ひとりぼっちの私のことを救ってくれたのは魔法使いでした。

 シャルルは、書店の中にある長椅子に座り、ルーナはシャルルの膝の上で眠っています。

 「う、うーん」

 ルーナは、本の世界から戻ってきてから何らかの影響でうなされています。
 シャルルは、ルーナに掛けられている膝掛けを直します。

 しばらくすると、険しい表情から穏やかな表情に変わっていきます。
 ルーナは、ゆっくりと目を開けます。
 シャルルは、ルーナが目覚めたのに気がつきます。
 ルーナの顔を見ると、シャルルは、優しそうな申し訳なさそうな、そんな顔でルーナを見ていました。

 「シャルル様……」

 ルーナは、シャルルの顔見て安心したのか、突然起き上がり、シャルルに勢いよく抱きついたのでした。

 「怖かったよ、シャルル様」

 緊張の糸が切れたのか、目に一杯の涙をためルーナは泣き出してしまいました。
 止まらない涙たち、その姿はまるで小さな子供のようでした。
 ルーナの泣き声が書店に響きます。
 
 シャルルは、突然ルーナのそんな姿にとても驚いた表情を見せます。
 それでも、シャルルは優しくルーナを抱き締め続けてくれていたのでした。
 その二人の姿を本棚に寄りかかりながらエミリオが見ていました。

 数分か、数十分か、泣いていたルーナだったがいつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
 シャルルは、眠っているルーナの髪を優しく撫でる。
 今は穏やかで安心したような表情をして眠っている。

 「すまない。ルーナ、こんな思いをさせて」

 シャルルとルーナはしばらくの間、二人の時間を過ごしたのでした。
 シャルルは、立ち上がるとルーナを横向きに抱き上げる。

 「エミリオ、そろそろ僕達は戻ることにするよ」

 シャルルの声を聞いて、奥からエミリオが出てくる。

 「そうか、また来いよ。シャルル」
 「ああ、また来るよ、エミリオ。次はルーナが元気になったらな」

 シャルルが呪文を唱えると、次の瞬間二人は書店から煙のように姿を消したのでした。
 二人が、居なくなった書店の窓から見える、外の景色はいつの間にか茜色に染まりはじめていました。

 ルーナが、ベッドで眠っている。
 その近くの椅子に座ったシャルルが、ルーナの眠っている姿を眺めている。
 ルーナの顔を見ながら、シャルルは心配そうな表情を浮かべている。
 ルーナは、書店から帰ってきてから目を覚まさずに眠っている。
 シャルルは、ルーナが目覚めないのではないかと気が気ではありません。 


 次の日。
 シャルルは、ルーナの傍にいたのでした。
 ルーナがようやく目を覚ました。
 気付いた時、シャルルは椅子に座っていました。
 シャルルは、目覚めたことに気付くと顔を覗き込む。

 「ル、ルーナ、目覚めたんだね」

 シャルルは、悲しそうな、嬉しそうなその中間の表情をしていた。
 (シャルル様)
 ルーナが、起き上がろうとすると、シャルルは、それを止める。

 「横になったままでいいよ」

 ルーナは、またもとの体勢に戻る。

 「皆にルーナが起きたことを伝えてくる。また戻ってくる」

 ルーナが、頷く暇もないままシャルルは部屋から出ていったのでした。
 ルーナは一人になり、あの本の世界で覚えている記憶を思い出していきます。
 (確か、ドラゴンとシャルル様が戦っていて離さないようにしがみついていていた。そしたら、突然青色の光が差し込んできた)

「あれ」

(記憶が切れてしまっている。あのあと、私はどうなったの?)
 ルーナは、シャルルが戻ってきたら聞くことにした。
 その後、少しするとシャルルが戻ってきた。

 シャルル様の説明によると、私は屋敷に戻ったが三日間も、目を覚まさなかったのだという。
 あの後、あの本は魔法管理局に渡されることになったという。
 あの本は、最初から禁書ではなく、もともと普通の本として販売されていた。
 しかし、誰かの手により物語が書き換えられてしまったのだという。
 そのため禁書に変わってしまったのである。
 禁書というのは、魔法によって物語が変えられたりするものも含む。
 閲覧することを禁止されてしまった本のことをいうのだそう。
 シャルル様に教えてもらったことである。

 『ドラゴン姫と勇者』の本当の物語は、姫が怒り、ドラゴンに変わったという物語ではなく。
 ニセモノの勇者、つまりドラゴンが勇者に化けてドラゴンを倒したと、王様に説明したことはウソであった。
 そのことが、王様にバレてしまった、ニセモノの勇者はドラゴンに変わり、姫をさらってしまう。
 ドラゴンから姫を助けるためにホンモノの勇者が現れる。
 姫を助けに行き、見事ホンモノの勇者はドラゴンを倒すことに成功し、城へ戻ってくる。
 そしてその後二人は、惹かれあい幸せに暮らすというハッピーエンドの物語なのである。
 こんなに素敵な物語を滅茶苦茶にするなんて……。
 どんな人がこんなひどいことをするんだろう。

 本の中に入って、不思議な体験をしたりして、もちろん怖かったけれどシャルル様が必ず迎えに来てくれると、そう思うとなぜだか心が少し軽くなった。
 だから最後まで諦めずドラゴンと戦えたのかもしれないと感じた。
 (エミリオさんに体調が戻り次第お礼を言わなければ……)
 そんなことを思うルーナなのであった。


 時間を少し戻して、現在。
 シャルルがベッドの端に座っている。
 
 「ルーナ、体調はどうだい?」
 「はい、随分楽になりました」
 「それはよかった」
 「シャルル様、迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
 「ルーナのせいではないのだから」 
 「……」

 シャルルは首を横に振ります。
 ルーナは、シャルルの言葉を受け入れ自分の気持ちを飲み込みます。

 「はい」

 (シャルル様は、こんな私を包み込んでくれ、優しい言葉をかけてくれる)

 「一つシャルル様に、聞きたいことがあります。私の記憶だと、あの時青い光が差したのを覚えていて、あれは何の光か分かりますか?」
 「はっきりは分からないけど、エミリオの魔法じゃないかな?」
 「そうですか」

 シャルル様は、話をすぐにそらされてしまう。
 不思議に思いつつもその答えを受け入れる。

 「ところで、ルーナ何か忘れ物はないかい?」 
 「え?忘れ物?何?」

 突然言われて、辺りを確かめる。
 シャルルは、ルーナに意地悪っぽい笑みを見せた。

 「ほらこれ」

 すると、シャルルは手を広げ、ルーナに手の中に入っていたものを見せてくれる。
 そこには、月の形のネックレスがあった。
 
 「あ…」

 咄嗟にルーナは首に触れます。
 (いつの間に外れてしまったのだろうか?)
 
 「後ろを向いて」

 ルーナは髪を持ち上げると、シャルルがネックレスを着けてくれます。

 「もう失くさないようにね、ルーナ」
 「はい」

 ルーナは、首に着いたネックレスを強く握りしめる。
 (失くさないように、失わないように大切に持っていよう)

 ルーナは、シャルルのことを真っ直ぐに見つめるのでした。