それからの日々は穏やかなまま過ぎていき、気がつけば夏休みに入っていた。
変化といえば、大関が俺の家に居着いたことだ。
隙間っぽいところに挟まるのが好きなのか、そういうところを探しては定位置にしている。
あの巨体をどう収めているのか謎だが、目が合うと申し訳なさそうな感じを出してくる。
気まずい…
しかし先輩に『次の土地様神候補で、彼が一緒にいてくれるなら安心だから』と説得されては為すすべもない。
俺は先輩と約束していた“先輩の話を1つずつ話してもらう”を実践しているところだった。
それから俺の話も1つずつ。
先輩がいなかった頃の俺の過ごし方だ。
大して面白くもない話だと思うのだが、いつも先輩がどうしてもとせがむから結局根負けして話す。
そしてこうして話している時の俺の定位置が、先輩の膝枕だ。
もう付き合ってる…(確信)
夏休み、先輩の社務所兼自宅に入り浸るようになってから俺は度々「好きです先輩、お付き合いしてください」と告白しているのだが…
それはもう隙を見ては告白してるのでその数2桁はくだらないと思うのだが。
「送り盆が終わったらね」
ギィ!!
何なのよ送り盆って!!(ヒステリ女風)
「説明しよう。送り盆とは…
我々“葬列隊改め御石様親衛シルバー部隊”のリフレッシュ休暇である」
「ぬるっと冷蔵庫から出てくるのやめてもらっていいですか」
冷蔵庫から上半身だけ突き出している黒マントのご老体。
絵面が悪夢すぎる…
「もうナムルが多分駄目になっちゃってるんで捨てたほうがいいね…」
「ちょいちょい冷蔵庫の中物色してくる」
「それでどこ待まで聞けたんかいな?
御石様の身の上話は?」
「……」
先輩が家族の話をするときの辛そうな顔を払拭したくて。
俺はまず家族の話をせがんだ。
この地に降り立って数年経ってから上弓月村がダム底に水没するあの災害が起きて。
人々の怒りや悲しみを受けても、その頃の俺はまだ感情というものがあまり理解できていなかった。
だから、ずっと子宝に恵まれないー
それでいてこの村の神主という、場所としても申し分ない家の子供になったんだ。
今この村で起きてるように、俺に関する事柄を自然だと思わせるのは簡単だった。
この17歳の姿しかとれないからね、
そこも違和感を抱かせないように、ずぅっと…
歪な家族を続けてきた。
父親が老衰で亡くなる前、俺に“私の家の子供になってくれてありがとう”と言われたんだ。
その人は俺がずっと17歳なことも。
人ではないことも分かっていた。
おそらく元々神力の高い人間だったんだろう。
そういう人間には俺のまやかしみたいな力は効かないんだってこともその時初めて知った。
その男の妻はもっと前に病気で亡くなっているんだが、それでも俺がいた日々は心穏やかに過ごせていただろうと言われた。
妻は初めてのお産で子供が流れてから子供が産めない体になったと。
“まるで抜け殻のようだった彼女が最後に笑顔を取り戻せたのは、あなたが来てくれたおかげです”
きっとあなたは神様が遣わしてくれたんですねー
最期にそう言い残して父親は息絶えた。
俺は、その人の感謝の言葉に見合うほどのことは何もしていない。
人間の感情が知りたくて、あまつさえその実験材料にした。
謝ることもできなかった。
だからその人たちに報いるために、俺は神事を続けてる。
『これが、“与えられていたものが嘘だった”話。
俺は感謝されるだけのものをあの人たちに心の底からは与えられていなかったんだから』
だから偽物しか与えていない。
先輩は話し終わるとぼんやりと空を眺めた。
それはいつかの、流し灯籠を見ていた時のお兄さんと重なってー
思わず先輩の手を取る。
「俺はー
この村を離れて、先輩の記憶が消えても。
ずっとどこかで先輩を探してました。
先輩は、例えば俺にまだ言えてないことー
先輩にとっての嘘がまだ俺にあるとして、
俺が生きてこれた理由だって思ってるそれも、
根底に嘘があったらそれは全部偽物になりすか?
嘘だって、確かに救われた人がいるなら、そのまま受け止めてもいいんじゃないんでしょうか?」
「…分からないんだ。
そういう、
こういう嘘はついていいとか、
こうしてりょう君ばかり可愛いと思ってしまうのも。
平等じゃないよね?
それは俺の生きてきた世界では罪だったから」
だからいつか俺の必死に人間になれたと思った勘違いの振る舞いが君を傷つけてしまうんじゃないかってー
それが怖い。
「…先輩は、信仰する生きてる村人を追い出して、
信仰する死者も追い出して、
そうした先で、
神様をやめて、人間になってくれるんですか?」
この話になると先輩はキュッと口を噤んだ。
まだ言えない、ということだろう。
俺は後に、この時無理矢理にでも聞き出しておくべきだったと後悔することになる。
変化といえば、大関が俺の家に居着いたことだ。
隙間っぽいところに挟まるのが好きなのか、そういうところを探しては定位置にしている。
あの巨体をどう収めているのか謎だが、目が合うと申し訳なさそうな感じを出してくる。
気まずい…
しかし先輩に『次の土地様神候補で、彼が一緒にいてくれるなら安心だから』と説得されては為すすべもない。
俺は先輩と約束していた“先輩の話を1つずつ話してもらう”を実践しているところだった。
それから俺の話も1つずつ。
先輩がいなかった頃の俺の過ごし方だ。
大して面白くもない話だと思うのだが、いつも先輩がどうしてもとせがむから結局根負けして話す。
そしてこうして話している時の俺の定位置が、先輩の膝枕だ。
もう付き合ってる…(確信)
夏休み、先輩の社務所兼自宅に入り浸るようになってから俺は度々「好きです先輩、お付き合いしてください」と告白しているのだが…
それはもう隙を見ては告白してるのでその数2桁はくだらないと思うのだが。
「送り盆が終わったらね」
ギィ!!
何なのよ送り盆って!!(ヒステリ女風)
「説明しよう。送り盆とは…
我々“葬列隊改め御石様親衛シルバー部隊”のリフレッシュ休暇である」
「ぬるっと冷蔵庫から出てくるのやめてもらっていいですか」
冷蔵庫から上半身だけ突き出している黒マントのご老体。
絵面が悪夢すぎる…
「もうナムルが多分駄目になっちゃってるんで捨てたほうがいいね…」
「ちょいちょい冷蔵庫の中物色してくる」
「それでどこ待まで聞けたんかいな?
御石様の身の上話は?」
「……」
先輩が家族の話をするときの辛そうな顔を払拭したくて。
俺はまず家族の話をせがんだ。
この地に降り立って数年経ってから上弓月村がダム底に水没するあの災害が起きて。
人々の怒りや悲しみを受けても、その頃の俺はまだ感情というものがあまり理解できていなかった。
だから、ずっと子宝に恵まれないー
それでいてこの村の神主という、場所としても申し分ない家の子供になったんだ。
今この村で起きてるように、俺に関する事柄を自然だと思わせるのは簡単だった。
この17歳の姿しかとれないからね、
そこも違和感を抱かせないように、ずぅっと…
歪な家族を続けてきた。
父親が老衰で亡くなる前、俺に“私の家の子供になってくれてありがとう”と言われたんだ。
その人は俺がずっと17歳なことも。
人ではないことも分かっていた。
おそらく元々神力の高い人間だったんだろう。
そういう人間には俺のまやかしみたいな力は効かないんだってこともその時初めて知った。
その男の妻はもっと前に病気で亡くなっているんだが、それでも俺がいた日々は心穏やかに過ごせていただろうと言われた。
妻は初めてのお産で子供が流れてから子供が産めない体になったと。
“まるで抜け殻のようだった彼女が最後に笑顔を取り戻せたのは、あなたが来てくれたおかげです”
きっとあなたは神様が遣わしてくれたんですねー
最期にそう言い残して父親は息絶えた。
俺は、その人の感謝の言葉に見合うほどのことは何もしていない。
人間の感情が知りたくて、あまつさえその実験材料にした。
謝ることもできなかった。
だからその人たちに報いるために、俺は神事を続けてる。
『これが、“与えられていたものが嘘だった”話。
俺は感謝されるだけのものをあの人たちに心の底からは与えられていなかったんだから』
だから偽物しか与えていない。
先輩は話し終わるとぼんやりと空を眺めた。
それはいつかの、流し灯籠を見ていた時のお兄さんと重なってー
思わず先輩の手を取る。
「俺はー
この村を離れて、先輩の記憶が消えても。
ずっとどこかで先輩を探してました。
先輩は、例えば俺にまだ言えてないことー
先輩にとっての嘘がまだ俺にあるとして、
俺が生きてこれた理由だって思ってるそれも、
根底に嘘があったらそれは全部偽物になりすか?
嘘だって、確かに救われた人がいるなら、そのまま受け止めてもいいんじゃないんでしょうか?」
「…分からないんだ。
そういう、
こういう嘘はついていいとか、
こうしてりょう君ばかり可愛いと思ってしまうのも。
平等じゃないよね?
それは俺の生きてきた世界では罪だったから」
だからいつか俺の必死に人間になれたと思った勘違いの振る舞いが君を傷つけてしまうんじゃないかってー
それが怖い。
「…先輩は、信仰する生きてる村人を追い出して、
信仰する死者も追い出して、
そうした先で、
神様をやめて、人間になってくれるんですか?」
この話になると先輩はキュッと口を噤んだ。
まだ言えない、ということだろう。
俺は後に、この時無理矢理にでも聞き出しておくべきだったと後悔することになる。
