先輩は神事に使う服を引っ張り出して来ては、神楽殿でお盆に舞う奉納舞を披露してくれた。
先輩ーお兄さんと初めて会った時を思い出す白装束だ。
俺の隣には黒マント姿の葬列隊の面々(“シルバー親衛隊なんちゃら”って呼んで!と言われたが覚えられないので割愛)が俺の隣に体育座りをして同じく先輩の舞を眺めている。
お盆にはこうして1度儀式で清めてもらわないと、体がダルくなってしまうらしい。
「あぁ〜〜〜効く〜〜」
「整う…」
目を細めて恍惚とした顔を浮かべる葬列隊の皆さん。
所帯じみている…
俺は夏休み中ほとんど先輩のところに入り浸っていたし、先輩も社務所兼自宅から出ようとしなかった。
だから先輩が突然姿を消したときは、意味がわからなかった。
先輩の使っている文机の上には、『りょう君へ』と書かれた封筒が置かれていた。
『直接言うのは怖くて手紙という形で残すのを許してください。
“最初から与えられてもいない”
これは俺の感情の話です。
どれだけ人の真似をしても駄目だった。
俺は元々、神様のもとで人の罪を裁くー
天秤のオモリ石だった。
片側に罪人を乗せて罪が軽ければ罪人は浮き、罪が重ければ俺が浮き上がる。
その裁量を任されている石が自我を持っただけの存在なんだ。
俺の主である神様は
“せっかく自我を持ったんだ。
神になるための修行をしたらどうだ?
土地神のいない土地で100年、
その土地に生きる人々のために神としての采配を振るってみろ。
それが神の末席に連なるための条件だ”
と俺を送り出されたけど。
90年、心が動くことはなかった。
人の心の機微もわからず、あれだけの人々を悲しませて…果たして俺は神の務めを果たせていただろうか?
そんな時りょう君、君が現れた。
君は最初から石の姿の俺に話しかけに来てくれていた。
君と過ごしたあの夏休みの1ヶ月にも満たない日々で、初めて心が動いた。
俺が消した記憶は“君が俺を石だと知りながら親しくしてくれた記憶”だよ
これが“与えてから奪われる”だ。
霊が視えるせいで孤独な君が記憶がなくても僕を探していたと聞いて、
そんな境遇の中縋るような思い出を与えてしまったことも、奪ったことも後悔した。
あの大洪水に巻き込まれた日も、
俺は人の姿を保てないほど力を使ったものだから、
石の本体の姿を晒してしまった。
身体がひび割れたのはその時だ。
君が人ではない姿も好いてくれているのを見て怖くなった。
このまま君の人生を人の営みから離してしまっていいのか。
けど一番怖かったのは、
いつか人ではないこの身を拒絶されることだ。
だから俺がただの石に過ぎないという記憶だけは完全に消していたんだ。
本当にすまない。
君が去ったあの10年前、信仰を集めた効力か先読みの力が目覚めた。
ちょうど神様との約束の100年目、
今年の送り盆に再び水害がダム湖で起こると。
だから村人を出て行かせたし、
せめて残った人が被害に合わないように送り盆を、山頂の神社での飛ばし灯籠の儀式に変えたんだ。
起きた水害が及ぼす村への被害をせめて最小限になるように、残りの力を使い果たすつもりだ。
そうしたらこの土地を守る役目を終えて、俺は正式な神になる』
だからどうか俺のことは忘れて。
送り盆の時までに村からは出ていってほしい。
手紙はそう締めくくられていた。
先輩ーお兄さんと初めて会った時を思い出す白装束だ。
俺の隣には黒マント姿の葬列隊の面々(“シルバー親衛隊なんちゃら”って呼んで!と言われたが覚えられないので割愛)が俺の隣に体育座りをして同じく先輩の舞を眺めている。
お盆にはこうして1度儀式で清めてもらわないと、体がダルくなってしまうらしい。
「あぁ〜〜〜効く〜〜」
「整う…」
目を細めて恍惚とした顔を浮かべる葬列隊の皆さん。
所帯じみている…
俺は夏休み中ほとんど先輩のところに入り浸っていたし、先輩も社務所兼自宅から出ようとしなかった。
だから先輩が突然姿を消したときは、意味がわからなかった。
先輩の使っている文机の上には、『りょう君へ』と書かれた封筒が置かれていた。
『直接言うのは怖くて手紙という形で残すのを許してください。
“最初から与えられてもいない”
これは俺の感情の話です。
どれだけ人の真似をしても駄目だった。
俺は元々、神様のもとで人の罪を裁くー
天秤のオモリ石だった。
片側に罪人を乗せて罪が軽ければ罪人は浮き、罪が重ければ俺が浮き上がる。
その裁量を任されている石が自我を持っただけの存在なんだ。
俺の主である神様は
“せっかく自我を持ったんだ。
神になるための修行をしたらどうだ?
土地神のいない土地で100年、
その土地に生きる人々のために神としての采配を振るってみろ。
それが神の末席に連なるための条件だ”
と俺を送り出されたけど。
90年、心が動くことはなかった。
人の心の機微もわからず、あれだけの人々を悲しませて…果たして俺は神の務めを果たせていただろうか?
そんな時りょう君、君が現れた。
君は最初から石の姿の俺に話しかけに来てくれていた。
君と過ごしたあの夏休みの1ヶ月にも満たない日々で、初めて心が動いた。
俺が消した記憶は“君が俺を石だと知りながら親しくしてくれた記憶”だよ
これが“与えてから奪われる”だ。
霊が視えるせいで孤独な君が記憶がなくても僕を探していたと聞いて、
そんな境遇の中縋るような思い出を与えてしまったことも、奪ったことも後悔した。
あの大洪水に巻き込まれた日も、
俺は人の姿を保てないほど力を使ったものだから、
石の本体の姿を晒してしまった。
身体がひび割れたのはその時だ。
君が人ではない姿も好いてくれているのを見て怖くなった。
このまま君の人生を人の営みから離してしまっていいのか。
けど一番怖かったのは、
いつか人ではないこの身を拒絶されることだ。
だから俺がただの石に過ぎないという記憶だけは完全に消していたんだ。
本当にすまない。
君が去ったあの10年前、信仰を集めた効力か先読みの力が目覚めた。
ちょうど神様との約束の100年目、
今年の送り盆に再び水害がダム湖で起こると。
だから村人を出て行かせたし、
せめて残った人が被害に合わないように送り盆を、山頂の神社での飛ばし灯籠の儀式に変えたんだ。
起きた水害が及ぼす村への被害をせめて最小限になるように、残りの力を使い果たすつもりだ。
そうしたらこの土地を守る役目を終えて、俺は正式な神になる』
だからどうか俺のことは忘れて。
送り盆の時までに村からは出ていってほしい。
手紙はそう締めくくられていた。
