャルルが部屋の中に入ってくる。

 「どうされましたか、シャルル様」
 「実は、昨日エミリオが持ってきたのは、本だったんだ。新作が出たら持ってきてほしいと頼んでいてね。喜んでくれたら嬉しいな」

 シャルルがテーブルに袋を置く。

 「シャルル様、ありがとうございます」

 ルーナは、袋の中の本を取り出していきます。
 本当に沢山の本が入っていて、一冊の本を手に取ります。

 「この本のシリーズ、読んでみたいと思っていました。今、読んでもいいですか?」
 「もちろん」

 ルーナは椅子に座ると、ワクワクした気持ちで本のページを開く。
 その様子をシャルルは壁に寄りかかり眺めている。
 本を読み進めていると、シャルルがルーナを呼んだ。

 「ルーナ」

 読むのを止め、シャルルに視線を向ける。

 「そろそろ書斎に戻るよ」
 
 ルーナに伝えると、シャルルは書庫から出ていった。
 本の続きを読み始める。
 題名は、『王子様の初恋』。
 この物語は、王子が子供の頃に出会った一人の少女のことをずっと思い続けるというものだった。
 いつかまた出会えるのではないか。
 そして、ある日一人の少女が城の使用人として雇われることになった。
 王子は、彼女を見た瞬間すぐにあの時の少女だと気づくのです。
 しかし、少女は王子の顔を見てもその時のことを覚えていないようである。
 一度、勇気を出して王子は話しかけてみることにした。
 しかし、少女の対応は王子として接しているときの話し方をしていた。
 王子は、理解していた。
 彼女の身分は使用人、しかし王子は国を背負っていく貴族。
 どう足掻いても、この差を埋めることは容易いことではない。
 やっと出会えたのに諦めるしかないのか。
 王子は、最後にどんな選択をするのか。
 そんな物語である。
 私ならば、どんな選択をするだろうか?
 王子のような選択をするだろうか。
 それが国をも巻き込むことだとしても……。
 その信念を私は、貫き通すことが出来るだろうか?
 今の私には、決めることが出来ない。
 もしそんな時がきたら、そのときの私はどんな選択をするのだろうか?

 ルーナは、空を見上げることしかできませんでした。